美蘭は、そう言って部屋から逃げる。すでに、この翡翠宮の外には武装した宦官が控えている。その包囲網を脱出できたとしても、逃げる場所なんてない。ここは閉ざされた籠のようなものだ。たとえ、籠の中でどんなに自由に立ち振る舞おうとも、籠の外に出ることはできない。
先ほどまでとは打って変わって、余裕もなく、走る彼女の姿を追いかける。
すでに部屋の前に宦官が控えていて、彼女を取り押さえようとして逃亡は一瞬にして終わった。
「おのれ、翠蓮‼」
自分以外のすべてを道具にして、この国を乗っ取ろうとしていた女は、暴れていたが、すぐに床に倒されて、拘束される。
「こんな屈辱が許されていいわけがない。お前たちを呪ってやる」
ついに内に秘めた凶暴性が前面に出ていた。先ほどまでの姿とはまるで違う彼女の様子を見て、私は目を閉じる。
「あなたたちに操られて破滅した人のことを考えたことはある?」
私の口調は驚くほど冷たかった。
「誰が駒のことを考えるのよ‼」
さきほどの口調とはまるで別の回答が返ってきた。私はただむなしくその様子を見つめた。
※
翌日。私は陛下と朝食を共にする。
「ありがとう、翠蓮。おかげですべてうまくいったな。皇太后さまを守ることができて本当に良かった。息子として、感謝しなければいけないと思っている」
陛下は私と二人きりになったところで頭を下げた。
私は慌てて「頭を挙げて下さい」と叫ぶ。
「ふむ。だが、捕縛した二人は何も言わない。美蘭の実家は、領土に立てこもっており、今後どう動くか」
やぶれかぶれになって反乱を起こす可能性があるということだろう。だが、いくら名門とはいえ、皇帝直属の軍隊と勝負にならないだろう。私兵程度の規模で、国家の正規兵には及ばない。
「まだ、安心できませんね」
ちなみに、美蘭に付き従っていた侍女たちも念のため捕縛しているが、ほとんどの者が計画についてほとんど知らされていない無関係な人間たちのようだ。
あの女暗殺者と美蘭以外に、今回の計画にかかわっていないのかもしれない。
もちろん、首謀者二人は一切の尋問に口を割っていない。
こちらの調べにも黙秘を貫いている。
「皇太后さまは?」
「さすがにショックだったらしい。まさか、自分の命まで狙われるとは思わなかったのだろう。やはり、精神的に不安定で、塞ぎこんでいる。これ以上は、無理できないだろう」
ただでさえ、精神的に弱っていたのだから余計にショックは大きいだろう。
「女暗殺者と面会することはできるのでしょうか?」
「かまわない。ただ、注意はしてくれよ」
「もちろんです」