『そこの機兵。投降せよ。さもなくば破壊する』
「投降しても殺されるだけだがな」
ラクシャスのコックピット内でアンジは呟き、楯を構えて突進する。
『投降する気はなしか。襲撃者の処刑を開始する』
トルネードトルーパーのパイロットがアンジに通達する。
ビームライフルとシールドを装備しており、両肩にはローンチポッドの重武装だ。
三機は同時にビーム弾を発砲し、ラクシャスはシールドで受け止める。
そのまま突進してトルネードトルーパーを突き刺そうとするが、敵機体もシールドで受け流す。
「アンジ! 右!」
リヴィウの声に反応して、右からプラズマサーベルを抜いて襲いかかってくるトルネードトルーパーの斬撃をかろうじて回避する。
無理な姿勢でラクシャスの各関節のアクチュエイターが軋むほどだ。
「シールドが!」
「大丈夫だ」
シールドを捨て、同様にプラズマブレードを展開して受け止めていたラクシャス。
プラズマブレードはエネルギー近接兵器。磁場を放出する芯からプラズマ相の金属をまとわせて実体剣のように触れることもできる刃とする。
この性質を利用してプラズマブレードにはプラズマブレードで受け止めることが可能なのだ。
ラクシャスは弾いた隙を狙い、トルネードトルーパーを斬り倒す。
「そんな武器あったの?!」
「奥の手だ。長時間使えないんだよ」
リヴィウも知らなかあったラクシャスの武装だ。
ラクシャスはビーム弾を被弾し続けている。装甲が強固なフーサリアでなければ撃破されているだろう。
シールドを構えている トルネードトルーパー相手に突剣は防がれる。
接射のプラズマ砲として使用し、トルネードトルーパーをノックバックさせ、姿勢が崩れたところを左手のプラズマブレードで斬り倒す。
「リアクターのプラズマ量が危険域だよ!」
「くっ」
ラクシャスは補給が受けられない前提の機体だ。すべてはリアクターが生み出す電力、そしてリアクター内のプラズマや生成される水素やヘリウムを消耗する仕組みで戦っている。
この戦い方はリアクターに相当な負担がかかっているのだ。
「背後!」
「ハザーか」
背後からの機関砲攻撃に、為す術もない。装甲だけが頼りだ。
不意に別のハザーが突進してきた。
リアのハザーだった。
「うわぁー!」
リアのハザーは農具を改造した槍しか武器がない。無謀であることはわかっている。
体が勝手にペダルを踏み込み、レバーを握りしめていた。
(ボクが巻き込んじゃったんだ! 一人だけ逃げるわけにはいかないんだ)
アンジは十分に戦ってくれた。せめて何かの役に立ちたかった。
「ぐぉ!」
加速を活かした槍の一撃はハザーの動力部を正確に貫いた。敵機のリアクターから爆発が生じて衝撃を受けたリアのハザーはバランスを崩して後ろによろめく。
「もう十分だ! 逃げろリア!」
アンジが叫ぶ。
「まだいたのか」
トルネードトルーパーはビームライフルを発射する。シールドもないリアのハザーは両腕でコックピットだけはガードするが、リアクターがある腰部を撃ち抜かれた。
「きゃあ!」
「リア!」
そういいつつも最大加速で踏み込んだラクシャスはトルネードトルーパーに襲いかかる。
極限まで腰を落とし、トルネードトルーパーを見上げる形になるラクシャス。
トルネードトルーパーはシールドで剣を警戒するが、ラクシャスは突剣を投げ捨て、サーベルに持ち替える。
屈んだ姿勢から、飛び立つような斬り上げを放ち、トルネードトルーパーのビームライフルを保つ右腕部を肘から切断した。
「ちぃ!」
トルネードトルーパーのパイロットが舌打ちし、即座に左手のシールドを捨てプラズマブレードに持ち替える。
ラクシャスもプラズマブレードを再び展開してかろうじて受けた。
「アンジ! 三機のハザーが接近中!」
「帰還した奴らか」
緊急の帰還命令が出たのだろう。出撃していたハザーも戻ってきたのだ。
『投降せよ襲撃者』
トルネードトルーパーのパイロットが再び呼びかける。
敵はまだ戦闘可能な状態だ。
「六機か……」
アンジもむざむざ負けるわけにはいかない。
トルネードトルーパーを倒しても、残り六機のハザーがいる。
ラクシャスは左肩を突き出す脇構えに似た姿勢でプラズマブレードの展開する隙を窺う。この構えは背後からの奇襲にも有効だ。刀身を展開していないので秘匿効果も高まる。
背後からの牽制射撃は続いている。もし切りかかってきた場合は厄介だ。
『そこまでだ!』
広域通信と共に海中から次々とハザーが上陸する。
シールドには剣と盾を持った人魚。これはモレイヴィア軍直属のエンブレムだった。
『投降しろ。抵抗するなら撃つ』
モレイヴィア軍の水陸両用ハザーだった。
『投降する』
モレイヴィア軍本体まで来るとは思わなかったトルネードトルーパーが武器を捨て、ハザーも続く。
「きてくれたんだ……」
アンジの背後でリヴィウが安堵の溜息を漏らす。
ラクシャスは遅滞なくリアのハザーに駆け寄り、コックピットハッチをむりやりこじ開けた。
血まみれになったリアがコックポートシートに倒れている。
「いってくる。待機してくれ!」
「うん!」
ラクシャスのコックピットハッチが開き、アンジが外にでてリアのいるコックピットに手を伸ばす。
「リア! 目を覚ませリア!」
呼吸はあるようだ。
リアはうっすらと目を開けて星空の向こうから心配そうに呼びかけているアンジの姿見えた。
自分が生きていることが不思議だった。ひどい頭痛がする。
「……」
リアは言葉にならなかった。星空を見上げるとアンジがいて手を伸ばしている。
彼女のためにどれだけの人間がここまで必死になってくれただろうか。