食事を終え、歓談に入る一同。
リアダンとリヴィアがリアとリヴィウという偽名を名乗っていたことに断りをいれてお互いに知っていることを確認し、アンジがコンテナ船救出の話に及ぶとヴィドルドとレンカが話に加わる。
当時言葉もろくに話せないブランジュが必死にヴィドルドとアンジに仲間の助命を嘆願したこと。アンジが約束してくれたことをブランジュが自ら語った。
リアダンとリヴィアが洞窟に残って子供たちと生活を話す。
話の中心はレナとなった。溶融炉に落とされそうになったレナは間一髪ラクシャスに救助され大怪我を負ったが、後から救援に駆けつけたヴィドルドに預けられる。
ヴィドルドはレナを病院に預け、コンテナ船の被害者の回復を待ったあと、リアダンと連絡を取る。
リヴィアはリアダンに内緒で洞窟を離れてアンジと合流したところまでが語られた。
最後にアンジがヴィドルドに投降したこと。リヴィアがリヘザに預けられたこと、先にレナが養子になっていたことが明かされた。
「世間は狭いなぁ!」
リヘザは謎解きを楽しむかのように話を聞いていた。
「レナ、まだ言葉が少し苦手。でも同じような環境にいたブランジュは克服している。凄い」
「レナとリヴィアは飛び級で今年、大学を卒業しているのでしょう? そちらのほうがよほど凄いことだと思います」
ブランジュはレナを見た記憶はない。
しかし溶融炉がある工場という共通点と、顔立ちが酷似していることから生き別れの姉妹に等しいと感じた。レナもそう思っているだろう。
「あの当時、我が娘を救ってくれた姉がいたという事実は朗報だよ。これでヴィドルド殿と私も家族というわけだ」
「光栄というか恐縮というか……」
リヘザはモレイヴィア国のナンバー2といってもよいだろう。ヴィドルドが恐縮するのは当然だった。
「堅苦しいことをいうなよ! 私もアンジ殿には会ってみたいだがなぁ」
「足取りが掴めませんね。ヴァルヴァ解放戦線の動きのほうがよほどわかりやすいですよ」
「おお。そういえばウタが倒してくれた不埒者は連中か」
「はい。廃棄物狩りの名に借り
「その子たちは無事なのか?」
「はい。判明した限りでは全員無事です」
「それは何よりだ」
「すみません。神性寄りとはなんでしょうか?」
ブランジュが始めて聞く単語を尋ねる。
レナとリヴィアが身を強ばらせているところを見ると理由を知っているのだろう。
「ここにいる者なら問題ないな。説明してもいいでしょうかリヘザ様」
ヴィドルドがリヘザに確認を取る。
「構わんぞ」
「かつては
「今頃になって何故でしょうか?」
「ブランジュの疑問はもっともだ。多くの者がアンジ殿に救われ、そして成人になり教育を受けることができた。つまりは今までその能力を発揮する年齢まで生きたヴァルヴァが少なかったということを意味する」
「今まではろくに教育もされず、殺されていたわけですね」
事実を口にするブランジュだが、静かな怒りが秘められていた。
「ブランジュ。君が怒りを抱くのはもっともだ。私とてその真実を知った時は慟哭したものだよ。この二人もだ。今まで
「私だって怒りますよ。誘拐犯は今なおは廃棄物と呼んでいました」
「廃棄物のほうが扱いやすい、という理由だ。神性寄りと本人が知るTと雑に扱えないからな。まったくもって許せん話だ」
ヴィドルドは怒りを隠そうともしない。
「知っていれば殺していたかもしれないわねぇ」
ウタがほっとした表情でいった。
そんなふざけた理由で廃棄物扱いをした挙げ句に誘拐など、そのまま胸板を貫いているところだ。
「連中の言う廃棄物狩り。つまりは価値が高い特徴のないヴァルヴァを被差別対象に置くことで確保しやすくする。近年に煌星支部軍が使っていた手法だが、今回はヴァルヴァ解放戦線によって行われた。由々しき問題だ」
「同胞であるヴァルヴァ過激派も同様の価値観を有して神性寄りの確保にあたったわけですから」
レンカの表情は苦々しい。
「神性、という言葉にも疑問があります。AIやAGIに干渉することで何ができるのでしょうか? それまでのことなのですか?」
ブランジュは自分に関わることなので、誰よりも真剣だ。リヴィアやレナはすでに知っているのだろう。
「本命はAGIだ。AGIを一基でも動かすことが可能なら、文明の再復興にも繋がる。つまりは両組織とも神性寄りを集めて一発逆転を狙っているんだよ。神性寄りの中でもAGIに干渉する能力を持つ者は少ない」
「ボクたちも十分な文明をもっていると思うのですが」
リアダンが脳裏によぎった疑問を口にする。
「かつて太陽圏連合が誇った文明と比較するとな。我々の生活は太古の生活を送っているに等しい。AGIはまさに神ともいえるだろう」
「AGIは神様?」
「AGIは多くの民族や国家がモチーフとする神や精霊をAGIに名付けた。あやかるといったほうがいいかもしれん」
リヘザが太陽圏歴の先史文明を語り始めた。
「二度の
「そこまで今の文明とかけ離れているということなのでしょうか?」
「そこまでだよ。例には事欠かない。宇宙艦の製造技術。ヴァルヴァの生産工場。そして代表格は煌星を太陽の熱から守っている
「……ごくあたりまえにボクたちが恩寵にあやかっているものが、先史文明の遺産なんですね……」
「現行ハザーの核融合炉だって、ヘリオスウォー時代と比較すれば大きく品質が劣るものだ。AGIが稼働できたなら物質の定義まで変わってくる」
「文明の存続とはそこまで困難なものだったのでしょうか?」
「困難だよ。文明を存続させるためには単に技術者が生きていればいいという話ではない。まず高度な文明を享受している者たち。過去の概念でいえば先進国とモレイヴィアの田舎にあるような労働をしている途上国に分けられ、文明が存続するためには途上国がある必要はない」
「ママ、はっきり言い過ぎです」
リヴィアが苦笑する。自分達を途上の住人だと認めた形だからだ。