「あぁ~、アレは国宝院家のお嬢様ですね」
完全に野次馬と化した
その声に二人が振り向いてみれば、訳知り顔でふんすと鼻を鳴らすメイドがひとり。
「知っているのマリカ!?」
「知っているのですかマリカさん!?」
そんな
「国宝院といえば、日本トップクラスの探索者ギルド『
「あ、ギルド名は聞いたことがありますっ!」
マリカの説明に元気よく応えたのはリーナだ。ギルドとは、簡単に言えば探索者達の集まりである。探索者が集まってパーティとなり、パーティが集まってギルドとなる。世界中には星の数ほどのギルドが存在しており、大から小まで、その規模も知名度も様々だ。そんな中にあって、遥か遠い外国の地からやってきたリーナでさえ耳にしたことがあるということは。マリカの言う通り、国宝院はかなりの知名度を誇る家らしい。一方の
(へぇ……ギルドねぇ……ボクはドコにも入ってなかったからなぁ……)
「実際にダンジョンから資源を持ち帰り、それを売却することで利益を出している国宝院家。それに対し、市場に流れたダンジョン資源をあれこれして利益にしている九奈白家。両家の関係は良く、ビジネスパートナーとしても親密な関係だったハズですよ。確か、当主同士も知り合いだとか」
「え……でもアレ、スゴい険悪なムードですよ?」
「……仲がいいのは代表者だけで、お嬢様同士は仲が悪いのかもしれませんねぇ」
一方の凪は『また面倒な相手と出会ってしまった』とでも言いたげな、酷くうんざりとした顔であったが。とはいえ、そんな天上人たるお嬢様方の間に割って入ることなど、一介のメイドに出来る筈もない。結局メイド二人と留学生は傍観することしか出来ず、この場は凪に任せるしかなかった。
「久しぶりですわね、凪」
「ええ……別に会いたくはなかったけれど」
「それはこちらのセリフですの。いつぞやのパーティで私に恥をかかせたこと、よもや忘れたとは言わせませんわ」
「アレは貴女が一人で騒いで、勝手に恥をかいただけでしょう? 私の所為にされてもね」
最初のセリフからも予想出来たことだが、やはりお互いに面識はあるらしい。互いの両親に交友がある所為か、恐らくは幼い頃からの腐れ縁といったところか。そんな凪とシエラの口からは非常におもしろそうな、なんとも興味深いエピソードが飛び出している。傍観者に徹している
「そんなことより、これは一体何の騒ぎかしら? あまりこういう『決めつけ』でモノを言いたくないのだけれど――どうせ貴女が、そっちの彼女達に難癖をつけていたのでしょう?」
そう言うと、凪は自らの背後へと視線を送る。そこには二人の少女――互いを莉子、火恋と呼んでいた――が、凪に庇われるかのようにして立っている。
面識はないはずだが、しかし莉子と火恋の二人も、恐らくは仲裁に来たのであろう凪に全てを任せていた。先ほどは莉子を守るために果敢に立ち向かっていた火恋だが、今はその勢いも鳴りを潜めている。それはそうだろう。国宝院シエラの『面倒くさそう』っぷりは、初見でも察しが付くレベルなのだから。
「ふん、相変わらず失礼な女ね。私はただ、そこの庶民臭い二人がぶつかって来たから叱責していただけですのに」
「……まぁ、大方そんなところだろうと思ったわ。まだそんな下らない事をしているのね。そもそも貴女の家だって、別に由緒正しい名家というわけでもないでしょ。もちろん私の家もだけれど」
「家としての歴史は浅くとも、このダンジョン時代の最先端を走っているのが我が国宝院家です。あと数百年もすれば、我が国宝院家はこの国を代表する名家になっていましてよ」
「知らないわよ、そんなこと……貴女と話していると本当に疲れるわ」
「あら、急に褒めても何も出ませんわよ」
凪が大きなため息を吐き出す。それをどう曲解したのか、シエラはまんざらでもなさそうな顔になっていた。それを傍から見ていた
「耳が腐っているのかしら? 微塵も褒めてないわよ。 もういいから、さっさと消えなさい。これ以上面倒事を起こすなら、学園から叩き出すわよ」
「貴女が私を? 一体どうやって? まさか力づく……なんて言いませんわよね? 頭でっかちの貴女と違って、私は既に探索者として活動してますのよ?」
自慢げに胸を張るシエラ。
彼女と同年代で探索者をしている者はそう多くない。大抵の場合は高校卒業後に活動を始めるものだし、ましてシエラは歴としたお嬢様なのだ。こと白凪学園内に限って言えば、既に探索者として活動をしている者など、恐らくは片手の指で足りる程度にしか居ないだろう。とはいえ単純に、探索者志望の生徒がほとんど居ない所為でもあるのだが。
「それに私、順位は既に六桁台ですのよ。以前は我が国が誇る序列第六位、あの国選探索者の天久隆臣様からの直接指導を受けたこともありますのよ? ふふふっ、貴女ではとてもとても……」
何やら誇らしげに語るシエラであるが、しかし
(……ん? なーんか聞き覚えのあるゴリ――名前が出たような……あのゴリラが他人を指導? いやいやいや……無いでしょ)
それでもやはり、いちいち割って入るようなことはしない。
そもそも
と、
「私は指揮官タイプなの。貴女のような脳筋と一緒にされたくはないわね。もしどうしてもと言うのなら、あそこにいる私のメイドが相手になるわ」
「えっ」
突如、傍観者であるはずの
凪とシエラが対峙する現場からは少し離れている場所にも関わらず、あっという間に発見されてしまう。
「あら、あれが貴女のメイドですの……ふぅん、綺麗な顔をしているじゃない」
「お、恐れ入りますぅ……」
「貴女、序列はいくつですの? 主人の為とは言え、私の前に立ちはだかるとはいい度胸ですわね。凪はああ言ってますけど、どうしますの?」
おかしい。
別に今すぐどうこう、などという話ではなかったハズなのに。
そうして前に歩み出た
「やれやれ、お嬢様の命令とあらば仕方ありません……では私の侍従仲間がお相手致しましょう! んあぁ仰らないで、序列四桁のナイスガイですよ」
「それルーカスの事ですよね!? だめですよっ! 貸しませんからねっ!!」
そんなメイドにあるまじきふざけ具合ではあったが、その甲斐あってか、腕試し(?)を有耶無耶にする事には成功した