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第145話 強盗団⑬

 翌日からも修業は続いた。

 ただ、これまでとは内容が変わった。

 珍宝院が連れてくる動物を相手にするようになったのだ。

「今日はこやつから逃げるんじゃ」

 そう言う珍宝院は脇に巨大な犬を従えていた。犬種には詳しくないが、見た感じ雑種のようである。顔つきはかなり凶暴そうだ。大きさはレトリーバーぐらいはある。

「逃げるって?」

「山を逃げ回るんじゃ」

「は、はぁ」

 まぁ俺としてはいまさらそんなことを言われても驚かない。

「時間は?」

「日が暮れるまでじゃ」

「ええっ! まだ夜が明けたところですよ」

「ホホホ、まぁ、頑張れ。それじゃあ始めろ」

 日が暮れるまでとなると十時間ぐらいはある。そんなに長時間も犬から逃げ回るのかと思うと気が遠くなった。

 しかし、時間が長いこと以外は、いまの俺にとっては大したことではないと思えた。

 犬なんだからいざとなれば木に登ればいいのだ。

「早よ逃げた方がええぞ」

 珍宝院が言った。

「俺だけですか? リュウヘイさんは?」

「今日からは別でやる。お前だけじゃ」

「俺はそんなことは昔に散々やったからな。まぁ、頑張れよ」

 リュウヘイはそう言いながらニタニタとしていた。

「わかりました」

 俺は山へ向かって歩き出した。

 すると、

「バウッ!」

 と犬が吠えて、俺の尻に噛みついてきた。

「わあああああ!」

 俺はすんでのところで飛び上がって、なんとかかわした。

 しかし、尻のところがなんとなく涼しい。手で探ってみると、ズボンの尻のところが破れていた。

 犬の顔を見ると、長い牙がギラっと光っていた。

「ええっ、なな、なんだ?」

 さっきは気づかなかったが、その牙は十センチはあった。そんな牙が二本、上あごから伸びているのだ。

「ホホホ、こやつは普通の犬ではないわい。せいぜい気を付けるんじゃ」

 珍宝院に言われるまでもなく、俺の気持ちは一気に真剣モードになった。

 そして、走って山の中へと向かった。

 後ろを犬が素早く追いかけてくる。

「うわわわわわわわ」

 犬はかなり素早く、すぐに俺の後ろに来た。そして、すでに破れているズボンにさらに噛みつこうとする。

 俺は急いで木に飛びついて、上へと登った。

 これで大丈夫だ。

 そう思って下を見ると、すぐ自分の脚元に犬がいた。そして鋭い牙を剥いている。

 この犬は木に登れるようだ。

「な、なんでだ!」

 俺は慌てて、木から飛び降りた。

 すると犬もすぐに木から降りて俺を追いかけてきた。

 俺は山の中を逃げ回った。

 そしてそれは休むことなく日が暮れるまで続いた。

 途中何度か犬に嚙まれた。

 犬は珍宝院から言われているのだろう。一度噛みつくと、それ以上はなにもしてこなかった。なにもせず俺が痛がっているのを横にお座りして見ていた。

 そして、俺が立ち上がって逃げ始めると、また追いかけてきた。

 そんなことを繰り返しているうちに、日が暮れてきたので、俺は金満寺に戻った。

 当然その間も犬に追いかけられている。もっともこれを犬と言っていいのか疑問だが。

「ホホホ、帰ってきたか」

 珍宝院とリュウヘイがいた。

 俺は一日中休むことなく、山を走って逃げまわったのでクタクタになっていた。

 俺は寺の境内に入ると、崩れるように倒れた。

 ちょうどその時に日が暮れた。

 するといままで俺を追い回していた犬は、大人しくなり、倒れた俺に寄ってきた。そして、俺の顔を舐めた。

「早く起きるんじゃ」

 珍宝院に言われて俺は立ち上がった。

 しかし、体はガタガタである。これまでで今日が一番きつかった。

 そして次の日からこの修行が何日も続いた。

 俺はこれまでも大変だったが、それよりもはるかに辛かった。

 そして一週間ぐらいたった朝だ。

 鴉が新聞を持って寺に来た。おそらく以前にも新聞を持ってきた鴉だ。

 鴉は珍宝院の元へ新聞を渡して飛び去った。

「これに前の強盗団のことが載っとる」

 珍宝院は俺に新聞を渡した。

 俺は新聞を開いた。

 新聞には強盗団のリーダーが殺されたと書かれていた。

 どうやら予想どおり強盗団のメンバーが楠本を襲ったようだ。そしてそのまま殺し、自分たちで強盗団を運営しようとしたが、すぐにメンバー全員が警察に捕まったようだ。

 強盗団の一部の者が楠本の彼女も襲ったようで、彼女は強姦されて殺されていた。

 なんとも酷い結末である。

 強盗団の内部分裂ということで結論付けられたようだ。

「楠本がきっちりメンバーの身分証明書とかを持っていたから、全員逮捕するのも簡単だっただろうな」

 リュウヘイが言った。

「そうですね。しかし……。なんかやっぱり後味悪いです」

「しかし、こいつらの欲のために何人もの人間が殺されたんだ。気にすることねぇよ」

 リュウヘイは相変わらずな感じで言った。

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