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第67話 美人局⑧

「しかし、そうだとするといったい誰が中川を殺したんだ?」

 俺は疑問をそのまま口にした。

「それは俺もわからないよ。美紀とミズキの二人にもわからないようだったしな」

「そうか……。それにしても姉と妹で同じ男を狙ってたなんてなぁ。目的はまったく違うけど」

「そうだよな。でも、美紀が中川を狙っていたことは、ミズキには話していないみたいだ。むしろ中川のことは知らないというスタンスで話してたな」

「あ、そうなんだ。でも、それもそうだよな。美紀の方は初めは貢がせるためだったし、途中からは美人局のカモって思ってたんだから、ミズキに話すのはマズいよな」

 桐山の話からすると、中川のことは藤堂の姉妹は無関係のようだ。

 それならそれでいい。

 俺たちは別に警察の仕事を変わってする必要もないんだ。

 中川のことは警察が捜査してくれればいいのだ。

「美人局のことはなにかわかったことはないのか?」

 俺が訊いた。

「それはないな。たぶんミズキにはそのことはなにも話していないんだろうな。それにこれからする犯罪の話をいくら妹だとしてもしないだろ」

「それはそうだな」

「それに、美紀が話すというよりも、ミズキがいろいろと話を聞いてもらいたそうにしゃべってたよ。美紀は聞き役という感じだった」

 話はそれで終わった。

 桐山はまた明日から藤堂美紀を尾行するということだ。

 それにしても、その熱量はなかなかのものだ。


 数日後、俺がバイトを終わって帰っていると、珍宝院が現れた。

「あ、お久しぶりです」

「元気にしとるか?」

 珍宝院は相変わらずだ。

 ボロボロの着物姿である。

 俺たちは歩きながら話した。

「中川のことは驚いたか?」

 と珍宝院が言った。やはり知っているのだ。

「驚きましたよ。いったい誰が犯人なんですか?」

 珍宝院は誰だか知っているはずだ。

「そんなことは気にせんでええよ。どうせすぐに捕まる」

「そうなんですね」

 珍宝院の言葉を、もうすぐ警察が捕まえて犯人がわかるという意味で俺は解釈した。あまり珍宝院にそれ以上は訊きにくかった。

「それよりも、美人局の方はどうなっとる?」

「それはいま友達が見張ってるんで、そのうち実際の犯行現場でやっつけます」

「そうか。友達も大変じゃろうな」

「でも、あいつはそういうのを楽しんでやってるみたいですから」

「楽しんでるか。ワッハハハ」

 珍宝院は楽しそうに笑った。

「ほれ、これを飲め」

 珍宝院がいつものビンを取り出した。

 俺はそれを受け取り飲んだ。

「それじゃあ、わしは行くからの。もう少ししたら友達から連絡があるぞ」

 珍宝院はそう言うと、そのまま人ごみの中へと消えて行った。

 桐山から連絡があるとは思っていたから、珍宝院に言われてもなにも驚かなかった。そもそも桐山は毎日連絡してくるからだ。

 俺は家に帰った。

 すると桐山から連絡が来た。

 いつもよりも早い。

「どうかしたのか?」

 俺は早いので気になった。

「美紀が誰かと会うみたいだ。いま出かけた」

 桐山は小声で言った。

「また変化があったら連絡する」

 そう言って桐山は電話を切った。

 珍宝院がわざわざ連絡があると言ったのは、動きがあるということだったのだ。

 俺はそわそわしてきた。そして、いつでも出かけられるように、カバンに桐山の用意したマスクとマントを入れた。

 それから一時間ぐらいたった時、また桐山が電話をかけてきた。

「美紀がヒリュウと会った。雰囲気的に今日美人局をするような感じがするぞ」

「よし、じゃあ、俺も合流するよ」

「すぐ来てくれ」

 俺は桐山に場所を聞き、急いで向かった。

 俺が行くと、桐山が路上で立って待っていた。

「この中にいま二人はいるよ」

 桐山が指したのはチェーンの居酒屋だ。

「ここで犯行前の腹ごしらえか」

「前に美紀とミズキが会ったのもここの居酒屋だよ」

 と桐山が言う。

「ふーん。それで、なんで今日やるような気がしたんだ?」

「それはヒリュウの顔つきというか、漂わす雰囲気というか、緊張してる感じがあったんだよ」

「なんか曖昧だな。要するに勘でそう思ったってわけだ」

「まぁ、そうなんだけど、俺の勘は結構当たるだろ?」

「確かにな」

 美紀とミズキが関係していると当てたのだから、多少は信じてもいいのかもしれない。

「まぁ、今日やってくれたら助かるよ。もう俺もさすがに毎日のように尾行するのに疲れたし」

 桐山がそう思うのももっともだ。

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