アンジの見解としては孤軍奮闘していた自分とは違う。組織であるシルバーキャットやAGIゾルザがいるなら過剰なまでの倹約思考は戦闘力を落とすことになるはずだ。
「私がいる以上、ここにさえ帰投すれば補給は万全です」
「今度はリヴィアにいるのかゾルザ。装甲材や弾薬に困ることはない。そうだな?」
「あるじ様の仰る通りです」
リヴィアの瞳が輝いている。先ほどのレナと同様、ゾルザが憑依しているとすぐにわかる。
「今のリヴィアとゾルザがポゼッションディープⅢか」
「二人羽織ですね」
リヴィアがくすっと笑う。ディープⅢはどちらにも肉体への主導権がある。
「話を戻そう。ラクシャスとマカイロドゥスは環境が違うんだ。近接重視でも、遠距離攻撃手段の一つはあったほうがいい。複数の兵装を搭載しろというわけではないんだ」
「それで実演してみせたということだね!」
リアダンの言葉にアンジは首肯して話を続ける。
「エースパイロット相手なんだ。見せたほうが早いだろ?」
「乗り慣れていない機体相手にあそここまで追い込まれるとは思いませんでした」
リヴィアは惚れ惚れするように感嘆の溜息を漏らす。むしろ嬉しそうだ。
「手札は多いほうがいい。要らなければその場で捨てたらいいんだ。可能ならあとで拾えばいい。遠距離仕様の機体が格闘戦に持ち込まれて、榴弾砲に固執する理由はないだろう。機兵は人型だ。臨機応援に兵装を選択できる」
「兵装を捨てる、ですか。対戦車槍であるコピアも使い捨て。もっと選択肢を増やす必要があると」
「ゾルザがいてくれる環境と補給状況を鑑みての提案かな。ゾルザが厳しいなら、この戦略は取らないほうがいい」
リヴィアと同期しているゾルザが、即座にアンジの意見を肯定する。
「お任せを。コピアに限らず兵装は基本使い捨てです。アンジ様の提案は、
「有効性はともかく、優位性とは?」
「どの時代の軍隊も兵站は最重要課題です。投降以外に武装を捨てるという選択肢がある軍隊など限られます。グレイキャットとゾルザという組み合わせならではの優位性です」
「煌星では廃品ですら貴重品になる場合もあるからな」
「宇宙艦ゾルザに積載限界なほどの機兵を用意して、兵站を同時に行うには厳しいですが、グレイキャット所属機なら十機程度、予備機も含めて一切問題ありません」
ゾルザは自分がいる前提の戦術を大きく評価する。アンジの根底にはゾルザがいるということだけでも誇らしいのだ。
「遠距離攻撃手段ですか。ではアンジは私とレナ、どのような装備がいいと思いますか?」
「俺だってゾルザがいる環境なら、兵装を足すよ」
アンジとしては心からの本音だった。これほど力強いAGIがいる環境なら、ラクシャスに兵装を加えていただろう。
「これから戦う敵機体にもよって変わってくる。それはこれからの課題だろう。今までのスタイルを踏襲しつつ、より有効的に使える自分に合った兵装を洗い出すんだ。そうだな――」
アンジはゾルザとレナの戦闘データを思い出す。
「今までのスタイルに一つ足す。二つ足すか、その一つを強化するかは二人に任せる。リヴィアもレナもアンジではない。特性が噛み合えば同じかもしれない。それぞれに合った武装があるはずだ」
「質問。ゾルザがいる環境なら、アンジはどんな兵装をラクシャスに付け足す?」
レナが真剣な瞳で問いを発する。
「破片を調整可能なプログラム弾を用いた長距離実弾系のライフルが欲しいな。ミサイルは迎撃したい。それがダメならビームライフルを集約、拡散できるものかな。俺は器用ではないからな。使う飛び道具は一つに絞る」
「なるほど。防御も考えて仕掛ける場合や牽制する場合も必要になり、突撃を警戒するとそのまま撃破可能な兵装ということですね」
「ヴァレリアの機体は使いやすかった。どの距離にも応じた兵装を搭載していたからな」
「確かにあたしも使い分けるよ。手数が多いほうがいい。ヴァレリアやレナほど近接戦が得意ではないし」
「そこはヴァレリアが器用なんだろう。リヴィアやレナは至近距離を意識しすぎて特化している。交戦相手に見抜かれて引き撃ちされたらまずい」
「身をもって教示してくれたわけですね」
「お手本のようだった」
リヴィアもレナも指摘された欠点の自覚はあったが、実際にされるとやはり苦手な間合いだった。
しかも自らの手本としていたアンジが身をもって示したのだから、かなりの懸念だったのだろう。
「実戦を遠のいていたが自分でも思ったよりは戦えた。マカイロドゥスが良い機体だってことだ。フーサリアの本領を発揮できる」
アンジはふと疑問を口にした。
「フーサリアの由来はなんだろう。地球におけるポーランドの精鋭ということしか知らないな」
「いい機会です。フーサリアとはなんなのか。みんなへのおさらいも兼ねて説明しましょうか」
リヴィアが立ち上がり、ゾルザに頼んで空中に映像を投影する。
歴史上にあるフーサリアと呼ばれる騎兵が語られようとしていた。