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第66話 美人局⑦

 翌日からも桐山はヒリュウを見張った。

 そして数日が過ぎた時、桐山が連絡してきた。

 俺は桐山と会った。

「藤堂美紀の家もわかったよ。ヒリュウの家から少し電車に乗っていったところだ」

 桐山が言った。

「ご苦労さん。それにしても、お前ってこういうの得意だったんだな?」

「まぁ、俺も自分でもちょっとびっくりしてるよ。いままで我慢するとかって苦手だと思ってたけど、いまは楽しくて仕方がない」

「それは良かったな。ところで、これからどうする?」

「美人局をやるだろうから、どっちかって言うと藤堂を見張ってた方がいいだろうな。まずは藤堂が標的の男に近づくだろうから」

「そうだな。その方が俺もいいと思う。じゃあ、そうなったら俺の出番だな」

「うん。実際にヒリュウが登場って場面になったら、お前が出て行って二人をやっつければいい」

 俺の出番はまだ少し先になりそうだ。

「藤堂はどこで標的を見つけると思う?」

 俺は桐山に訊いた。

「おそらくまたマッチングアプリだろ。いまはあれが一番手軽だしな」

「やっぱりそうだよな。じゃあ、今度はしばらく藤堂を見張るのをよろしく頼む」

「オッケー」


 翌日から桐山は藤堂を見張りだした。

 しかし、特に変化がないと毎日のように連絡があった。

 それも仕方がない。早くして欲しいが、悪いことを早くして欲しいと願うのもなんだか変だ。

 そして、桐山が藤堂を見張って一週間が過ぎようとした時に、桐山が昂奮気味に電話をかけてきた。

「おい、大変だ。中川が死んだ時に会ってた女と藤堂が会ってるぞ」

 と桐山は焦った調子で言った。

「中川が死んだ時って、あの若い方か?」

「そう。あのホテルに一緒に行ってた若い女がいただろう。あれだ」

「なんでだ?」

「そんなのはわからんけど、とにかくいまから二人を尾行してなにかつかめたら報告する」

 そう言って桐山は電話を切った。

 いったいどうなっているんだ?

 でも、これであの女と藤堂がつながりがあることがわかった。

 と言うことは、中川の事件に藤堂やヒリュウが関係しているのかもしれない。

 桐山の勘が当たっていたのかも。

 その日の夜遅く桐山が家に来いと連絡してきた。

 俺は結果が聞きたかったので、深夜に桐山の家に行った。

「こんな遅くにすまん。明日でもいいかと思ったけど、早い方がいいと思ってな」

 桐山はそう言って話し出した。

「あれから藤堂と若い女をつけて行ったら、二人で居酒屋に入ったんだ。どこにでもあるチェーンの」

「ほう」

「だから、俺もその店に入ってすぐ隣の席に座って聞き耳を立てておいたんだ」

「まぁ、お前は顔を知られていないからな」

「うん。それでわかったんだが、あの二人は姉妹だ」

「姉妹!」

「そうなんだ。俺がなんとなく藤堂やヒリュウと関係がありそうだって思ったのはそれだったんだよ。二人が並んでいるのを見てたら、二人がよく似てるんだよ」

 そう言われて、俺も思い返してみると、確かに二人は似ていた。

「俺たちが元々知ってる藤堂が美紀で、若い女の方が藤堂ミズキだ」

「美紀とミズキか。そう言えば、あのバーで中川と会った時にもミズキって言ってたような気もするな」

 俺はうろ覚えだったが、そんな気がした。

「二人は中川の話をしてたよ。ただ、話の内容からするとミズキは殺してないみたいだった」

「そうか。やっぱりな」

「うん。しかもミズキはあの時、ホテルには一緒に行ってないらしい」

「え、行ってないの? ホントか?」

 俺たちはホテル街に中川とミズキが行くのを見たのだ。それなのに行ってないというのは考えられなかった。

「ホントだと思う。だって姉妹二人だけで話してる時に、嘘なんてつかないだろう。それに俺たちが見たのはホテル街に行くところまでで、実際にホテルに入るところは見てないじゃん」

「それもそうだな。確かに俺たちはあの時、ホテル街に行ったから、当然その先をホテルに行くものと予想したけど、じゃあ、そうじゃなかったのか」

「そうみたいだ。ミズキが言うには、ホテルに行こうって誘われたけど断ったって言ってた」

「中川は断られたんだ。かわいそうに……。あ、いや、そうじゃない。そんなことはどうでもいいんだ。それじゃあ、誰とホテルに行ったんだ?」

「それはわからないよ。ミズキも当然わからないし。ただ、あの後中川がホテルで殺されただろ? それを知ってミズキはかなり驚いたって話してたな」

「そりゃ、驚くよな。自分と会ってた後にすぐに殺されてたんだからな」

 それにしても中川は誰とラブホテルに行ったのだろうか。

 ラブホテルだから二人連れのはずだ。あの手のホテルは一人では入れてくれないという話も聞いたことがある。

「他になにか話してなかったのか?」

 俺は気になった。

「話してた。これはちょっと驚く話かもしれないぞ」

 桐山は焦らした。

「なんだよ。早く言えよ」

「そのミズキだけど、中川と本気で付き合うつもりだったらしい」

「えっ、ホントかよ!」

「本当みたいだ。ミズキが言ってた。ミズキはちゃんと付き合える相手を探してたみたいだ。それであの日、初めて中川と会って誠実そうな人だから付き合ってもいいかもって思っていたらしい」

「じゃあ、なんであの日、ホテルに行くのを断ったんだ?」

「逆に真面目な付き合いをしたかったからみたいだな。アプリで出会ってすぐに肉体関係になると、セフレみたいになるからってミズキが言ってた」

「まぁ、そうか。なるほど。若いけど経験は多そうだな」

「それはそうだと思う。俺たちとは違う世界の住人って感じだよ」

 なんだか俺も桐山も暗くなってしまった。

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