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第4話

 宇文平うぶんへいは、鮮卑族せんぴぞく(モンゴル系民族)の血を引く、三十代半ばの武将である。

元は斥候隊にいた。敏捷で、力も強い。

「あいつに習え。少々荒っぽいが、うまく教える奴だ」

 荒っぽいと聞いて、雷梧は背筋が寒くなる。

「がんばれよ。お前の出世は、みんなの励みになる。多少の厳しさは覚悟」

 そこまで言って、時仁夏は激しく咳込んだ。傍にいた看護の兵が慌てて彼を支え、背中をさする。

 雷梧は、促されて退室した。

 痰を詰まらせた咳が、外に出ても聞こえた。


 岩場や、林の中を走らされる。

 次に重い砂袋を上げ、最後は剣術。

 宇文平に特訓を頼み、もう二ヶ月が過ぎたが、これがひたすらに厳しい。雷梧は、毎日のように嘔吐した。

 しかし、もう限界ですと根を上げる直前で、いつも訓練は終わりになる。宇文平がうまく教えるという理由は、そういうことだった。

「立て。敵に背を向けるな、死ぬぞ」

 面長な顔の、宇文平が言う。四つん這いで吐いている雷梧には、答える気力もない。

 雷梧は将軍になってから、すでに何度か実戦にも出た。いくらか強くなったはずだが、まだ慣れたとはいえない。

「王金鹿と、方翔じゃないか。何の用だ」

 宇文平が、誰かに声をかけた。大柄と小柄の男が歩いて来る。昔の部隊仲間らしい。

 彼らと話をした宇文平は、頷きながら雷梧に告げた。

「今日は上がれ。安禄山殿が、お前を呼んでいるそうだ」

 また何か、話があるのだろうか。

 雷梧は、貧血も忘れて起き上がる。宇文平に挨拶をすると、王金鹿らに同行した。


「雷梧、都を見てみたくはないか?」

 司令室に入ると、安禄山はいきなり言った。

 玄宗皇帝のよき遊び相手でもある安禄山は、たびたび唐の都・長安に赴いている。

 彼は、少年将軍として頑張っている雷梧への褒美として、長安を見せてやりたくなったという。

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