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第39話 本人の目の前で

「至急解明すべき問題です。詳細な経緯を知りたいですね」


 リヴィアは至って真顔だった。


「本人が前の前にいるのに話せないぞ」


 アンジはヤドヴィガのほうに視線を送る。

 気まずいのだ。


「あら? 私は構いませんわよ?」

「変な誤解を生む前に話すか」

「わたくしも話しますよ。二人で当時のことを補足しましょう」

「そうだな」


 観念したアンジが、ヤドヴィガの祖父とのことを語り始めた。

 アンジは当時を思い出す。


「まずはヴィーザルの爺さんの話だな。ヴァルヴァってのは二種類ある。これは人間の俺が話すよりはヤドヴィガに頼もうか」

「承知いたしましたわ。皆さん知っての通り、ヴァルヴァは二種類あります。太陽圏歴1000年以降に生み出されて種として煌星に定着した者。そして今なお非合法な人工胎盤によって生産されている者たちです」

「定着した末裔が私やリアダン。新たに生み出された者がリヴィアやレナだね」

「生産という言い方は好きではないんだけどな。そこは置いておこう」


 アンジが苦笑する。物みたいな言い方であり、実際に物のように売り買いもされている。

 言い方を変えようとも、実際に工場で生産されている事実は変わりない。


「ヴァーザル家は初期ヴァルヴァ組から代々続く名門。地球社会に倣い侯爵の称号を拝命いてしております。本来は階級などあってはならないのですが、人が社会を作る上でAGIもない世です。ヴァルヴァは伴侶に人間を求めます。人間の血が強まり、また歴史を重ねることによってヴィーザル家はモレイヴィア国での発言力がそれなりにありました」

「俺はヴァルヴァの生産工場を解放して回っていただろ。でも助けたはいいが、大量の子供たちを今後はどうするって話だ。そこでヴィーザル家の義勇軍を頼ったんだ。解放戦線みたいな統治主義じゃなく、人間との共存派で有名だったカジミール上院議員なら信用できると思ってな」

「お爺さまは驚愕していましたよ。煌星支部とヴァルヴァ解放戦線を相手取ってヴァルヴァの非合法工場を解放していた者がたった一人だったという事実に」


 ヤドヴィガは祖父が好きだったのだろう。優しい表情になる。


「直接コンタクトを取ったことはなかった。あくまで義勇軍に報告してきてもらう形を取っていたんだが、ある日カジミール爺さんから連絡があったんだよ」

「祖父はレステック大統領と協力してアンジ様に解放されて預かった孤児たちを救済していました。しかし煌星支部は非合法にヴァルヴァを生産して軍資金に充てていたのです。そこで目障りとなった当家を殲滅しようと軍を派遣して夜襲を仕掛けてきたのです」

「それってほぼ俺のせいだろ。だからリヴィウが深く眠りについたときを見計らってありったけの高火力の武装をもって出撃したんだ。怒るなよリヴィア。終わったことだ」


 アンジは何故かリヴィアから物凄い目付きで睨まれて、口ごもる。

 そんなリヴィアをヤドヴィガがたしなめた。


「リヴィア。過ぎ去った危機ですの。今は聞いて下さいませ」

「ごめんなさい」


 リヴィアは素直に謝罪の言葉を口にする。

 レナが気持ちはわかるというように手を握りしめた。こうしてみると本当に姉妹のようだ。


「五十機以上のハザー部隊だ。随伴戦車や無人戦闘機もいたな。だから徹底的に複数の武装を使って、ラクシャス一機だと悟られないようにゲリラ戦に持ち込んだんだ」

「ヴィーザル家もアンジ様に救援要請はしたものの、当家の出来事。両親は戦争で無くなっており、祖父はレステック家やヴィーザル家など一部の者しか保有していない先祖伝来のフーサリア【ヴァルシュ】と従者のハザーとともに戦いに備えていたところ、すでに戦闘が始まっていたのです」

「駆けつけた時、背後からの奇襲になったことが幸いしたな。普段は使わないミサイル、ビームライフル、レールガン。ありったけの武装を一方的に叩き込んだ。森を移動して、盾を構えて。射程外から長射程兵器で徹底的な」

「模擬戦のときも本気ではなかった?」


 レナがぽつりと聞く。


「模擬戦も本気だったさ。ただ命のやりとりと模擬戦は違う。もっと徹底した引き戦術だったことは事実だ。数の差が圧倒的に違ったし、何より命がかかっている」

「五十機以上のハザーは、フーサリアでもきついよな」


 ヴァレリアが自分ならどう戦うか、模索する。

 どう考えてもきつい状況だ。


「斬り込んで来た奴も数機いたが、そこは返り討ちだ。サーベルでな。だから俺が撃破した機体は数機程度。あとはカジミールの爺さんたちの奮闘によるものだよ」

「聞いているだけでぞっとする」


 レナの本音だろう。リヴィアも先ほどのレナと同じように手を握り返す。


「おっとヤドヴィガ。今度は爺さん側の動きを頼む」


 アンジは誤魔化すかのようにヤドヴィガに話を振る。


「承知いたしましたわ。祖父の視点で話しましょう。背後から奇襲を受けて混乱している煌星支部の軍勢に、祖父たちは戦闘を開始しました。図らずも囮戦術ではありますが、ラクシャスが仕掛けたゲリラ戦も相まって事実上の挟撃となりました。当家の被害はハザーが一部損壊のみ。敵機であるハザーは四十五機撃破しました」


 ヤドヴィガが語る戦果は、それだけで凄まじいものであった。

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