目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第147話 通り魔②

「どんな奴だと思う? この持ちものから」

 リュウヘイが言った。

「そうですねぇ。若い女でだらしない性格ですかね」

 俺は散らかっている部屋と、服の様子からそう推測した。

「ま、そんなところだろうな。じゃあ、この家にあまり帰ってこないってことはどこにいると思う?」

「それは……。友達の家とかですかね?」

 若い女がどこに行っているかなんて、俺にわかるわけがない。

「まぁ、それもあるかもしれねぇけど、普通は男だろ」

 リュウヘイに言われて、なるほどと思った。確かに男のところと考えるのが順当だ。

「でも、居所がハッキリしないって珍宝院様は言ってましたよね? 男の家にいるのならわかりそうなものですけど」

「一人の男ならな」

「じゃあ、複数いるってことですか?」

「おそらくな」

 リュウヘイは会話をしながら、部屋の中を物色していた。

 俺も部屋を探っていた。

「こんなものがありましたよ」

 それは電気料金の請求書だった。

 封筒の窓から名前と住所が見える。名前は豊川奈々とある。

「どれ、ちょっと見せてくれ」

 俺はリュウヘイにそれを渡した。

 リュウヘイは中を確認した。封筒を雑に開けて中から請求書を取り出した。

「これだとほとんどここにはいないようだな。電気代がほとんど基本料金だけだ」

「ということは、ここで待ってても帰ってこないですね」

「まぁ、帰ってこないこともないんだろうけど、いつになるかわからんな」

「どうします?」

「なんか他にないか?」

 そう言われて俺はまた電気料金の請求書のあった場所を見た。そこには他に封筒があり、それを見て行くと給料明細があった。

「これなんかはどうですか?」

「お、これなら仕事場がわかるな」

 明細には会社名や住所も書かれていた。

「じゃあ、そこの会社に行ってみますか?」

「そうしたいところだが、もうこの時間だから終わってるだろ。それは明日だな」

 とリュウヘイが言った。

 確かにもう日も暮れている。普通の会社ならもう終業時間だろう。

「じゃあ、どうします?」

「まぁ、もうなにも出てきそうにないし、今日はどこかに泊まろうや」

 とリュウヘイは思わぬことを言った。

「どこかに泊まるって、どこですか?」

「そりゃ、ホテルとかだろ」

「ホテル! そんなことしていいんですか?」 

 俺は驚いた。この生活をするようになってからほとんど文明から離れているので、ホテルなどに泊まること自体想像したことがなかったし、ホテルに泊まるということに罪悪感もあった。

「いいよ。金ならジジイにもらってるしな」

 リュウヘイは当然のことだと言わんばかりだ。

「あの、珍宝院様がお金を持っているように思えないんですけど、そのお金ってどこから出てくるんですかね?」

「それは俺も知らねぇよ。でも、いくらでも金はあるみたいだな」

 いくらでもあるというのはいったいどういうことなんだろう?

 仕事は絶対していないだろうし、見た感じからしてもいかにも貧乏そうだが、実は大資産家なのだろうか。

 それともそういうスポンサーでもいるのだろうか?

「とにかく金の心配はいらねぇから、今日は高級ホテルに泊まるぞ」

 リュウヘイはそう言うとさっさと豊川奈々の家を出た。

「高級ホテルって、リュウヘイさん、知ってるんですか?」

「それぐらいは知ってる。とにかく今日はそこに泊まって久しぶりにふかふかのベッドで寝ようぜ。ガハハハ」

 なんだから初めからこれが狙いだったんじゃないかと思えてきた。

 俺たちは二人並んでリュウヘイの知っているホテルへと向かった。

 ホテルは見るからに高級そうなシティホテルだ。

「身ぎれいにしてきて良かったぜ。普段の感じだとドヤぐらいにしか泊めてもらえねぇだろうからな」

 リュウヘイは楽しそうに言った。

「確かにそうですね。あっ、でもひょっとして珍宝院様はそれをわかってて身ぎれいにするように言ったんですかね?」

「そうかもな。あのジジイはなんでもわかってるから」

 リュウヘイはそんなことはどうでもいいという感じだ。

 チェックインを済ませ部屋に入った。部屋は大きなベッドが二つ並んでいた。広くて余裕のある造りだ。

 俺たちは早速ベッドに寝転がった。

「アアアア、ベッドってなんて気持ちいいんだ」

 俺は思わずそう言った。

 いまの生活をするようになって床に直に寝ているのだ。これも仕方がない。

 リュウヘイも気持ち良さそうに体を伸ばしていた。

「さて、今夜は特にやることはねぇし、しこたま飲むか」

 なんだか今日のリュウヘイはやたらと羽を伸ばしたいようだ。

「そうですね。俺も久しぶりに酒を飲みたいですよ」

 俺は桐山と安い缶チューハイを飲んでゲームしていたことを思い出した。もうかなり前のように思える。

 俺たちは出かけた。

 ホテルの近くの飲み屋街へと向かった。こんなところに来るのも久しぶりだ。

 飲み屋街は酔っぱらった会社員風の人がウロウロとしていた。

「俺もあんなだったのになぁ」

 リュウヘイが感慨深げに言った。

「いまもスーツ姿ですから、見た感じはあまり変わらないですよ」

 俺は慰めのつもりで行った。

「見た目はな。だが中身はまるっきり違う」

 リュウヘイは苦々しそうに言った。

「は、はぁ」

 俺はなんとも言いようがなかった。

 その時だった。

 俺は前にいた男に肩が当たってしまった。

「あん? なんだコラ!」

 相手の男がいきり立った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?