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第146話 通り魔①

「ところで、その隣の記事を見るんじゃ」

 珍宝院に言われて、俺はいま読んだ記事の隣に目をやった。

「また通り魔?」

 俺は記事の見出しをそのまま読んだ。

「なんですか? これは」

「どれ、見せてくれ」

 リュウヘイが俺から新聞を取った。そして、記事を素早く読んだ。

「ふーん、なるほどね。最近こんなことが起こってるんか」

 リュウヘイはそう言うと新聞を俺に返した。

 俺はそれを読んだ。

 内容としては、通学途中の男子高校生が刺されて死んでいたというものだった。しかし、その高校生に殺されるような原因が見当たらず、通り魔の犯行ではないかということだ。

 そして、最近この手の事件が頻発していて、警察も注視しているということだった。

「そうなんですね。通り魔かぁ。でも、これがどうかしたんですか?」

 俺は珍宝院に訊いた。

「今度はその通り魔を消すんじゃ」

「ということは、やっぱり通り魔の犯行ってことですか?」

「まぁ、そういうことじゃ。これまでにすでに七人殺しとる」

「そんなことを言うからには、すでにどこの誰かはわかってるってことだな」

 リュウヘイが言った。

「ホホホ。ほれ、こいつじゃ。早速行ってこい」

 珍宝院はいつものようにメモを出した。それをリュウヘイが受け取る。

「いまからですか?」

 突然のことで気持ちの準備ができていない。

「いまからじゃ。今度のそやつは居所がハッキリせん。一応それがそやつの住所じゃが、ほとんど住んでおらんようじゃな」

「なんだよ、それ。面倒くせぇな」

 リュウヘイが言う。

「まぁ、そう言うな。どうやってそやつを見つけるかはお前に任せる。とにかく早くせんと、また被害者が出るわい」

「はいよ。じゃあ、行ってくる」

 リュウヘイは立ち上がった。

 俺もそれに合わせて立った。

 正直言って面倒だというのは、俺も同じだった。

 しかも居所がハッキリしないということは、探すのにかなり苦労しそうだ。

 しかし、そんなことを考えていても仕方がない。

 俺たちはすぐに出かけることになった。

「とりあえず新しい服を買うぞ」

 リュウヘイがそう言ってくれたので、俺はホッとした。

 なにせ尻が犬に噛みちぎられているのだ。

 それにしてもこの生活に慣れてしまったとつくづく感じる。こんな尻の破れたズボンで街に出ることができるようになったのだ。

「その前にまずは顔や頭をきれいにしておくんじゃ」

 珍宝院が珍しくそんなことを言った。

「うん? ってことは身ぎれいじゃないとまずいことがあるってことか」

 リュウヘイはすぐにその意図をくみ取っていた。

 俺たちは髭を剃り、全身をきれいに洗った。全身をきれいにするとさっぱりした。

 それが済むと俺たちは山を下り、街に入った。

 そしてスーツをそれぞれ新調した。

「ところで、どうやって通り魔の居所を見つけるんですか?」

 それが今回は一番の問題だ。

「ま、まずはそいつの家に行ってみよう」

 ということで俺たちは犯人の自宅へと向かった。今回も歩いてだ。おそらく着くころには日が暮れかかっているだろう。

 通り魔犯の自宅に着いた。都市部に近い住宅街の一角である。

 その自宅は木造アパートの一階だった。四戸一のうちの一部屋だ。外観からしてワンルームのようだ。

「こんなところに住んでるってことは、独り者ってことですかね?」

「そうだろうな。しかし、この感じだと周りの住人との付き合いとかもなさそうだな」

「ということは、聞き込みをしてもなにもわからないでしょうね」

 この感じでは近所付き合いもないだろうし、そもそもどんな奴が住んでいるかも知らない可能性が高い。

「どうします?」

「まぁ、考えていても仕方ねぇ。とりあえずそいつの部屋の中を見てみる」

 リュウヘイはそう言うと、犯人の部屋の入り口の前に行った。

「また、無理やり開けるんですか?」

 以前のことでリュウヘイの力はすでに知っている。前は高級マンションのドアを力で開けたのだ。こんなアパートのドアぐらいは余裕だろう。

「無理やり? おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。こんなのは引っ張れば開く」

 そう言うとリュウヘイはドアノブをつかんだ。そしてグッと引っ張るとバリッという音とともにドアが開いた。

「な」

「は、はぁ、まぁ、確かに引っ張ったら開きましたね」

 とは言うもののドアの鍵は当然壊れていて、ドアからブラーんとぶら下がっていた。

「さて、入るか」

 中は思ったとおりワンルームで、トイレはあるが風呂はない。

 部屋の中は散らかっていた。

「まずはどんな奴が犯人か知る必要がある。そういうものを探してくれ」

 リュウヘイに言われて、俺は部屋を物色した。

 そして、物色しているとある違和感を感じた。

「あれ、これってひょっとして犯人は女なんじゃないですか?」

 ある服が女ものなのだ。

「そうだ。犯人は女だよ」

「そうだったんですね」

 俺は通り魔なんてするのはてっきり男だと思い込んでいた。

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