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第102話 暴力彼氏⑧

 俺と桐山はいったん桐山の家に戻ることにした。

「なにかあったんじゃないか?」

 俺は言った。

「そうだな。仕事も休んでいるということだし、なにかあったのかもしれない。ただ単に体調不良ってこともあるかもしれないけど」

 桐山は冷静に言った。

 確かに、たまたま体調不良で連絡しても反応がないだけという可能性もないわけではないだろう。

 しかし、俺はその可能性は低いように思えた。

 たぶん珍宝院が言っていたことが頭に残っているのだ。

 杉本は普通じゃない奴なんだ。

 珍宝院が言っていたんだから間違いないだろう。

 なにかの加減で桜川は杉本に調べているのを見つかって捕まったのかもしれない。

「一度桜川の家に行ってみるか」

 桐山が提案した。

「そうだな。行ってみよう」

 俺たちはそのまま桜川の家へと行った。

 桜川の家に来るのは二度目か。

 前は思わず形で家に入れてもらったけど、あの時は俺がまだ中学の同級生だとわかっていなかったんだ。

 それにしても次に来るのがこんな形でとは思いもしなかった。

 インターホンを桐山が押した。

 少しすると玄関のドアが開いて、桜川の母親が出てきた。

 男二人が突然来たので、かなり訝しげだ。

 桐山が俺たちと桜川の関係を説明した。しかし、タカシマンの話は黙っていた。

 すると、母親は少し安心したのか、

「そう。百合の同級生なのね。実は、あの子、ここ五日ぐらい前から家に帰ってなくて……」

 と不安そうな声で言った。

「えっ、そうなんですか?」

 俺は思わず大きな声を出してしまった。

「なにかあったんですか?」

 桐山が訊いた。

「それが、わからなくて困ってるの。特になにかあったとはおもわないんだけど、急に帰ってこなくなったから、初めは家出をしたのかと思ったんだけど、そんなことをするとは思えないし。それで一応警察に届けたんだけど、大人が行方不明になってもあまり探してくれないのよね」

 と桜川の母親はどうしたら良いのかわからず途方にくれているようだった。

「そうなんですね」

 俺と桐山はため息をつくようにそう言った。

「ところで、あの子になにか用事かしら?」

「あ、いえ、ちょっと久しぶりに同級生で会おうって話があって、そのことでちょっと」

 と桐山は当たり障りのないことを言った。

「そうだったの。ごめんなさいね。ホント、あの子どこ行ったのかしら」

 母親は心配そうにしていたが、俺たちはそれ以上は話をせずに帰った。

 俺たちは桐山の家に戻った。

「どうなってると思う?」

 俺が言った。

「俺は、杉本がなにかしたんだと思う」

 と桐山は言った。

「なにかって、なに?」

「拉致して監禁だな」

「そうか。やっぱりその可能性が高いと思うよな」

「それか……」

「それか、なんだよ?」

「いや、これはあくまで仮定の話なんだけど、最悪のこともあるかも」

「まさか、それはないんじゃないか?」

 桐山は殺されたかもと言いたいのだろう。しかし、俺はそんなことがあるなんて想像もしたくなかった。

「俺もそうは思うけど、杉本は鈴木幸恵が言うには普通に生活してるみたいだし、もし監禁してるなら、なにか生活に変化があるんじゃないか?」

「確かに、そうかもしれないけど……」

 俺は想像はしたくなかったが、桐山の話を聞いていると、悪い想像が頭にどんどん浮かんだ。

「とにかく、明日から杉本を見張ろう。鈴木幸恵の話だったら夜はおそらく動きがないだろう。なにかするのなら昼間だ」

 桐山が言った。

「そうだな。桜川をどこかに拘束してるのなら、昼間にそこに行くはずだろうし」

 俺はそれでなんとか桜川を見つけることができたらと願った。

 そして翌日、朝から鈴木幸恵と杉本が住んでいるマンションに、桐山と二人で張り込んだ。

 俺たちが張り込みだしてすぐに鈴木幸恵が出かけた。会社に行くのだろう。杉本が動くとしたら、これ以降のはずだ。

「いまは家に杉本は一人ってことか」

 俺は独り言のように言った。

「おそらくな」

「桜川を監禁してるとしたら、どんなところだと思う?」

「どうだろう。まったくわからないよな。人一人を監禁しておくとなるとそれなりの場所がいると思うけど、無職でなにもしてない杉本にそういう場所を用意できるとは思えないしな」

 桐山はそう言ったが、俺も同じことを考えていた。

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