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第64話 リアダン3

 夜更けのこと。

 リアはリヴィウのベッドまで用意してくれた。


「ねえリヴィウ。一つ質問していい?」

「ん? いいよ」

「どうして男の子の格好をしているの?」


 再び見抜かれ、苦笑するリヴィウ。


「すぐバレちゃうなあ。前別の子にもバレたんだよ。アンジには一緒にお風呂に入っても気付かれていないのに」

「お風呂に入っても? アンジは気付いてないの!」

「恥ずかしいっていってタオルぐるぐる巻きだったしね。気付いていないよ。それがいいんだ。アンジもそのほうが安心する」

「えー。どうせ助けるならそういう下心があるのかと」

「リアも男装しているもんね。アンジはそういう下心があると思われるのが嫌なタイプだから。ボクが男の子でいる方が都合いいんだよ」

「アンジと一緒にいて酷い目にあったことはないんだ。良かった」

「アンジはそんなことしない人だけど、一緒にいられるなら殺されたっていいよ。ボクを地獄から助けてくれた人なんだ」

「殺されてもいいって。女の子だってばれたら襲われちゃうかも?」

「そうはならないかな。アンジは真相を知るとボクを誰かに預けるよ。だからバレちゃいけない。そうなったら死んだ方がまし」

「リヴィウも必死なんだね」

「うん。バレないように必死」

「ボクなんて甥っ子がいつものようにお姉ちゃんって呼んじゃうんだもの」


 二人はくすくす笑う。男装している二人は同じ苦労がある。


「だからアンジは外にいるんだね。ボクたちを怖がらせないように」

「そうだよ。そういう人なんだ」

「優しいなあ」

「ラクシャスもボクを助けるために命名したんだよ! 漢字でこう書くらしい。羅刹娑ラクシャスだって」


 端末にラクシャスの漢名を表示する。


「これが漢字なんだね! 地球の東アジア圏にある地域だ」

「アンジは地球から移民してきたんだ。ご両親は煌星で亡くなったんだって」

「ボクの両親も戦争で。ボクは姉さんに育てられたんだ」

「なら絶対助け出さないとね!」

「うん!」


 リヴィウもリアのために何かしたいと思ったし、リアもこの二人になら頼ってもいいんだと思えるようになっていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


リアのハザーが先行してラクシャスが続く。

 森林地帯が終わり高台に到着する。煌星のこの時期は常に夜だ。

 目的の港町が見えた。閑散とした港には不似合いなコンテナ船が泊まっている。


「ハザーは九機機のはずだけど、六機だけだね。狩りにでているのかな」


 コンテナ船を護衛するかのようにハザーが三機ずつ、船首と船尾付近に立っている。


「どうやって救出しよう?」

「船を制圧して、救援待ちだ。いくつかの組織に通報もしてある。おそらく来てくれるはずだ。どこかの組織が」

「本当に来るのかな」

「来なかったら、戻ってきた連中を全員排除して、短期冷凍睡眠を解除していこう」


 アンジの懸念は短期冷凍睡眠の解除だ。生きた人間を冷凍睡眠から元通りにするには少しの操作ミスも許されない。


「そうだね。敵は六機だ。いけるかな」

「ラクシャスだけで十分だ。リアはここにいろ」

「え? でも」

「戦場を俯瞰しろ。ここにいて全体の動きを見るんだ。残り三機が戻ってくるかもしれない」

「そうだね。わかった」


 リアはアンジからみても異様に頭の回転が速い。リヴィウ並みで、年相応などといえない。

 だからこそこんな少女に戦場を俯瞰しろと無茶振りした。


「ラクシャスならではの奇襲を見せてやるよ。見張りは頼んだ」

「お手並み拝見、だね!」


 リアは目を輝かせ、軽口を叩く。

 アンジとリヴィウは笑みを浮かべ、ラクシャスは大地を蹴ってさらなる飛翔をした。


「え?」


 呆気に取られるリア。ハザーでは不可能な動きだ。

 ラクシャスはスラスターを全開にして、飛行している。人型兵器の運用ではない。


「しっかり捕まっていろよリヴィウ!」

「うん!」


 上空からの強襲。この戦術に対抗するには偵察部隊並みの高性能レーダーが必須だ。

 通常のハザーは歩兵の役割を担うものの、それなりの装備がなければ探知は不可能だった。


「おい! ハザーらしき物体が急速接近してくるぞ」

「ハザーにしては早くないか? どこにいる。森の奥か?」


 敵兵士もラクシャスに気付いたが、空中からの三次元機動は想定できない。

 頭上からの攻撃に為す術もなく爆発するハザー。ラクシャスの突剣から放たれるプラズマ砲弾の直撃を受けたのだ。


「なんだ?」

「上だ! 頭上に機兵がいる!」


 警戒中とはいえ頭上からの攻撃は想定していなかった。


「あんなに飛べるハザーがあってたまるか! トルーパーか?」

「トルーパーでも無理だぞ!」


 言い終えるまでに二機目も爆発する。

 ラクシャスが船尾近くに着地した。飛び立った地点は船首のほうが近かったので、歩哨任務中のハザーを全機飛び越えた形で着陸したのだ。


「残り四機」


 早めに倒さないと救援が来る。

 背後から突剣のプラズマ弾を叩き込み、ハザーは爆発した。


「あと三機。――違う。リアクター反応確認! コンテナ船内から!」


 リヴィウが緊迫した声をあげる。


「なんだと? 偽装艦か!」


 少しでも敵の数を減らすべく、一気に間合いを突き詰めて突剣で貫き、内部から破壊するラクシャス。


「甲板にエレベーターがある! 三機、上がってきている!」


 崖上から戦場を視認しているリアが、アンジに通信で警告する。


「ハザーじゃない? スラスターがたくさんついている。気を付けて!」


 リアは外観で異変を見抜いた。ハザーは大量のスラスターはつけない。フーサリアでもなさそうだ。

 未確認の機体も甲板から飛翔し、ラクシャスの前に立ちはだかる。


突撃機兵トルネードトルーパーか。てめえらがなんでここにいる。――太陽圏連合本部軍さんよ」


 アンジが吐き捨てる。身元割れを防ぐために会話する気はない。


「嘘。トルネードトルーパーがいるってことは本部軍ってこと?」


 リヴィウも知らない機体ではない。この機体がいる場合、背後に太陽圏連合軍本部の者がいるということだ。

 背後にいるリヴィウも緊張した面持ちになっている。


「リア。今すぐ洞窟に逃げろ!」

「嫌だよ!」

「こいつらは危険なんだ!」


 そういってアンジは通信を切り上げる。

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