俺たちが待っていると、ヒリュウと美紀が出てきた。
俺たちは物陰に隠れて様子を見ていた。
二人は夜の街を歩きだしたので、俺たちは後をつけることにした。
しばらく歩くと、ヒリュウと美紀は別れて、美紀だけが残った。
どうやらここで相手と待ち合わせているのだろう。
ヒリュウは少し離れたところで、その様子を見るということのようだ。
「これからたぶんアプリで知り合った相手と会うんだろうな?」
俺が言った。
「そうだと思うよ。ここで待ち合わせて、そのままホテルにでも行くんじゃないのかな。美人局なら食事とか回りくどいことをせずに、そのままホテルに行ったほうが早いからな」
「それでホテルでヒリュウが登場ってわけか」
「そういうことだ」
「でも、そういうのって相手の男がすんなり金を払うのかな?」
「相手次第じゃないの。気弱な男ならヒリュウに脅されたらすぐに払うだろう」
「じゃあ、そういう相手を美紀は選んでるってことか?」
「たぶんな。それでいてこういうことが、要はアプリで出会った女を買っているようなことがバレたらまずい立場の人だとなおいいってことだろう」
「それって、どんな立場だ?」
「うーん、既婚者とかかな。ただ、いずれにしてもこういうのって売春になるだろうから、たぶん違法だろ。それならまともなところで働いている人なら誰でもマズいって思うんじゃないの」
「それもそうか」
そんな会話を二人でしていると、美紀の前に男が会わられた。
男は中年の地味な男だ。中川と同じタイプである。
「あれだな」
と桐山が言う。
「そうだな。美人局とも知らないでノコノコやってくるんだな」
「まったくだ。フーゾクに行っておけば危ない目にも遭わないのにな」
美紀と男は歩き出した。
俺たちはそれとなく後をつけようと思ったが、その前にヒリュウの動きを確認した。
するとヒリュウが美紀の後ろをつけるように歩きだしたので、俺たちはそのさらに後をつけることにした。
「このまま行くとホテル街だな。ってことはやっぱりホテルに直行だな」
桐山が言った。
「そうなると、まずは美紀と男がホテルに入るだろ。それから頃合いを見てヒリュウが行くってことだな」
「そうだな。だからお前はそこに出て行って二人を倒して男を助けるって形だ」
「了解」
案の定、美紀と男は一軒のホテルに入った。その様子をヒリュウは少し離れたところでそれとなく見ていた。
それをさらに俺たちが見ている状況だ。
「どれぐらいでヒリュウは乗り込む気なんだろうな?」
「さぁ、俺も美人局の経験がないからなぁ。ただ、普通に考えたら二人が裸になったあたりじゃないのか?」
「それってどれぐらいの時間だ?」
「うっ、それも経験がないからわからないよ」
桐山は下を向いた。
「どっちにしてもヒリュウが動いたら、俺も動けばいいな」
「そうだ。準備しとけよ」
俺はカバンからマスクとマントを取り出した。
子供の頃見ていた正義の味方ってもっとカッコよく変身してたけ現実にはあんなのは無理なわけで、俺は物陰でコソコソとマスクとマントをつけてるのだ。
そして俺が準備ができたあたりで、
「あ、ヒリュウが動いたぞ」
と桐山が言った。
「よし、じゃあ、俺も行ってくる」
俺はマントをなびかせながらホテルに向かった。
「あ、待て待て!」
桐山が俺を止めた。
「なんだ?」
「お前、準備しとけって言ったけど、まだ変身は早いよ」
「え?」
「その恰好でフロントを通るのはマズいって」
「あ、それもそうか」
「そうだよ。さすがに止められるぞ」
俺は急いでマスクとマントはずしてカバンに入れた。
「そう。それでそれとなくホテルに入って、部屋の前で着替えるんだ」
「わかった」
俺はカバンを持ってホテルに入った。
ラブホテルなんていままで入ったことがない。
普通のホテルのようになっているのかと思ったら、フロントはあるにはあるが、部屋の写真が載っている掲示板のようなものがあるだけだ。
ラブホテルってこんな風になってるのか。
なるほど、これなら他人と顔を合わせなくていいよな。
俺は変なところに感心しながら、ヒリュウの向かった部屋を探した。
よく考えたらどの部屋に行ったのかわからない。
俺はキョロキョロしながら廊下を歩いた。幸いホテルは大きくはない。少し歩いて探しているとヒリュウの姿が見えた。
俺は慌てて身を隠し、様子をうかがった。
ヒリュウはドアの前で聞き耳を立てていた。
中の様子をうかがっているのだろう。
そして、しばらくするとドアをノックした。するとドアが開く。中から美紀が開けたのだろう。
「お前、なにやってんだ!」
とヒリュウの怒声が聞こえてきた。
俺は急いでマスクとマントを取り出し、変身した。
そして、部屋へと向かった。