「戦争は兵器を一変させます。やがて回転式ボルトや金属製カートリッジなど画期的な構造をもつモーゼルモデル1871が登場。1884にフランスでライフル用無煙火薬が発表されました。この炸薬を採用したルデル銃は既存の銃よりも煙が少なく三倍もの威力を誇り、各国もこぞって無煙火薬に追随。現存していた銃火器すべてを時代遅れにしました」
「時代遅れになったライフルはどうなったんだろう」
「バーゲンセールのように第三国へ輸出されましたね。戦乱は拡大して軍拡競争に繋がりました。そして第一次世界大戦を迎えます。フーサリアとも離れたので歴史はこれでおしまいです」
紅茶を一口含み、ようやくリヴィアは一息入れた。
「おつかれさま。リヴィア先生!」
ヴァレリアが笑いながらリヴィアを労う。
リヴィア先生はしっくりくると思ったが、これも口には出さない。アンジも学習しつつあった。
「やめてくださいヴァレリア」
「わかりやすかったよ!」
「ではヴァレリア。私達が乗っている機兵の
「え? えーと。少数で強い?」
「具体的に」
「リヴィアが教師モードに入った!」
リアダンが笑う。リヴィアはたまにこんなモードになるらしい。
「今説明された話で考えるとまず機動性、突進力、そして生存性能か? あとは維持費だな」
アンジが思いついたことを口にする。最後は苦笑する。ラクシャスはかたっぱしから残骸を使って原型を留めていないほど改装した。
「さすがはアンジです。ええ、機動性、突進力も大事ですが戦死者が少ない。これがフーサリア運用です。その運用ゆえ、そのコストも膨大ですね」
リヴィアが満足そうに微笑む。
「多様な武装もだな。しかし騎馬戦術は数を用意したライフルに取って変わられる。煌星でも同じで、時代はハザーだ」
「フーサリアが消滅した時代から遠からずナポレオンによる騎兵と砲兵の時代がやってきます。1800年代半ばにはマスケット銃からニミエー銃というライフルに変わり、狙撃兵も登場します。先ほどアンジに指摘された件ともかぶりますね」
「射程外の攻撃ですわね。アンジ様は本当にお手本のようでした。録画で見返す必要もありますわ」
「ないない。やめてくれ」
アンジが手のひらをふるふるさせてそんな必要はないと言い張っていた。
リヴィアは懸念があるようだ。
「フーサリアは重装甲機兵です。第一次太陽圏戦争でも、兵種は移行しつつありました。欧米の影響が強い地球圏では集団戦を想定した
「地球にはない兵種だったのか」
「地球圏にはありません。そして第二次太陽圏戦争でも引き続き使用された兵種もトルネードトルーパーやキャバルリィ、ライトドラグーンでした。煌星の
「歴史でも被弾をものともせず突撃する重騎兵は1870年の普仏戦争で最後。金属製の鎧は弾丸を防ぐことはできず、無力化された」
レナがぽつりといった。寂寥感を滲ませる。
宇宙戦争でもフーサリアは一時期のみ活躍した兵種であり、地球に歴史を倣ったかのような経過だったようだ。
「戦闘の基本は射程外からの一方的な攻撃が望ましいとはアンジ様も仰っておりました。ハザーの運用も組織的に変わりつつあります。今は近世ではないのですから、私達も対応する必要がありますわね」
「そうだねー。煌星の現状だとオーパーツに近いフーサリアに優位性があるけれど、煌星支部の連中やヴァルヴァ解放戦線もハザーの後継機を開発していると聞くよ」
「グレイキャットが目立つようになってきた分、そのうち軍との戦いもありますわね」
「今の所小隊規模での交戦だからなんとかやっていけてるだけだからね」
リーダーのリアダンとしても、小規模の衝突で済んでいる現状を運がいいだけという理解だ。
実のところ、彼女が冷静に戦場を選び、大戦力の依頼は避けるようにしていることはグレイキャットのメンバーも理解している。
「私達が使っている武装もおさらいしましょう。フーサリアは強力なリアクターを用いて専用武装も多いのです」
「まずボクたちが使った対戦車槍コピア。歴史のフーサリアと同じように使い捨てだね」
「近接兵装も豊富です。主武装の
「カービン銃やピストルはないけれど、ライトイオンビームライフル、レールガン式ライフルや機関銃、ショートバレルのカービンなど、人型と高性能リアクターを活かした豊富な武装だ。これらはハサーにも装備できるから遠距離火力では同等だね」
リヴィアとリアダンが現在シルバーキャットで運用している兵装をあげる。
「背面武装はミサイルコンテナのローンチポッドや曲射用の大型榴弾砲まで。リアダンやヴァレリアはこの兵装で敵に初撃を与えるんだ。リヴィアやレナは追加ブースターを使って加速力をさらに増す場合もあるな」
ヴァレリアが背面武装の解説をしてくれた。