リアダンももう人の少女をみて絶句している。
「こちらが夫の部下レンカ。娘のブランジュとリアダンです」
「はじめまして。リヴィアです」
「はじめまして。レナです。本当にそっくりですね」
ウタから聞いていたのだろう。レナは無表情ながらも、そっくりであることを認めた。
「ブランジュです。こんな偶然もあるのですね」
リアダンはそれどころではなかった。探していた人物が目の前にいる。髪の色も名前も違うが、確信があった。
「リヴィウ? あなたリヴィウではないの? 子供の頃と髪色は違うけれど、染めていたし」
思わず声に出してしまった。
リヴィアが息を飲む。
「何故その名を? 髪色の件まで。――待って。あなたはリアですか! 名前が違うし!」
「そこはお互い様だよ! 黙って消えちゃってさ!」
リヴィアのほうもリアダンに気付いたようだ。
似た名前とはいえ、当時と違う名前の二人だ。
「あらあらまあまあ? まさかリアダンとリヴィアさんが知り合いだったなんて。世の中狭いわねえ」
「ママ。ボクはこの子とアンジに助けられたんだよ」
「――待ってください。その時、現場に私がいたんですよ。ブランジュがヴィドルド様とアンジ様に同胞の救助を願った時です」
レンかが割って入る。レンカはブランジュをアンジに託された時から、彼女を妹のように守ってきた。
「レンカがブランジュを保護した時の話ですね。特徴のないヴァルヴァを救って欲しいと願い、アンジ様がすぐに向かわれたと聞きます」
「私の願いにアンジ様はすぐに動いてくださりました。
今度はその言葉に反応するリヴィアとレナ。
「私は溶融炉に落とされそうになったところをアンジに助けてもらった。つまりあなたが私たちを助けるようにお願いしてくれたの?」
「……そうなりますね。レナさんも私も特徴がないヴァルヴァ。顔立ちもそっくり。生まれた施設が同じどころか、人工胎盤装置までもが同じだった可能性も高いですね」
「私がリア――リアダンと一緒にいた時ですね。時期も一致します」
四人のなかで急速にピースが埋まっていく。
「で、そのあとボクの元からリヴィウが消えた。アンジが溶融炉の危機に遭ったヴァルヴァを救出したあとで、リヴィウを迎えにきた…… 時系列まで繋がったじゃん」
ウタとレンカが顔を見合わせる。
これは大きな謎が解けた瞬間の一つなのだろう。
「思ったより深刻な話になりそうね。みんなで御夕飯にしましょう。レンカ。手伝ってくれますか?」
「もちろんですよ」
ウタが仕切り直すように言う。お互いの意見を整理すると、とりとめがなくなると判断したからだ。
長い夜になる予感がした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴィドルド邸にもう一人、追加の訪問者がやってきた。眼鏡をかけた聡明そうなヴァルヴァの女性だ。
「私も邪魔するよ。ウタ。久しぶりだね。一人前追加になるがいいかな」
快活な笑顔を浮かべている
「もちろんでございますとも。今日はこちらに宿泊されるとお聞きして大変嬉しく思います。あらかじめ仰っていただければもっと豪勢な夕食にしたのですが!」
「リヘザ様!」
レンカが絶句する。邪魔するよ、どころの話ではなかった。この国の大物だ。
レスリック大統領の妹にあたる人物だからだ。
「リヴィア。レナ。お前たちも泊まりだ。着替えももってきたぞ」
「嬉しいけどいいのですかママ」
「迷いがない。即断即決派」
リヴィアとレナも手際の良さに舌を巻いている。
「私は大歓迎よ!」
ウタが二人に安心するよう、笑いかける。
「私達に気遣いは無用。なにより黒豹のウタに娘を救ってもらった礼を直接言わないといけないからな。感謝する」
「レナ様が娘とそっくりなので我が娘が同じような目に遭うかと思うと、ついかっとなって」
娘そっくりの顔立ちの娘が誘拐されそうになる現場に、ウタは母猫のように怒りを爆発させてしまったのだろう。
「多くのの
「ウタ様、無茶しましたね……」
照れているウタ。
照れるような場面なのかと思う娘たち四人だったが、口には出さない。
「何やら娘たちが知り合い同士で、大きな謎も解けたというじゃないか! そんな面白そうな話を逃す私ではないよ」
「ママ!」
「私達はアンジという特異点で繋がっている家族といえる。ウタと娘たち、レンカもだ。立場や身分などの気遣いは無用。私や娘にも敬称をつける必要はない」
「もちろんです。リヴィアと呼んでください。リアダンも」
「レナです。敬称はいりません」
「ヴィドルドも兄にお願いして帰宅するよう促しておいた。すぐに帰ってくる。大家族になったが、兄に言わせると私は母性に欠けているからな。母親役は頼んだぞウタ」
「リヘザはとても良い母ですよ!」
「うん」
「リヘザ様も母親になられたのですね」
ウタが昔のリヘザを知っているのか、しみじみと呟いた。
「しみじみいうな。一応独身だぞ。それに昔のやらかし振りならウタに敵うものはいない」
「ノーコメントです」
レンカが気まずそうに目を逸らしたこと自体が事実を雄弁に物語っていた。
直後、ヴィドルドが飛び込むように帰宅した。
「みんな無事でなによりだ。リヘザ様、ご足労いただきありがとうございます」
「以前から様は不要だといっているが、軍人なら仕方ないか。なにはともあれ、貴殿がいないと話にならん。まずは食事だ。そのあとに娘たちがどうやら不思議な縁をもっているようだ。状況を整理して補足して欲しい」
「もちろんです」
「では両家が家族になった祝いの日だ。乾杯といこう。安酒でいいぞ」
「いいえ。家族になった記念ですから。家にある最高級のものをお出ししますので!」
ヴィドルド家とリヘザ家の交流会ともいえる食事会が始まった。
探り合いをいれるような娘たちにほくそ笑むリヘザ。こういう空気が大好きなのだろう。