唐の国、
長安の都を遠く南西に見て、国境を守っている要衝の地である。異民族との衝突が多く、戦は度々起こっていた。
雷梧に、恩賞があるという。
急いで司令室に出向き、この范陽を治めている節度使(地方を守る軍政司令官)の前に跪いた。
その名は、安禄山。
戦に強いばかりでなく、唐の皇帝・玄宗と、その寵姫・楊貴妃からも信頼されている人物。
(大きい。噂通りだ)
安禄山は、三五○斤(約二○九キロ)という超肥満体で有名だった。司令室が、やけに狭く感じられる。
「奇襲部隊の主将を討った者か。ずいぶん若いな。名は?」
聞かれて雷梧は一人前ぶりたくなり、いつもより低い声を出した。
「姓は雷、名を梧と申します。幼い頃からこの地の駐屯軍にいます。十三歳になった今年より、正式に入隊致しました」
それを聞いた安禄山が、分厚い瞼をゆるめた。笑っているらしい。
「小さい身体で、見事な働きだ。わしはもう五十三だが、国境を守る任務は、楽ではない。お前のような若者がいるのは嬉しい事だ」
「は、ありがとうございます」
恩賞ではなく、労いだけか。雷梧は残念に思った。
が、安禄山は側近の厳荘と何やら話し、
「わしには将軍を任命できる権限がある。お前も加えておこう。まずは兵三千を率いよ。将軍用の剣も渡しておく」
と告げた。厳荘に促された兵士が、雷梧の目の前に一本の直剣を置く。
雷梧は呆然となって、安禄山を見た。予想外の昇進だ。たった一人斬っただけなのに。
安禄山は、更に言った。
「お前の両親は、戦乱で死んだそうだな。わしには大勢の養子がいるのだが、どうだ、お前もわしの子になる気はないか?」