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第65話 美人局⑥

「わかったよ。そうだとすると犯人を見つけるには藤堂とヒリュウを見張っているのがいいってことか?」

 俺は桐山に訊いた。

「そうなんだけど、藤堂とヒリュウって居所がどこかわかるか?」

「いや、珍宝院からは中川の住所しか聞いてない。あ、いや、待てよ。桜川に訊いたらわかるかも」

「そうだよ。桜川は藤堂の友達なんだから住所ぐらい知ってるかも」

「ちょっと訊いてみる」

 俺はすぐに桜川にラインで質問した。

 返信はすぐにあった。

「桜川も藤堂の住所は知らないって」

 俺はがっかりした。

「そうか。じゃあ、仕方がない。あのヒリュウってホストの居場所を先に見つけよう」

 と桐山は言う。

「お前、そうは言ってもどうやって見るけるんだ?」

「たぶんホストとヒリュウで検索したら出てくるだろう」

「あ、そうか。働いているホストクラブのページに載ってるだろうからな」

「そういうこと。他の名前でやってたらダメだけど、おそらくヒリュウって名前でやってると思う」

 そう言いながら桐山はスマホを手に持って検索しだした。

「あった。見ろ。これそうだろ?」

 桐山がスマホを俺に見せた。

 スマホ画面を見ると、ホストクラブ「コスモウルフ」のサイトだ。

 そこのキャスト紹介のページが開かれていて、ヒリュウの写真が掲載されている。名前もヒリュウだ。

「これだ。間違いない。あっさり見つかったな」

「じゃあ、このコスモウルフって店を見張って、今度はヒリュウをつけることにするか」

「お前がやってくれるのか?」

「ああ、任せとけ。俺は偵察と作戦。お前は戦闘員だ」

 と桐山は言った。

「なんかお前の方が上のような感じだな?」

 俺は冗談ぽく言った。

「頭のいい方が作戦を立てた方がいいだろう」

「勝手にしろ」

 頭がいいかどうかはともかく、桐山が尾行や見張りをやってくれた方が、俺としては助かる。

 根気と忍耐力は桐山の方があるからだ。


 翌日、桐山は夜中にコスモウルフを見張った。

 そして、夜が明けるぐらいの早朝に桐山から連絡があった。

「なんだ?」

 俺は寝ているところを起こされて、声がかすれていた。

「ヒリュウの家がわかった」

「そうか。で、どうする?」

「いったん家に帰って寝るよ。徹夜で眠い。だから今日の夜にまたうちに来てくれよ」

「わかった」

 俺は電話を切り、ベッドから出た。

 バイトに行くはまだ早いが、もう寝られそうになかった。


 そして、その夜。

 俺はバイトが終わると、そのまま桐山の家に向かった。手にはコンビニで何本もの缶チューハイとおつまみを買って持っていた。

「これ買ってきたぞ」

 俺は桐山にコンビニの袋を突き出した。

「おっ、いいね。じゃあ飲みながら話そう」

 俺たちは、それぞれ缶チューハイを開けて飲んだ。

「ところで、どうだった?」

 俺が話を向けた。

「ヒリュウは夜明け前に仕事を終えて帰宅だよ。ある程度予想はしてたけど、ホストはあんな時間が普通なんだな」

「夜の仕事だからな」

「でも、まっすぐ家に帰ってくれたから助かった。家はホストクラブから歩けるぐらいの距離にある、どうってことないマンションだったよ」

「どうってことないって?」

「学生が住んでそうなワンルームマンションだよ」

「へぇ、結構稼いでるのかと思ったけど」

「そういうことでもないんだろうな。だから美人局とか考えるんじゃないのか」

「まぁ、それもそうか」

「これでヒリュウの家もわかったから、今度はあの家を見張ってたらそのうち藤堂も来るだろう。そうしたら今度は藤堂を尾行して藤堂の家も見つけたらいい」

「そうだな。でも気の長い話だな」

「仕方ないよ。でも案外すぐに藤堂も来るだろう」

「それで、二人の家がわかったら、後は二人が美人局をする時に現場を押さえたらいいってことだな」

「そういうことだ」

 俺たちは缶チューハイを飲んだ。

「ところで、中川を殺した犯人とはつながるのか?」

「いまのところは俺の勘でしかないけど、関連があると思う」

「まぁ、仮に関連がなくても、俺たちとしてはヒリュウと藤堂を罰したらそれでいいわけだけどな」

「そうさ。中川がどういう理由で殺されたかわからないけど、なにも自分が悪くなくても不幸な目に遭うことはよくあることだ。それにその犯人はいずれ警察が捕まえるよ」

「そうだな。警察のできることは警察に任せよう。警察の手が及ばない悪い奴らを倒すのが俺たちのやるべきことだから」

 俺たちは、それから他愛もない話をしながら、買ってきた缶チューハイを全部飲んだ。

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