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第36話 環境への最適化装備

「ポーランドは再樹立できたのか?」


 ポーランドの名は地球にいた頃でも残っていた。


「はい。ポーランドという国は消滅しましたが、各地にポーランド人は散らばり再起を待ちました。ナポレオンがワルシャワ公国として再建。以後中欧に位置する国家となります。ワルシャワ公国は十年で滅びてロシアの支配下にあるポーランド立憲王国に。第一次世界大戦後ロシア帝国崩壊後、正式に第二ポーランド共和国という国号も復活しました」


「第二ということは、以前のポーランド共和国を継承国という自負か」


「ポーラ


ンド再建ともいえますね。その後も地政学的な位置により、ロシアの影響を受け続けました。常に複雑な状況に置かれていたといわれています」


「ロシア……ソビエト連邦とドイツ第三帝国か」

 アンジもようやく知識がある歴史に入ってきた。元々歴史は好きなのだ。


「ソビエトでもポーランド首都ワルシャワは重要な場所でした。1989年にソビエト連邦が崩壊。ポーランド共和国は民主化を遂げ独立国家の道を歩みます」


 興味津々なアンジに、内心歓喜しているリヴィアだった。

冷静さを保つためにリヴィアはソーサーを手に紅茶を飲み、一息つく。


「フーサリアの衰退は騎馬戦術が通用しなくなったからか?」


 アンジが疑問を口にする。華々しい戦果とは裏腹に、わずか一世紀の出来事だ。


「はい。では次はフーサリアの背景を説明しましょう」


 画像に当時のフーサリアが映し出される。


「フーサリアは豪華に飾った武具、馬、従者などの費用がかさみ、費用は貴族たちの重い負担になっていました。従者の武装も槍以外、貴族持ちです。また17世紀後半には貴族たちも戦争よりは商売に力を入れはじめた時期も重なりました」


「そして何よりポーランド=リトアニア共和国自体が百年以上の戦争で疲弊しました。コスト面もありますが、やはり槍からマスケット銃が戦場の主役になったことが要因ですね。そして運用しないうちに練度が低下して、突撃戦術や剣術すら忘れ去られました。時代は銃と銃剣突撃、レイピアからサーベルになったからです」

「ラクシャスは両手用のサーベルを作るまで苦労したな」

「両手用の剣術は日本では発展していますが、欧州や中東では盾を持つほうが主流でしたので基本はほぼ片手用です。ごくわずかな期間に両手用の刀剣は生まれていますが、一過性に過ぎず後世に残った現物もわずか。技法は失伝しています」


 画面から年表が消え、フーサリアが映し出される。まず槍が拡大された。


「それではフーサリアの装備を紹介します。多くの武装を従者にもたせて戦いました。主武器は柄が木製で中を空洞にして鉄で補強したコピアで使い捨て。国家が製造したことから世界で最初の均一性能をもつ量産兵器ともいわれています。この槍で突撃するからこその有翼衝撃重騎兵フーサリア


「品種改良を重ねたというポーランド共和国門外不出の軍馬は非常に高価でした。貴族は馬一頭を失うだけで破産に近付いたといわれています。100キロもの荷物を乗せても100キロ行軍できたというこの機動力の源である馬を国外に譲渡や売却した者は死刑です」


「突撃後の武装は多岐にわたします。突剣コンツェルシュ。大型の曲刀シャブラパワシュ幅広剣戦闘用ナヂィヤック戦闘槌ブズドゥィガン戦斧トポール長柄斧ベルディス。弓、火縄銃やカービン銃、ピストルなど状況や時代によって最適な武装が選ばれました」


騎馬に乗ったフーサリアの姿が映し出される。


「防具は初期と後期で装備が異なります。初期兜はヘルメット型のシザックやフルフェイス型のブルゴネット。胴体は喉当て、軽量な胸甲ハーフプレート、背甲、型甲。金属の腕甲。腰甲タセット腿甲キュイス膝甲ボレイン。金属鎧ながら総重量は15キログラム程度です。背甲は早い時期に廃止され革製の保護具になりました。盾は長方形のシールドですね」


 画像が煌びやかな騎馬に変わる。明らかに実戦向きではなかった。


「後期はオープン式の銃弾対策のヘルメット。実戦ではチェーンメイル。そして儀礼用に進化したスケイルメイルであるカラセナに変化していきます。カラセナはプレートメールより重く、装甲も薄いために実戦向きではなかったのです。トルコ由来の小型で丸状のシールドに変化しました」


「最後にフーサリアの特徴である飾りです。ワシ、タカ、ハヤブサなどの猛禽類が中心で、カラスやガチョウの羽根も用いられています。フーサリアのイメージとして背甲に備えられた翼状の騎兵はここから生まれましたが、実情は鞍に取り付けたものが多かったそうです」


「翼は威嚇効果が期待され、フーサリアの知名度ともに有効になりました。サーベルやタタール人が好んだ投げ縄から身を守る保護具の役割を果たしていたのです」


「装飾は宝石や金銀のネックレス。虎や豹の毛皮も使われ、もっとも美麗な騎士階級ともいわれました。部隊関係者も毛皮を好んで装備したといわれています。これがフーサリアの歴史ですね」


 画面が点滅して、その後の世界各地の紛争が表示される。


「その後の話を少しだけしますね。プロイセンは世界初のボルトアクションのニードルガン。ドライセ銃。その威力に恐怖したフランスはドライゼ銃の金属薬莢のボルトアクション後装式ライフルのシャスポー銃を開発。金属鎧を着た重騎兵そのものが歴史から消えました」

「重騎兵そのものが消えた、か」

「シャスポー銃も八年後にはグラース銃に改良されます。グラース銃を学んだ日本人村田は祖国で十三式村田銃を開発することになります」

「歴史のなかで突然日本がでてくると驚くな」

「リヴィウにお話を聞かせすぎましたね。私も興味をもってたくさん調べました」


 目を丸くするアンジに、リヴィアは思わずくすっと笑ってしまった。


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