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第99話 リヴィア7

「手紙はどのように書こうか?」

「内容はリヴィウ。すべてお前が考えるんだ」

「え?」

「実際現場に戻って、お前が生まれた施設付近まで行くと複雑な感情が生まれるだろう。ありのままに書けばいい」

「でもボク、まだ字が下手で……」

「関係ない。一生懸命、丁寧に心を込めて書けばいい。そうでないと相手に伝わらないんだよ」

「……うん。やるよ」

「伝わらなくてもいい。大事でもあるし、伝わらない相手に固執しても仕方ないからな」

「伝わるように努力するよ」

「努力は大事だな。あとは受け手次第だ」


 子供が懸命に書いた手紙をスルーするなら、それまでの連中だということだ。


 評判の良いヴィーザル家でもそんな対応を取るようならアンジが一人で戦ったほうがマシだ。



「あれ。ラクシャス。武装を変えた?」


 リヴィウはラクシャスの武装がいつもと違うことに気付いた。


「装備もいつもとは違うからな」

「凄い。こんな重武装もあったんだ」


 リヴィウも初めて見るラクシャスの重武装。

 通常のラクシャスは突剣に小さな盾を装備し、小形のウィングスラスターを装備していた。

 今のラクシャスは突剣に巨大な盾。腰には機兵用のサーベルが装備しており、背中には通常時とは違う巨大なウィングスラスターが二基。

 ウィングスラスターにはウエポンラッチが供えており、巨大な大型ライフルと、珍しい両手持ちサーベルがそれぞれ吊してある。


「いつもこんな重武装だと目立つからな」


 リヴィウは改めて気を引き締める。アンジが本気だと言うことがこの武装から嫌でも伝わってくる。

 子供の戯れ言と受け流さず、真摯に受け止めてくれたのだ。


「フーサリア自体珍しいもんね」

「一見してフーサリアと見抜くヤツはそういない。正真正銘スクラップから組み上げたからな。戦って気付いた時にはもう遅い」


 涙を堪えてアンジの話に沿う話題を振る。

 アフロディーテ大陸ではまだ稼働しているフーサリアはあるが、多いとは言えない。

 先史文明の遺産に等しいからだ。

 今普及しているハザーは先史文明の機兵から開発された簡易量産型ともいえる。基本構造を模しているためフーサリアとのパーツの互換性も保たれている部位もある。


「本気で乗り込むんだね」

「そうだ。いくぞリヴィウ」

「うん!」


 入念な準備を終えた二人はラクシャスに乗り込み、リヴィウがかつて生まれた場所へと出発した。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 目的地付近でラクシャスは迂回する。

 小高い山岳地帯に向かい、リヴィウが示した座標を確認した。


「ラクシャスはこんな距離の望遠もできるの?」

「そういうセンサーもあるんだ。山岳地帯なら見下ろせるからな」

「やっぱりラクシャスは凄いや」


 少年が感嘆の声をあげる。

 その時アンジが緊迫した声をあげた。


「ビンゴだリヴィウ。ここにあっちゃいけないものがあった」

「何があったの?」

突撃機兵トルネードトルーパーが三機いる。ハザーの一個小隊だな。あの機体は太陽圏連合本部関係者しか調達できないはずの機体なんだ。俺も二回ほどしか見たことがないが、間違いない」

「太陽県連合本部って…… 煌星支部じゃないってこと?」

「本部は俺達と違って大昔の技術遺産がある。トルネードトルーパーもフーサリアほどの性能はないがハザーよりかは高性能だ」

「フーサリアほどではないの?」

「先史の太陽圏を巻き込んだ戦争でもフーサリアは特殊な機体でな。高性能で少数生産だった代物らしい。だから修理するにもスクラップを漁るぐらいしかないんだ。その点トルネードトルーパーは今の文明でも生産できる程度に落とし込みされている」

「そんなトルネードトルーパーがここにあるということが何よりの証拠なんだね」

「そういうことだ。もう少し周囲を確認しよう。ハザーが四機。これも小隊だろうな」


 トルネードトルーパーが駐機している地点を念入りに調査する。


「機兵整備用の倉庫がいくつかあるだけか」

「……アンジ。この倉庫だよ。この倉庫の地下でボクたちは生み出された……」


 リヴィウは無表情になって、モニタに映った建物を注視している。


「地下の空間は広大だよ。秘密基地のようになっている」

「そうか。座標を記録した。いったん戻るぞ。手紙の内容は決まったか?」

「決まった。頑張って書いてみる」


 ラクシャスの後部座席で文章を必死に書いているリヴィウ。

 一時間ほどかかったルートを引き返し、ヴィーザル家領地付近に到着した。



「ここから約五キロ先にヴィーザル家の騎士団がいる町がある。これ以上近付くと俺とラクシャスが警戒されちまう」

「走っていくよ」


 ヴァルヴァは人間と違って頑健だ。四キロメートルもの距離も走り抜けることは可能だろう。


「本当に大丈夫か?」

「アンジのほうが危険なんだから。ボクを信じて」

「任せたぞ」


 リヴィウはコックピット付近の格納ラダーを用いラクシャスから降りて町に向かって走り出す。

 心配そうに見守るアンジだったが、リヴィウの姿が見えなくなるとコックピットのハッチを閉めてラクシャスを稼働させる。


「あの子のためにもあの場所は解放しなくてはな。頼むぞラクシャス」


 リヴィウは町に向かって駆け抜けている。アンジの命がかかっている。それはもう必死だった。

 一方ラクシャスは先ほど記録した座標に向かうため、巡航速度で移動を開始した。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ラクシャスは迂回ルートではなく森林地帯を抜けて目的地点へ目がけて疾走する。


「仕掛けるか」


 トルネードトルーパーが三機一個小隊ということは整備や通信オペレーターなど十数名で構成されているということだ。

 本来何もない場所を警備するなどはあり得ない。


「確実に数を減らす」


 フーサリアはビームライフルではなく突剣を使う。被弾しやすい近距離戦から戦闘を始めるなど近代戦闘のセオリーからは外れるが、フーサリアは被弾前提の強固な装甲を誇る。

 突進力と突剣による貫通、内部から爆破するという手法で相手の数を減らし、一撃離脱を繰り返す。遠距離兵装はその時はじめて出番となるのだ。


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