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第32話 機体の方向性

 食事も終えてリヴィアとレナが片付けに入る。

 食べ残しを保冷して、食器を食洗機に入れるだけなので、あっという間に終わる。


「飲み物を入れます。アンジはコーヒーでいいですか?」

「頼む」


 リヴィウから聞いているのだろうか、リヴィアの煎れるコーヒーはアンジの好みを的確すぎるほど捉えている。

 アンジも手伝おうとしたが、リビングのソファに強制連行された。


「話したいことは山ほどあるんですが、何故リヴィアと模擬戦をしたかが聞きたいです!」


 リアダンが目を輝かせながら、みんなの意見を代表していった。


「何故って…… とくに深い理由はないが……」

「では何故ヴァレリアの機体に搭乗していらしたのでしょうか? ラクシャスに近い機体ならレナの機体も同じなはず」

「ふむ…… そうだな」


 アンジは言葉を慎重に選ぶ。彼女たちが真剣なあまり、迂闊なことをいうと違った意味に取りかねない。


「グレイキャットという組織。軍隊というか部隊だな。フーサリアという機種を運用する場合、ヴァレリアの機体はこうあるべき機体と感じたからだな」

「リヴィア。ヴァレリアの機体の解説をお願いできる?」


 リアダンがリヴィアに設計意図を求める。

 グレイキャットという部隊にこうあるべき機体。これ以上ない言葉だろう。

 今以上に詰めていく機会はそうない。


「ヴァレリアの機体はどの距離でも戦えるような汎用型ですね。ヴァレリアは意外と慎重ですが、ラッシュをかけるときは猪突猛進になりますから、敵の中に孤立しないように調整しています」

「意外とってなんだよー」


 ヴァレリアは近距離のラッシュは凄まじいが、普段は敵との間合いを重要視するタイプのパイロットだ。

 最適解はどの機体も変わる。


「リアダンのほうが猪突猛進かもしれないですわね」

「だから遠距離機にしています。そうすれば我を忘れることはないでしょう」

「手厳しいなボス!」


 リアダンは苦笑いする。確かにリーダーとしては向こう見ずなところがあり、部隊を俯瞰するように遠距離機仕様になっている。


「そうであるならば話は早い。リヴィアとレナの機体はラクシャスの戦術に合わせているということか」

「はい」

「うん」


 アンジはコーヒーをすすって一息つく。実際そうであると推測はしていたが、本人たちが認めた以上気付いた点は語らねばならない。

 何事においても、違和感を覚えた以上は洗い出し、注意する必要がある。


「私も詳細を伺いたいです。よろしいですよね?」

「もちろんだ」


 全員を見回して、膝に肘をおいて手を組む。


(君たちはラクシャスを過大評価しているといったら怒られるな。いや、俺自身が過小評価しすぎていたか)


 自分が戦い続けた日々を振り返ることは何度もあった。

 しかし評価したかというと、おそらくはない。結局は追い詰められ、投降した敗者。それがアンジの自身への評価だった。


「まず模擬戦をした理由からはじめようか」


 少女たちの視線がアンジに注がれる。

 アンジは期待を受け止め、語り始めた。


「自意識過剰でなければいいが。リヴィアのレナの機体を見た時、ラクシャスを模していると」

「事実です。私もレナもラクシャスの戦い方を手本としています」


 レナもこくんと首を振る。


「みんなが揃ったところで話してくれたよな。マカイロドゥスは新造兵器だと」

「はい。それがきっかけだったのですか?」

「そうだ。だからリヴィアとレナの機体を見た時に、惜しい・・・と思ったんだ。それを伝えたかった」

「惜しい、ですか。何か間違いがあったと?」

「そうじゃない。待ってくれ。整理して言葉をまとめる」


 何気ない一言が想像以上に彼女たちへ影響を与えることに気付いているアンジは、話す内容をまとめていた。

 少女たちは無言。むしろ期待を込めてアンジを見ている。


「ラクシャスはゲリラ特有の戦術と少数精鋭運用前提のフーサリアという機種の特性が噛み合っていたからだ。間違いならマカイロドゥスに搭乗しているリヴィアが天才パイロットとはいわれないはずだ」

「はい」


 アンジの語る真意を一つでも多く読み取ろうと、言葉の意味を加味しているリヴィア。


「マカイロドゥスはラクシャスがこうありたかったと思うような素晴らしい機体だ。おそらくそれはラクシャスのパイロットだった俺だけにしかいえない言葉だ」


 リヴィアが感激して涙目になる。これ以上ない賛辞だ。それを察したレナがそっとリヴィアの裾を掴む。


「ありがとうございます」

「本音だ。だからこそ惜しいんだ。ラクシャスの幻影に取り憑かれていないか心配になった。方向性は正しい。武装を削りすぎだ。もっと間合いを取ってくれ。戦闘の基本は射程外からの一方的な攻撃が望ましい。そうだろリアダン」


 あえて長距離兵装のリアダンに話を振る。


「そうですね。小隊での戦いならとくに。一方的に攻撃して相手の戦力を少しでも削りたいところです」

「ラクシャスの突き剣重視の戦い方は補給が見込めないからだ。極限まで節約する必要があった。少なくともグレイキャットのマカイロドゥスにそうする必要はないはずだ。ゾルザもいるならなおさらね」


 アンジは環境の違いを指摘する。


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