「しかし、そうだとするといったい誰が中川を殺したんだ?」
俺は疑問をそのまま口にした。
「それは俺もわからないよ。美紀とミズキの二人にもわからないようだったしな」
「そうか……。それにしても姉と妹で同じ男を狙ってたなんてなぁ。目的はまったく違うけど」
「そうだよな。でも、美紀が中川を狙っていたことは、ミズキには話していないみたいだ。むしろ中川のことは知らないというスタンスで話してたな」
「あ、そうなんだ。でも、それもそうだよな。美紀の方は初めは貢がせるためだったし、途中からは美人局のカモって思ってたんだから、ミズキに話すのはマズいよな」
桐山の話からすると、中川のことは藤堂の姉妹は無関係のようだ。
それならそれでいい。
俺たちは別に警察の仕事を変わってする必要もないんだ。
中川のことは警察が捜査してくれればいいのだ。
「美人局のことはなにかわかったことはないのか?」
俺が訊いた。
「それはないな。たぶんミズキにはそのことはなにも話していないんだろうな。それにこれからする犯罪の話をいくら妹だとしてもしないだろ」
「それはそうだな」
「それに、美紀が話すというよりも、ミズキがいろいろと話を聞いてもらいたそうにしゃべってたよ。美紀は聞き役という感じだった」
話はそれで終わった。
桐山はまた明日から藤堂美紀を尾行するということだ。
それにしても、その熱量はなかなかのものだ。
数日後、俺がバイトを終わって帰っていると、珍宝院が現れた。
「あ、お久しぶりです」
「元気にしとるか?」
珍宝院は相変わらずだ。
ボロボロの着物姿である。
俺たちは歩きながら話した。
「中川のことは驚いたか?」
と珍宝院が言った。やはり知っているのだ。
「驚きましたよ。いったい誰が犯人なんですか?」
珍宝院は誰だか知っているはずだ。
「そんなことは気にせんでええよ。どうせすぐに捕まる」
「そうなんですね」
珍宝院の言葉を、もうすぐ警察が捕まえて犯人がわかるという意味で俺は解釈した。あまり珍宝院にそれ以上は訊きにくかった。
「それよりも、美人局の方はどうなっとる?」
「それはいま友達が見張ってるんで、そのうち実際の犯行現場でやっつけます」
「そうか。友達も大変じゃろうな」
「でも、あいつはそういうのを楽しんでやってるみたいですから」
「楽しんでるか。ワッハハハ」
珍宝院は楽しそうに笑った。
「ほれ、これを飲め」
珍宝院がいつものビンを取り出した。
俺はそれを受け取り飲んだ。
「それじゃあ、わしは行くからの。もう少ししたら友達から連絡があるぞ」
珍宝院はそう言うと、そのまま人ごみの中へと消えて行った。
桐山から連絡があるとは思っていたから、珍宝院に言われてもなにも驚かなかった。そもそも桐山は毎日連絡してくるからだ。
俺は家に帰った。
すると桐山から連絡が来た。
いつもよりも早い。
「どうかしたのか?」
俺は早いので気になった。
「美紀が誰かと会うみたいだ。いま出かけた」
桐山は小声で言った。
「また変化があったら連絡する」
そう言って桐山は電話を切った。
珍宝院がわざわざ連絡があると言ったのは、動きがあるということだったのだ。
俺はそわそわしてきた。そして、いつでも出かけられるように、カバンに桐山の用意したマスクとマントを入れた。
それから一時間ぐらいたった時、また桐山が電話をかけてきた。
「美紀がヒリュウと会った。雰囲気的に今日美人局をするような感じがするぞ」
「よし、じゃあ、俺も合流するよ」
「すぐ来てくれ」
俺は桐山に場所を聞き、急いで向かった。
俺が行くと、桐山が路上で立って待っていた。
「この中にいま二人はいるよ」
桐山が指したのはチェーンの居酒屋だ。
「ここで犯行前の腹ごしらえか」
「前に美紀とミズキが会ったのもここの居酒屋だよ」
と桐山が言う。
「ふーん。それで、なんで今日やるような気がしたんだ?」
「それはヒリュウの顔つきというか、漂わす雰囲気というか、緊張してる感じがあったんだよ」
「なんか曖昧だな。要するに勘でそう思ったってわけだ」
「まぁ、そうなんだけど、俺の勘は結構当たるだろ?」
「確かにな」
美紀とミズキが関係していると当てたのだから、多少は信じてもいいのかもしれない。
「まぁ、今日やってくれたら助かるよ。もう俺もさすがに毎日のように尾行するのに疲れたし」
桐山がそう思うのももっともだ。