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第11話

 雷梧は、都のそんな事態など、今初めて知った。周りの将軍たちも同じらしく、ざわざわ話し始める。

「事態は急を告げている。わしはすぐにも楊国忠を討って、唐に平和を取り戻すつもりだ」

 勢いのある声だった。

 将軍たちは、逆に静まり返る。

 雷梧は、あの王金鹿と方翔が皇帝への使者だったのだと気付いた。急に帰るはめになったのは、この密書のせいに違いない。

「楊国忠を討つ事は、陛下をお救いする事だ。頂ける恩賞はこれまでと比べ物にならんだろう。諸君は将軍だから、都に邸を構えて、女も囲える。それでもまだまだ余るぞ」

 将軍たちから、期待と驚嘆の声が上がる。

 雷梧も反射的に、あの舞姫の姉妹を思い出した。

 長安を巻き込む戦。それはつまり、あの姉妹にも危険が及ぶという事ではないか。

「地図は行き渡ったな。まずは東都洛陽を目指す。わしと共に行く者は、声をあげろ!」

 安禄山は右拳を高々と振り上げる。

 数十人が、方々で雄叫びを上げた。それに遅れまいとするように、残りの将軍たちも次々に声を上げる。営舎の壁が、雷鳴に似た咆吼で震えた。

 雷梧も、拳を振り上げて叫んでいた。


 三日後、平廬河東范陽節度使安禄山は、兵数二十万と号して軍を発した。日は天宝十五載(西暦七五四年)、十一月九日。

「我らは安節度使の軍。天子より密詔を受け、逆賊楊国忠を討つ。速やかに城門を開けい!」

 軍は途上の州県でこう叫び、勢いよく南下する。

 しかし常山というところへ来たとき、先鋒だった雷梧は、太守(長官)に訊ねられた。

「こんな大軍が通るとは何故だ。おかしいぞ」

 雷梧は返答に困って、指示を仰いだ。


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