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第55話 ホスト⑩

「これであのおっさんは藤堂と会うのをやめるだろうな」

 俺は言った。

「お前、甘いよ」

 桐山は顔を横に振った。

「なんで?」

「なんでって、お前は本当にわかってないなぁ。確かに俺の話を聞いたことで、いろいろ考えると思うよ。警戒もするだろう。だけど、まだ実際にはなにもしてないからな」

「つまり、もうちょっと会って様子を見るってことか?」

「俺ならそうするね」

 桐山に言われて、俺もちょっと考えてみたが、確かにすぐにはあきらめないと思えた。

 俺があのおっさん立場なら、桐山の話によって藤堂に警戒心は抱くが、それで会うのはやめないだろう。むしろその話は頭にとどめたうえで、その話が本当かどうか確かめたくなる。

「お前の言うとおりだな。じゃあ、どうしたらいいと思う?」

 俺はどうすべきかわからなかった。

「まぁ、とりあえずは俺たちも様子を見るしかないよ。金を貢ぐにしてもそんなにすぐじゃないだろうし。それにそういう話になったら、さすがにあのおっさんも警戒するだろうから、すぐに払わないだろう」

「なるほど」

 俺は桐山の言うことにいちいち納得できた。


 それから数日たった時、桜川から連絡があった。

 一度会って話したいというのだ。

 このタイミングからして、どうせ藤堂美紀のことだろうと察しがついた。俺も気になっていたので、ちょうど良かった。

 そして、バイト帰りに桜川と会った。

 初めに藤堂と三人で会った時と同じ喫茶店だ。ただし、今回は藤堂はいない。

「なにかあったの?」

 俺は会うなり質問した。

「実は、美紀があのホストにまたお金を請求されて、どうしても払えないからって断ったら、あのホストがまたフーゾクで働いたらって言って来たそうなんです」

 桜川は本気で藤堂のことを心配しているようだ。

 そんな桜川に、俺は藤堂が本当はどういう魂胆で行動しているのかを話した。すると、

「そんなはずないです」

 と桜川は俺の話に少しムッとした。

「そんなはずないって言っても、事実はそうなんだ。俺はこの耳で聞いたし、実際にアプリで知り合ったおっさんと会っているのも確認したんだ」

 俺がそう言うと、桜川は黙った。

 そしてなにか考えているようだ。

「でも、そう言われてみれば、なにかおかしいって感じはあったかもしれません」

 桜川がなにか思い当たるふしがあるようだ。

「なにかって?」

「それは、その……。彼女がお金がないって言っているわりには、いい服を着てるし、カバンとか靴とかそういうのも高いものばかり身につけているんです」

 桜川は慎重な物言いで話した。

 友達をまだ少し信じたいのだろう。

「確かに前にここで会った時もいい服を着てたように思う。その時は特になにも思わなかったけど」

「そうなんです。私も特になんとも思ってなかったんですけど、いまタカシさんの話を聞いて、思い返してみるとやっぱりおかしいですよね?」

「うん、お金がないって言いながらも、そういう風には見えないもんな。たぶん本人に訊いても、以前にお金がある時に買ったとか答えるんだろうけど、それでもやっぱりおかしい感じがするよね」

「します。ああ、私……。すみません。タカシさんに変なことを相談してしまって」

 桜川は申し訳なさそうに頭を下げた。

「いや、もうそれはいいよ。それより藤堂さんはルキアにフーゾクを勧められてどうするって言ってるの?」

「嫌だって。絶対にしないって言ってました。でも、お金がないし、このまましばらくどこかに逃げようかなって言ってました」

「なるほど」

 それを聞いて藤堂がどう考えているのがよくわかる。

 月末までに支払えなければ、ルキアがツケを被ることになる。そうなるとルキアは店を辞めるのか、それともどこかでお金を都合して支払いをして店に残るのか。ただ店を辞めても払うものは払わないといけないだろうから、ルキアは大変な状況になるのは明白だ。

 藤堂とあのヒリュウっていうホストは、それが狙いなわけだから絶対に払うわけがない。

 だけど、ルキアも必死だろうから、ギリギリまで詰めてくるだろうな。

 それがわかるから、しばらく連絡が取れない状況にしようってわけか。

「でも、タカシさんの話が本当なら、美紀は絶対に払わないですよね?」

「そうだね。払わないよ」

「あのルキアって人はどうなるんでしょう?」

「あいつは困った状況になるだろうけど、それは俺たちの関知するところじゃないんじゃない」

「そうですね」

 桜川はため息をついた。

「それよりも、友達の藤堂って人が騙すようにして男から金を巻き上げているほうが問題だよ」

「そう思います。ああ、美紀ったらどうしてそんなことを……。どうにかならないですか?」

 桜川は口惜しそうに言った。

「あの、それだったら、もうこれ以上あの子がそういうことをしないように、協力してくれない?」

「協力?」

「そう」

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