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第63話 リアダン2

「落ち着いたところで話そう。子供の君が戦っている理由を」

「そこまでわかるんだ。凄いね」


 ラクシャスもハザーの腕部を離す。案内するかのように身を屈めてハザーは移動を開始する。ラクシャスはハザーを追随した。


「アンジ。今の誰?」


 始めて聞いた男性の音声に驚きを隠せないリヴィウ。


「ん? ラクシャスだよ」

「ラクシャスって会話できたの?」


 リヴィウもアンジの背後に数ヶ月いるが、ラクシャスとの会話は初めて聞いた。


「できるぞ。普段はディスプレイでやりとりしているが、いざというときは音声が手っ取り早いからな。教えてくれる」

「全然知らなかった」

「車のナビだって会話できるんだ。ハザーやフーサリアも会話は可能だ。制限はあるけどね」

「AGIのように意志があると汚染されて壊れちゃうヤツ?」

「そういうこと。とはいっても俺はラクシャスにだって魂みたいなものはあると勝手に思っている」

「ボクもそう思うよ!」

「だろ?」


 山の麓で先導していたハザーが駐機体勢になった。

 洞窟があり中から人間やヴァルヴァの幼い子供たちが飛び出してくる。森のなかから遅れて戻ってくる子供もいた。


「リアねーちゃん!」

「リア-!」


 ハッチの開いたハザーから人影が姿を見せる。一見少年のような姿だが、子供たちのいう通り少女なのだろう。


「リヴィウ。お前から先に降りてくれ」

「りょーかい!」


 アンジが先に降りると怪しまれる。同じヴァルヴァであるリヴィウに降りてもらうほうが子供たちの警戒心も解けるだろう。

 ラクシャスのハッチが開いてリヴィウが降りると、ダンと呼ばれた少女は驚いていた。


「あなたもヴァルヴァなの?」

「うん。ボクはリヴィウ。パイロットは別。相棒なのさ」


 アンジもラクシャスから降りて地面に立つ。


「ご覧の通り、相棒と二人旅をしている。俺の名はアンジ。君がリアねーちゃんか」

「あはは。ボクがリアです。一応男装してごまかしているんだけどね。あの子たち意味が分かってないから」


 苦笑するリア。リヴィウより二、三歳年上に見えた。


「とりあえず中に入ってよ。ここには煌星支部の連中も来ないから」


 リアと子供たちに案内され洞窟に入る二人。

質素ながら明かり、ベッドやクローゼッドなどが揃っている。


「電力はハザーのリアクターを使っているのか」

「わかるもんなんだね! そうですよ」


 ハザーの核融合路は低出力だが電気をまかなうには十分だ。


「どうしてこんな暮らしを? 食糧は?」


 リヴィウが洞窟内を見ながら尋ねる。


「食糧は大丈夫。畑とか放置されて人間とヴァルヴァだけが煌星支部崩れの野盗に誘拐されたからね」


 リアは棚に駆けよってりんごを二つ掴み、アンジとリヴィウに放り投げた。


「詳細を話す前におやつだよ。煌星リンゴだ。食べてみて」


 煌星の常夜、常昼環境でも育つよう品種改良された煌星リンゴだ。

 りんごを丸かじりする二人。


「美味しいな」

「おいしい!」

「日持ちもする。そこでダメ元なんだけど、誘拐された人たちを助けて欲しいんだ」

「いいぞ」


 この子供たちも放ってはおけない。深い事情があるはずだ。


「そんなあっさりと返事をして大丈夫なの?」

「あの機体はラクシャスといってな。煌星支部の連中に喧嘩を売りまくっていて少しは有名なんだ」

「少し所じゃないよ! あの機体がラクシャスなの?!」


 リアが驚きの声をあげる。解放者ラクシャスという機体は彼女も聞いていた。


「さっきも子供がいた。あの子たちが偵察しているのか?」

「うん。ヴァルヴァは脚も早いから。森のなかなら下手な自動車よりもはやいよ」


 子供たちも生き延びるために必死なのだと思うと胸が詰まるアンジだった。


「それよりもリア。君の方こそかなり無茶をしているな」


 アンジが心配になるほどだ。洞窟の奥には携行用ミサイルランチャーや機関砲がある。

 ハザーが戦場の主役である以上、生身での戦闘は基本禁止とされているが常にハザーがいるわけでもない。このような個人が携行できる兵器も存在する。


「無茶したねー。かなりしたかな。たとえばあの子たちに囮になってもらってさ。降りてきたところをハザーのコックピットに駆け上がって機体を奪った!」

「無茶すぎるよ……」


 リヴィウも言葉を無くした。

 そうせざるを得ない状況とはいえ、子供たちもリアにも危険すぎる行為だった。

「ボクは機兵の操縦経験があったんだ。駐機状態や停止状態だとセキュリティの関係で奪えないからね。稼働している状態のものを奪うしかなかったんだ。稼働中のコックピットなら機体使用者データを書き換えられたからね」


 からっと笑っているがリア本人がもっとも危険に身を晒しているのだろう。


「ハザーまで必要とは、誘拐された人々はどこに?」

「港の貨物船に捕らえられている。船はラダ大陸行きで、そこの開拓民として売られる予定。連中は空荷を嫌うからもう少しだけ人手を確保すると思うよ」

「南半球か……。地球でいえば北部ユーラシアだな」


 地球からきたアンジも煌星の地理には多少混乱するときがある。

 煌星と地球は自転が逆なので、南半球と北半球の概念が逆転している。


「これをみて」


 リアが携帯端末を取り出し、動画を投影する。

 貨物船に運ばれるコンテナに、人の集団がいた。


「ボクの姉夫婦も、この子たちの親も捕まったか、死んだか。もう後がないんだよ。モレイヴィアに助けを求めたいところだけど、ここは辺境すぎる。こんな面倒事に巻き込まれたくないはずなんだ」


 頭が冴える子なのだろう。だが冴えすぎて人に絶望している。


「コンテナ船の全容はわかるか?」

「これ。一隻しかないからね」

「明日救出に向かおう。リアにも手伝ってもらう。救出した人々を避難させないといけないし。それに……」


 その時はじめてアンジが言い淀む。


「それに?」

「おそらく短期冷凍睡眠ショートコールドスリープ状態になっている。コンテナに詰められてな。見たことがある」

「解凍できるかな……」

「船ごと抑えて、慎重に作業する必要がある。彼等は自分の身を守ることも難しいだろう」

「寝ているなら、仕方ないよね」

「子供たちにはここで待つようにいってくれ」

「わかった」


 アンジはいったんラクシャスに戻り、コックピットの端末から匿名で支援団体のいくつかに現状を通報する。

 機体IDで発信元がばれることは承知の上だが、次善の策だ。彼等が失敗したとしても、動いてくれる組織があれば即座に反応するはずだ。


「誘拐や人身売買を見過ごすようでは国家ではたりえないし、モレイヴィアはそこまで腐っていない国だ。リヴィウは子供たちと一緒にいてくれ。俺は一応見張りも兼ねてラクシャスで寝るよ」

「うん。子供たちも心配だしね」


 リヴィウはそういって洞窟に戻る。


「なんとしてでも助けてやらないとな」


 アンジはラクシャスのパラメータを確認し、戦闘に備えた。


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