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第114話


 ※


 私は大長秋様とともに、女暗殺者を収監している地下牢へと向かった。

 彼女が何か危害を加えてくるかもしれない。両手足を拘束されているとはいえ、暗殺者。油断はできない。


「来たのね、翠蓮」

 私の様子を見て、女暗殺者は睨むようにこちらを見ていた。

 憤る宦官たちを抑えて、私はつづける。


「ええ、久しぶりね」


「見事だったわ。まさか、ここまで完ぺきに裏をかかれたとはね。二度も私を負かしたのは、あなたが初めてよ」

 そんな称賛を受けても心は満たされなかった。


「あなたは何がしたかったの?」


「知ってどうする。同情でもしてくれるのか?」

 自分は満たされた側という立場はわかっている。彼女は若くして暗殺業という裏稼業に従事している。自分からそんな危ない世界に入り込む人はいないだろう。


 彼女はやはり利用される側だったと考えたほうがいい。


「教えてくれないの? 美蘭とはどういう関係?」


「言いたくもない。お前みたいな人間に、返す義務はない」

 西月国との戦争で親を失った孤児はたくさんいる。そして、親がいない子供というのは、大人の道具にされる。誰も守ってくれない子供はただの道具のように使い勝手がいいのだ。


「これ以上の話は無理かしら」


「あの時、人質ではなくて、あなたを殺しておけばよかったわ。そうすれば、少なくともこんな屈辱を受けなくてよかったのに」


「それでも、あなたは私を殺せなかった。それが私とあなたの間にある変えることができない事実」


「さすがは、砂漠の女帝様ね。負けたのも納得だわ」

 彼女は嫌味を言って笑い続けている。彼女も時代の犠牲者なのかもしれない。そして、私は加害者だったのかもしれない。せめて、それだけでも知りたかったのに、それすらも許されない。


 本当に現実は残酷だ。でも、それでも私は、前に進まないといけない。


「勝ち誇っていなさい。でも、きっとその勝利の余韻は長くは続かない。砂漠の女帝に最後に教えてあげる。あなたは、理想に生きている。でも、あなたの本質は現実を生きる利己的な性格よ。どこかで、皇帝とも対立する。そして、争いは人間の本質の一つ。あなたがどんなに戦争を否定したとしても、あなたの父親がこの国の人間を大量に殺したという事実は消すことはできない。先代の皇帝だって同じ。あなたたちは、父親のことを否定したいのかもしれない」

 彼女は一息ついてから続けた。


「でも、あなたたちはそれを否定できない。親の力で満たされた生活ができていたはずのお前たちが、今頃、争いを否定したとしてももう戻ることはできない。戦いはまた始まる。私が死んだとしても、その事実がお前たちを破滅に向かわせるでしょう。それを見ることはできないのが残念だけど、楽しみよ」

 最後の高笑いが響き渡った。


 結局、彼女たちは調査が始まったとしても何も話さないだろうと確信した。

 彼女の後ろに黒幕がいるのか、いないのか。ただの実家の指示なのか。


 権力の中枢に行けば行くほど、わからないことが増えていくのではないかと思う。それが疑心暗鬼を生んで、人間の精神をむしばんでいく。陛下はその孤独に耐えながら、それでもなお、前に進もうとしていた。


 そして、高貴な覚悟で前に進もうとするだけで、見知らぬ人間から恨みを買わなくていけない運命の残酷さを理解している。


 立場的には本当に大事な者を守ることもできないのに……


 どうして、そんなに頑張れるんだろう。


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