翌日、俺と桐山はバイトを早めに上がって、藤堂美紀を駅前で見張ることにした。
俺と桐山は駅前に着くと、物陰に隠れるようにして、藤堂が現れるのを待った。
時計を見るとそろそろ四時になる。桜川が言っていた時間だが、まだ藤堂の姿はなかった。
「本当に来るのか?」
桐山が心配そうに言った。
「うーん、どうだろ。でも桜川が言うには四時ってことだから、それを信じるしかないよ。それで来なかったら今日は帰るしかないな」
「そうだな」
そんな話をしていると、見覚えのある男が現れた。
ヒリュウだ。
黒いスーツでいかにもホストという感じなので、目立つからすぐにわかった。
「あれ、ヒリュウだよ」
俺が言うと、
「あの黒スーツか?」
と桐山が訊いてくる。
「そうだ。ってことは、やっぱり藤堂の会う相手はヒリュウということだな」
ヒリュウはスマホを取りだし、なにやら文字を打っているようだ。おそらく藤堂に連絡を入れているのだろう。
それから数分で藤堂が来た。
「あ、来たな。桜川の情報は正しかったみたいだ」
俺は少しほっとした。
藤堂とヒリュウが歩き出した。
俺たりはその後を気づかれないようにつけることにした。
藤堂とヒリュウはかなりベタベタとしている。歩きにくいだろと思うぐらいに腕を絡めていた。
そんな状態でしばらく歩くと、二人はファミレスに入った。
「どうしよう?」
俺が言うと、
「じゃあ、俺が一人で店にはいって様子を見てくるよ。俺なら藤堂も知らないから近くに行けるだろうし」
と桐山が言って、一人でファミレスに入って行った。
俺は外で待つことにした。
そして、三十分ほどすると桐山が出てきた。
「あれ、あの二人は?」
俺は桐山に訊いた。
「あの二人ならイチャイチャしてるよ。どうでもいい話ばかりになったから出てきた」
桐山はうんざりした感じである。
「それでなにか情報は得られたのか?」
「ああ、少しな。どこかその辺のカフェにでも入って話そう」
俺と桐山はファミレスからすぐ近くのカフェに入った。セルフサービスの店なので、それぞれカウンターでコーヒーを注文して空いている席に着いた。
「それであの二人はどんなこと話してた?」
「ルキアって奴のことを話してたよ」
「まぁ、そうだろうな」
「とにかくルキアっていう奴にあのヒリュウって奴はかなりの恨みがあることはわかった。理由はわからなかったけどな。それで、もうそろそろ月末だから、ルキアがやたらと藤堂って女に金払えって言ってきてるみたいだ」
「それは桜川も言ってたことだな」
「うん、それで藤堂はもう金のないかわいそうな女を演じるのが面倒になったから、どこかに身を隠すようなことを言ってたよ」
「なるほど。ま、普通そうするか。でも、どこに身を隠すんだ?」
「ヒリュウのところみたいだ」
「ああ、それが一番手っ取り早いか。それで月末までルキアから連絡を無視し続けるってわけだ」
「そういうことだな」
桐山はここでいったんコーヒーを飲んだ。
「でも、それならなんでさっさと身を隠さなかったんだろうな?」
「それは、あまり早く身を隠すと、ルキアが他から金を工面できてしまうからだろうな。あいつらの目的はルキアを困らせることだから、ギリギリまで引っ張っておいて、支払わないってしたかったんだろう。そうすることでルキアも月末に金が用意できないからな」
「そうか。そのほうがルキアとしては困るってわけだ」
「あくどい奴らだな」
「頭が良さそうには見えないけど、悪いことには頭が回るんだろうな」
「それで、藤堂がカモにしているおっさんの話はなかったか?」
「それも言ってた。月が替わったらまたデートするみたいだ」
「また食事だけって感じなのかな?」
「おそらくな。ただ、物騒な話もしてたよ」
桐山が少し声を落とした。
「なに?」
「おっさんとホテルに行ったところを、ヒリュウって男が出て行って脅すのもありみたいな話だ」
「要は美人局か?」
「そうだな」
「そうなると、完全に犯罪だな」
「ああ、そうだ。だから、俺思ったんだけど、とりあえずあのヒリュウって奴をやっつけようか?」
俺は桐山にそう言われて、心臓の高鳴りを覚えた。
「でも、いまはまだやってないのにやっつけるってのもなんか気が引けるなぁ」
俺は実際気が引けた。
確かに話を聞く限り、悪い奴ってことなんだろうが、実際に犯罪をしている現場でもないところでぶん殴るってのもおかしな感じがする。
「それもそうか。じゃあ、もうしばらく様子を見よう」
それからしばらく雑談をして俺たちはカフェを出た。
すると、藤堂とヒリュウもちょうどファミレスから出てきて、歩道を歩いていた。
俺は藤堂らに見つからないように、少し身を隠すようにした。
「あれ、誰かあの二人に近づいていくぞ」
桐山が言った。
「え?」
俺が藤堂の方を見ると、確かに男が一人近づいて行っている。黒いスーツ姿からしてホストのようだ。
そしてよく見ると、それはルキアだった。