藤堂がアプリで知り合った中年男性と会う日になった。
俺と桐山は、藤堂と男性が待ち合わせると言ってた場所に先に行って様子を見ていた。
それにしても、藤堂は余程自分のやっていることに自信があるのだろう。ヒリュウにペラペラと詳細を話していた。
そのおかげでこうして待ち合わせ場所もわかるのだが。
「相手の男ってどんなだろう?」
桐山が言った。
「どうかなぁ、まぁ、見た目はイマイチなんだろうけどな」
「そうだな。結局モテるかどうかなんて、ほとんど見た目だよな」
「そうだと思う」
「俺たちもモテないけど、見た目悪いのかな?」
「うっ、それは……」
痛いところを突いてきた。
俺も桐山も見た目はそんなに悪くはないと思っている。
確かにカッコいいかと言われるどうだったかかんがえと、そうだとは思わない。しかし、悪いかと言われると、それも違う。
「俺たちがモテないのは、見た目じゃなくて性格なんじゃないのか?」
俺が言った。
「それはあると思う。俺たちって結局、引っ込み思案なんだよな。女の子に積極的になれないんだよ。そうだ。それのせいだよ」
桐山は自分に言い聞かせるように言った。
そんな会話をしていると、
「あっ、あれじゃないか?」
と桐山が小声で言った。
「どれ?」
「ほら、あの地味なおっさん。グレーのスーツ着た」
桐山は指をさした。
俺が見ると、そこには確かにグレーのスーツを着た中年男性がいた。顔が特に不細工とかそういう感じはないが、全体的にかなり地味な雰囲気だ。明るさがまるでない。
「確かに。あれっぽいな」
「だろ。ぜったいそうだよ」
俺は時計を確認した。
そろそろ待ち合わせの七時だから、藤堂も来るはずだ。
俺は藤堂に顔を知られているので、できるだけ目立たないように気を付けた。
しばらくして待ち合わせの時間になったが、藤堂美紀は来ない。
「来ないな?」
桐山が言った。
「そうだな。あの男じゃないのかな?」
「どうだろう。ただ単に遅れてるだけなのかもしれないけど」
それからさらに十分たった頃、藤堂が現れた。急ぐという感じはなく、普通に歩いてきた。
「あっ、あれだ!」
俺が桐山に小声で言った。
「おっ、来たか。なるほど、確かに美人ではあるな」
と桐山。
「そうだろ」
そして藤堂は俺たちが思っていた男性のところに近づき挨拶をした。
それに対して中年男性は、ペコペコと頭を下げていた。
「やっぱりあのおっさんだったな」
桐山は当たったことが嬉しかったのか、少し声が弾んでいた。
「そうだな。じゃあ、後をつけよう」
俺たちは見つからないように、適度に距離を取って、藤堂と男性の後をついて行った。
人込みもそこそこあるし、まったくバレそうにはなかった。
藤堂らはそのまま歩いて、イタリアンレストランに入った。かなり高級そうな店だ。
「どうする?」
俺が桐山に訊いた。
「あんなところに入ったら経費が掛かって仕方がないよ。外で待とう」
アルバイト生活の俺たちでは、一生入ることがなさそうな店だ。これは仕方がない。
藤堂らが店に入って食事をしている間、俺と桐山は缶コーヒーを買って飲んだ。
世の中なんて不公平なんだ。
「この後、出てきたらどうすると思う?」
桐山が俺に訊く。
「たぶん、ホテルに直行だろう」
俺は答えた。
「まぁ、その可能性もあるとは思うが、ひょっとしたら今日はそれはないかもしれないぞ」
「なんで?」
「だって、お前の聞いたところだと、藤堂がこのおっさんと会うのは初めてだろう? それだとしたら貢がせるためには、そんなすぐにはホテルには行かないよ。むしろ引っ張るはずだ」
と桐山は言った。
「言われてみれば、そうかもしれないな」
「だろ? あの雰囲気からすると、今日はプレゼントだけもらって帰るんじゃないかな。おっさん、手に持ってただろ? ブランドの紙袋」
桐山に言われて俺はどうだったか考えた。
「確かに。お前、よく見てるな」
「まあな。それにあのおっさんの雰囲気からして、セフレを探している感じでもなさそうだしな」
「つまり、おっさんは真剣交際の相手を探していると?」
「そう。だとすると、初対面でいきなりホテルにはいかないだろ。それにあのおっさんの感じからして、経験も少なそうだしな」
桐山の言うことは的を射てると思った。
「それに、藤堂って女からしたら金を貢がせないとダメなわけだから、真剣交際を希望している奴じゃないとダメだろ。あのおっさんはそういう意味ではうってつけな感じだよ」
「モテない中年男性が、最後の望みに賭けて、金をどんどん使うってことか」
「そういうことだな。その気持ちを利用して、金を巻き上げるなんて卑劣な奴らだよ。まったく」
そんな会話をしていると、俺たちはさらにやる気になった。
「じゃあ、とりあえず、今回はあのおっさんに藤堂の本性を教えてやるってことでいいか」
俺が言った。
「そうだな。それでおっさんも目を覚ますだろ」
と桐山も返した。