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第51話 ホスト⑥

「この状況から脱出するためって?」

 確かにここのところ、毎日の生活に張りが出てきてはいたが、だからと言って正義の味方をしてもなぁ。

「俺たち二人とも、このままだと一生フリーターだぞ。良くてな。場合によってはニートになることもある。いや、すでにあまり変わらない状況だぞ」

 桐山の言うことは俺も前々から思っていたことだ。

「それはそうかもしれないけどさ、それだったら就職活動を頑張った方がいいじゃないのか?」

 俺はそのうち正社員になろうと心では思っていた。なにも行動はしてなかったけど。

「お前、正社員になって毎日普通に仕事をしているだけでいいのか? だいたいそれもできないから、いまこんな状況になってるんだろ」

 桐山の言うとおりである。

「社畜になって一生終わりたいか?」

「それは、嫌だけど……」

「だったらさ、正義の味方をやろうや」

 しかし、どうしてその結論になるのかがわからない。

「でも、正義の味方をやっても金にならないし」

「それは心配するな。俺もいろいろ考えている」

「なにを?」

「正義の味方を商売にするんだ」

「それって探偵みたいなことか?」

「そうそう。要は報酬をもらって悪い奴をやっつけるってわけ」

 桐山がそんなことを言い出すとはまったく予想外だ。

「でも、そんなのうまくいくのか?」

「俺に任せろ。俺はこれでもいままでいろいろとビジネスの勉強をしてきたんだ」

「ホントかよ。全然知らんぞ」

「内緒にしてたからな。ま、とにかくだ。俺がマネージャー兼営業でお前が実行部隊ってことだ」

「つまり仕事はお前が取ってくるってわけか?」

「そう。もうある程度考えてるから、あとは実際にやっていくだけだ」

 俺はなんだか不安はあったが、桐山の提案も悪くはないと思った。

 確かにこのままどこかに就職しても、続けて行く自信はない。

 だったら、とりあえず桐山の言うとおりにやってみるのも良いのかもしれない。

 その後、缶チューハイを飲みながら、話は盛り上がった。


 翌日、バイト帰りのことだ。

 駅前で藤堂美紀を見かけた。

 相手は俺のことに気づいていない。

 俺は声をかけようかと近づいていくと、藤堂に話しかけた男がいた。黒いスーツ姿に金髪だ。見た感じからしてホストだろう。しかし、ルキアとは違う。

 俺は近づくのをやめて、様子を見ていた。

 二人はかなり親しげだ。

 同伴でもするのかと思ったが、藤堂は金がないはずだから、まさかホストクラブに行くなんてことはないはずだ。

 二人が歩き出した。

 俺は二人の後をつけた。

 直感的になにかあると思ったのだ。

 藤堂とホスト風の男は、腕を組んで歩いている。見たところ付き合っているようだ。

 二人はそのまま喫茶店に入った。そして、窓際の席に座った。

 それを確認すると、俺もその喫茶店に入った。そして、藤堂に見つからないように、藤堂の背後の席にそっと座った。

 俺は小声でコーヒーを注文した。

 二人の話が聞こえてくる。

「うまくいったわ。これでルキアはもうダメよ」

 藤堂が言った。

「フフフ、やったな。ざまあみろだ」

 男が言った。

「今月末に二百万は用意できないでしょうから、ルキアは絶対飛ぶわよ」

「そうだな。それにしても美紀は悪い女だよ」

「やだ、やらせたのはあなたじゃない、ウフフ」

「まぁ、そうだけどな。それにしてもこんなにあっさり騙されるとは思わなかったぜ」

「そりゃ、私の魅力だもの。彼、一時私にメロメロだったのよ」

「ほう、それはちょっと妬けるな」

「でも、そのおかげでルキアは店にいられなくなるわ。これであなたの恨みも晴らせたってことね」

「そうだな。あいつには前の店で散々いびられたからな。俺よりちょっと売り上げがあるからって調子に乗りやがって」

「アハハ、これでルキアはもう復活はできないわ」

 俺は二人の会話を聞いて身が震えた。

 藤堂は被害者面をしていたが、実はあれはすべて演技だったのだ。

 珍宝院が言っていた、おかしいと思うことには理由があるっていうのは、このことか。

「俺の方の売り上げにはちゃんと協力してくれよ」

「わかってるわよ。あなたの方はちゃんと払うから。そのためにこうやってマッチングアプリでカモを探してるんだから」

「いいカモはいたのか?」

「もちろん。モテないおっさんを釣ることぐらい簡単よ。今度のは役所勤めの公務員よ。四十代で独身の不細工な奴よ。いままで絶対モテてないから貯金もいっぱいあるはずよ」

「その貯金を全部いただくってわけだ」

「やだ、違うわよ。いただくんじゃなくて、男の方が払ってくれるんじゃない」

「フッ、まぁ、そういうことか。しかし、一回のデートで十万も取るなんてあこぎだね」

「あら、私ぐらいの美人とデートできるならそれぐらい安いものでしょう。それに私が十万払えって言ってるんじゃないのよ。男の方が勝手に払うんだから」

「よく言うよ。そう仕向けてるくせに」

 そう言って男は笑った。

 俺は状況がわかってくるとともに、女の怖さに身が縮みあがった。

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