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翌日。私はまた陛下と朝食を共にする。あの二人の調査は進んでいる。実家の者たちも召喚されるようだ。領土に立てこもっていたはずの美蘭の父親は、計画が失敗したことで失意のうちに自殺を遂げたらしい。もう逃げきれないと悟ったのだろう。
「領土が不安定にならないように、宰相を派遣することにした」
陛下は思わぬ奇策を見せた。
「宰相様を?」
「ああ、他に適任がいないだろう。皇帝の暗殺を狙った敵対勢力が抑えていた土地だ。よほど有能な人間でなければ、権力を交代させることなどできない。よって、宰相を大都督に任命した」
都督とは、一部地方の軍事権と行政権を握る役職だ。軍の司令官と地方の長官を兼ねている役職だ。それゆえに、信用できる人間にしか就かせることはできない職である。
「大都督とは?」
「宰相ゆえに、いくつかの地方の都督を兼任させなくては、つり合いが取れないとなってな。周辺の都督も兼任させた。ゆえに、大都督だ」
まさに、この国の名実ともにナンバー2ということだろう。彼はそこが見えない恐怖感があったが、それ以上に有能だ。この危機的な状況では彼を使うしかないだろう。
「なるほど……」
納得した私に陛下はこちらを見て続ける。
「そして、もう一つ案がある」
「案ですか?」
「ああ、今回の事件の詳細を発表しようと思う。もはや、隠すことはできまい。民衆が不安に思っているのであれば、こちらも誠意をもってそれを安心させてやらねばなるまい」
陛下は革新的なことをしようとしていた。
私も頷く。
「そうですね。そうすれば、民衆の不安感も払しょくされるかもしれません」
「うむ。その前に、一度、弟たちを見舞わねばならないかなとも思う。民衆は、ある意味で迷信を信じこみやすい。そうであるなら、こちらも祖先の墓参りでもすれば、少しは今の悪い噂を緩和できるのかなと思っている」
良い考えだと思った。たしかに、皇帝が祖先の墓を祭るのは儀礼的な意味が強い。
そして、その儀礼はもともとは人を安心させるために作られたものだともいえる。
宰相による戦後処理と同時に宗教的な儀礼を済ませることで問題を解決する。
たしかに、区切りがつくだろう。
「とても良い考えだと思います」
「そうか。それはよかった。それで、話があるのだ」
「話ですか?」
陛下は緊張している様子だ。
「ああ、大した話ではないんだが……」
それにしてはどこか緊張しているように見える。
「どうしたんですか?」
珍しく明確な陛下の話が見えずに困惑していると、陛下は一息ついて続けた。
「一緒についてきてくれないか?」
「えっ」
一瞬だけ言葉が詰まる。
陛下の巡幸に一緒する。それは、大きな意味を持っている。
いくら恋愛に疎いとはいえ、この政治的な意味がわからないわけがない。これは政治的に重要な要素なのだから。
「よろしいのでしょうか、私で」
「翠蓮以外には頼もうとは思わない。もし断るようであれば、一人で行く」
さすがに護衛はつけるのでしょうと思わず言いたくなるがグッと飲み込んだ。
「わかりました。お供をさせていただきます」
私も陛下の覚悟に従うことにする。
これ以上の会話は不要だ。私も自分が担うことになる責任の重さに震えそうになる。
だって、そうでしょう。陛下の儀式の意味合いを込めた先代皇帝たちの墓を見舞うわけだから。それに唯一同行する妃というのは……
次期皇后の最有力候補。それを内外に示すことになる。これは大きな反応を引き起こすだろう。本当の意味で、大順と西月国の融和が決定的な証拠となって示されるのだから。
そして、陛下はそれがわかっていても、私を誘ってくれたのだ。
嬉しくないわけがない。私の存在が認められたのだから。
「ありがとう。やはり、翠蓮しか頼めないからな」
私も頷く。儀礼のやり方など、覚えなくてはいけないことがたくさんある。
でも、大変だと思う以上に、光栄と思ってしまう自分がいるし、ここが本当に私の居場所になったんだと実感して泣きそうになった。
「お務めを果たせるように頑張ります」
私はそう言って、陛下の前を後にした。