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第3話

 雷梧は冗談を言われたのかと思い、周囲を見渡す。

 厳荘が、微笑みながら言った。

「良かったじゃないか、お受けしなさい」

 とりあえず、雷梧は頷いた。

 実際は、頭の中が真っ白だった。話が早すぎて、飲み込めない。

 下がってよいと言われて、我に返った。

 雷梧はしどろもどろに礼を言い、剣を拝領して退室した。


「その歳で将軍か。大出世じゃないか」

 かすれた声で、時仁夏は笑った。

 射られた上官は、なんとか一命を取り留めていたのだ。しかし、首の包帯からは血が滲んでいる。

「雷梧。お前は見込みがある。学ぶべき事はたくさんあるが、きっと良い武将になれるだろう」

 時仁夏が言った。笑っているが、顔色は悪い。三五歳の活発な武人だったのに、今は初老くらいに見える。

「でも、自信がありません。部下になる人は、皆年上ですし」

 雷梧が素直に不安を告げると、時仁夏は、当たり前だと手を振った。

「部下の命を預かるんだ、いきなり自信など持てんさ。まあ、用兵の機微については、俺が時間の限り教えてやる」

 心強い言葉だったが、時間の限りという言い方は重かった。

 雷梧は、話題を変えようと思った。

「それよりも僕は、養子にしてくれた事が嬉しかったです。唐国随一の節度使が、父親になってくれるなんて」

――安禄山は、一人で三鎮(范陽、平廬、河東)の節度使を兼任していた。その兵力は全国の三分の一を占め、唐の軍事を大きく掌握している。

 そんな名誉ある人の養子になれて、雷梧は本当に嬉しかった。

 しかし、時仁夏は苦く笑っただけで、まあ養子はともかく、と話を打ち切ってしまう。

「そうだ、武芸も磨かねばならんな。お前、宇文平という男を知っているだろう」

「はい。あなたの副将ですね」

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