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第100話 リヴィア8

「——まずは!」



 狙いを定めてトルネードトルーパーに急加速で接近して、突剣で穿ち抜く。突剣の先端にある砲塔から火を噴き、超高温のプラズマが放たれた。

 相手は反応ができないまま、内部から破壊された。


「て、敵襲?!」

「なぜこんなところを襲撃する? 我々はトルネードトルーパー部隊だぞ!」


 突如として出現した機兵にトルネードトルーパーを一撃で破壊されて動揺する僚機。

 すかさずビームライフルを取り出し、ラクシャスに向けて撃ち放つ。

 ラクシャスは盾を構えたまま突進し、ビームは盾に着弾して拡散した。


「防いだだと……」


 トルネードとルーパーのパイロットが言い終える間もなく、ラクシャスの突剣が胸部装甲を貫通しプラズマによって内部から爆散した。

 最後のトルネードトルーパーは攻撃するか撤退するか、逡巡した。


「お前で最後だ」

「やめろ!」


 突剣を盾の内側に引っかけ、サーベルに持ち替えたラクシャスはトルネードとルーパーのライフルをもった右腕部を切り飛ばす。

 返す刃で左腕部も切断した。


「命だけは!」


 ラクシャスはトルネードトルーパーを蹴り飛ばして仰向けに転倒させる。

 左脚部も切断した。


「ひぃ!」

「命だけは助けてやらんこともない」

「本当か?」

「返答に躊躇ったら殺す。——ここにある倉庫の地下に非合法のヴァルヴァ生産工場があるんだな?」

「どうしてそれを! ——ああ、そうだ!」


 剣先がコックピットのある胸部付近に突き立てられ、パイロットは慌てて肯定する。


「次の質問だ。他の工場はどこにある? 太陽圏連合本部の軍人さんよ」

「そこまでわかっているのか…… モレイヴィアの兵士か?」

「俺が質問している。お前が質問を返すな」


 金属音が響く。剣を装甲に突き立てているのだ。


「やめろ! 他に工場はあるが口頭で教えられるような特徴はないぞ!」

「そうか。ならトルネードトルーパーのコックピットのマップに工場がある地点をマークしろ。赤と青でな。そうしたらコックピットハッチをあけてでていってもいい」

「わ、わかった。——俺の知っている場所は全部マークした。これで勘弁してくれ」

「よし。あけて出て行って良いぞ。忠告だが倉庫付近に近付かないほうがいい」

「もうここは全部お見通しってわけか…… 降参だ。剣をどけてくれ」


 ラクシャスが剣を持ち上げる。不審な動作をしたらすぐに振り下ろせるようにしてある。

 コックピットハッチが開き、兵士が這い出る。やがて兵士は頭を一度下げ、森の中に消えていった。


「こいつはいったん移動させるか。まだハザーの部隊はきていない」


 ラクシャスはトルネードトルーパーの胴体を掴んで移動した。

 戦場と工場から離れた地点に同隊を投げ捨てる。


「時間が無い。あとで回収だな」


 アンジはその後、偽装された工場に向かい残りのハザーを撃破して制圧を開始した。 

 ヴァルヴァの子供が巻き添えになってはいけないので、いったん工場を離れて砲撃に見せかけて攻撃する。

 凄まじい速度で移動しては攻撃を繰り返すラクシャスを、敵は一人だと思わないだろう。 散発的に破壊活動を行う。


「地下に大きな工場がある。ラクシャスでいけるなら潜入するか」


 一人では降りることもままならない。あくまでラクシャスから降りないという前提だ。


『ヴァルヴァの工場関係者に告げる。ヴァルヴァの非合法生産は違法である。繰り返す。違法である』


 アンジはラクシャスからそれらしい警告を発する。


『もうじき軍本体が来る。無駄な抵抗はやめるように。トルネードトルーパーは排除した。繰り返す。トルネードトルーパー三機やハザーは排除した』


 トルネードトルーパーを排除できる戦力を持つ組織は少ない。

 何人かの人影がラクシャスを確認する。

 逃げ出す者もいたが、装甲車が出てきた。


『警告はした』


 突剣のプラズマで装甲車を砲撃する。

 一撃で装甲車が吹き飛び、他の軍事車輌も逃走を開始した。


 ひときわ大きな整備工場の倉庫がある。

 リヴィウが示した工場だ。 


「リヴィウ。頼んだぞ」


 ラクシャスは倉庫の扉を破壊し、内部に入る。

 慌てて外に逃げ出す人影。少なくとも二十名近くいる。


 倉庫の奥に地下へと続く巨大なスロープがあった。機兵に対応しているのだろう。


「この地下か」


 アンジは意を決してラクシャスを駆り、スロープを下り始めた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 巡回でとある町に立ち寄っていたヴィーザル領の騎士団長の一人ジャン・カロルは騒ぎに気付いた。

 子供の兵士が口論しているのだ。


「お願いします! 指揮官の人にこの手紙を読んでもらってください!」

「あのなぁ。坊主。そういうわけにはいかないんだよ。帰った帰った! せめて手紙の内容を言えば検討してやれるんだがな」

「手紙の内容もボクが書いたんです。信じてもらえないと思って。直接手渡したいんです!」

「ダメだ! 帰れ!」


 取り付く島もない兵士だ。

 嘆願は別ルートで通すべきであり、子供が直接していいものではない。

 ジャンは子供を見る。特徴の無いヴァルヴァで、廃棄物と虐げられている者たちだ。


「少年。私が拝見してもよいだろうか?」


 ジャンは兵士を宥めながら、少年に手を振る。


「ジャン騎士団長! ダメですよ!」

「……騎士団長?」

「そうだよ少年。はじめまして。私はジャン・カロル。ヴィーザル家に所属する騎士団長の一人だ」

「ボクはリヴィウといいます! ボクが生産された場所で起きていることを知って欲しくて手紙を書きました! その……読み上げると大変なことになるのでどうかこの手紙を読んでください! お願いします!」


 リヴィウは深々と頭を下げ、手紙をジャンに差し出した。

 ジャンは手紙を受け取り、目を通す。

 視線が見る見る険しくなる。


「君はそこで生まれた。今、君の保護者にあたる人物が一人で戦っている。そうだね?」

「はい。機兵に乗って救出に向かっています。防衛している部隊はトルネードトルーパーの小隊でした」

「トルネードトルーパーだと? 無茶すぎる! 詳細を聞こう。ついてきてもらうよ」

「はい!」

「衛兵。この少年は私が預かる」

「はっ!」


 リヴィウはジャンに連れられて宿舎に入る。


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