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第101話 暴力彼氏⑦

 桜川が杉本のことを調べ出して、五日が過ぎた。しかし、なんの連絡もなかった。

 桐山にもないようだ。

 桜川はなにをやっているのだろうか?

 杉本のことをあれこれ調べているにしても、少しぐらい途中報告ぐらいしてきそうに思えた。

 それに俺は珍宝院の言っていたことが気になってきた。確か珍宝院は、杉本の精神構造は普通じゃないようなことを言っていたはずだ。

 ひょっとして桜川になにかあったのではと思えてきたので、桐山にそのことを話すために、バイトが終わると桐山の家に行った。

「お前、桜川に連絡してみたか?」

 俺は桐山に訊いた。

「いや、してないよ。まだ五日だしな。俺が前に杉本の身辺を調べた時は一週間だし。杉本って動きがないから、なかなか調べようがないんだよな。たぶん桜川も新しいことがなにもわからないから、連絡してこないんじゃないのか」

 と桐山は特に心配はしていないようだ。

 確かに桐山は一週間まったく連絡もしてこなかった。

 それのことを思えば、桜川も手間取っているだけなのかもしれない。

「お前に話してなかったけど、前に珍宝院に会って杉本のことを聞いたんだよ」

 俺は珍宝院が言っていたことを話した。

「なるほどな。やっぱり動物虐待は杉本がやったのか」

「そうなんだ。珍宝院が言うから間違いないと思う。ただ、それよりも気になるのは、杉本の精神構造が普通じゃない話だ。いわゆるサイコパスとかいうやつじゃないのか?」

「ああ、そうかもな。ってことは、お前は桜川が杉本になにかされたんじゃないかって思ってるってことか?」

「ま、まぁ、早い話がそういうことだ。どう思う?」

「どう思うって言われてもなぁ……」

 桐山は少し考えた。そして、

「確かに、桜川ならもう少しマメに連絡をしてきそうな気もする。それに杉本がサイコパスっていうのなら、それもそうかもって思うけど、ただ、あの感じだと乱暴なことは苦手だと思うだよな」

 と言った。

「まぁ、お前言うように、杉本は体力的には弱そうだけど、相手が女となるとどうにかなるんじゃないかな」

「可能性はあるな。そういう風に考えていると、なんか俺もヤバいことに巻き込まれているように思えてきたよ。ちょっと桜川に連絡してみろよ」

 と桐山も不安になってきたようだ。

 俺はスマホを取りだし、桜川に電話をかけた。

 呼び出し音は鳴っているが、いつまでたっても桜川は出なかった。

「出ないか?」

 と桐山が訊いてきた。

 俺は首を左右に振った。

「なにかあったのかもな。どうする?」

 桐山は俺に訊いてきた。

 しかし、俺もどうしたらいいのかわからない。

「よし、とりあえず杉本の自宅に行ってみよう」

 と桐山が言った。

「行ってどうするんだ?」

「行けば杉本の様子はなにかわかるだろう。それに杉本が仮にいなかったら、鈴木幸恵に話を聞くこともできるし」

「なるほどな。よし、すぐに行こう」

 俺と桐山はすぐに出かけた。

 そして、鈴木幸恵と杉本の住んでいるマンションに向かった。

 俺たちがそのマンションに行くと、たまたまマンションのエントランスで仕事帰りの鈴木幸恵と会った。

「あ、こんばんは」

 挨拶をする鈴木幸恵は相変わらず暗い感じだ。

「こんばんは。あの、彼氏はいま家にいますか?」

 俺はすぐに訊いた。

「え、いると思いますけど、なにかあったんですか?」

 と鈴木幸恵は少し驚いた感じで言った。

「ちょっとだけ時間いいですか?」

 桐山がそう言うと、鈴木幸恵は小さく頷いた。

「最近なにか変わったことないですか?」

「変わったこと、ですか?」

「はい。彼の様子でなにか変化とかないですか?」

「いえ、特になにもないと思いますけど……。ただ、私がいない昼間のことはわからないですが」

 となんとも頼りない答えを言った。

「桜川は仕事に来ていますか?」

「ああ、そう言えば最近休んでますね。なにかあったんですか?」

 と逆に鈴木幸恵は訊いてきた。

「実は桜川は彼氏の杉本のことを調べてるはずなんですが、連絡がつかなくなってまして」

 桜川は仕事を休んで調べている可能性はある。

 だけど、ずっと休むというのは考えにくかった。

「そうなんですね。でも、私もここ五日ぐらいは会っていないです」

「五日ですか……」

 桐山はそう言いながら俺の方を見た。

 ひょっとしたら五日前にすでになにかあったのかもしれないという不安が広がった。

「わかりました。じゃあ、もしなにか変化があったら連絡をもらえませんか?」

「ええ、わかりました」

 桐山と鈴木が連絡先を交換した。

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