元は斥候隊にいた。敏捷で、力も強い。
「あいつに習え。少々荒っぽいが、うまく教える奴だ」
荒っぽいと聞いて、雷梧は背筋が寒くなる。
「がんばれよ。お前の出世は、みんなの励みになる。多少の厳しさは覚悟」
そこまで言って、時仁夏は激しく咳込んだ。傍にいた看護の兵が慌てて彼を支え、背中をさする。
雷梧は、促されて退室した。
痰を詰まらせた咳が、外に出ても聞こえた。
岩場や、林の中を走らされる。
次に重い砂袋を上げ、最後は剣術。
宇文平に特訓を頼み、もう二ヶ月が過ぎたが、これがひたすらに厳しい。雷梧は、毎日のように嘔吐した。
しかし、もう限界ですと根を上げる直前で、いつも訓練は終わりになる。宇文平がうまく教えるという理由は、そういうことだった。
「立て。敵に背を向けるな、死ぬぞ」
面長な顔の、宇文平が言う。四つん這いで吐いている雷梧には、答える気力もない。
雷梧は将軍になってから、すでに何度か実戦にも出た。いくらか強くなったはずだが、まだ慣れたとはいえない。
「王金鹿と、方翔じゃないか。何の用だ」
宇文平が、誰かに声をかけた。大柄と小柄の男が歩いて来る。昔の部隊仲間らしい。
彼らと話をした宇文平は、頷きながら雷梧に告げた。
「今日は上がれ。安禄山殿が、お前を呼んでいるそうだ」
また何か、話があるのだろうか。
雷梧は、貧血も忘れて起き上がる。宇文平に挨拶をすると、王金鹿らに同行した。
「雷梧、都を見てみたくはないか?」
司令室に入ると、安禄山はいきなり言った。
玄宗皇帝のよき遊び相手でもある安禄山は、たびたび唐の都・長安に赴いている。
彼は、少年将軍として頑張っている雷梧への褒美として、長安を見せてやりたくなったという。