任務で必要になるかもしれないからと、様々な装備類が集められた部屋だ。見れば替えのメイド服は数十着もクローゼットに並んでおり、下着に靴下、鞄や靴などの消耗品もばっちり用意されている。また武器等に関しても、様々な状況ですぐに対応出来るようにと、やはり大量に運び込まれていた。
逆を言えば任務上に必要なものしか揃えられておらず、生活する上で必要なものはなにも用意されていない。ベッドはおろか、リビングにはソファやテーブルすらもない。そんなほとんど物置と化している無機質な部屋で、
「ふんふーん」
ちなみにこのマンションは迷宮情報調査室の所有であり、一般の入居者は一人もいない。強いて言うなら、二階にある一室が『エターナルヘブン』の書類上での所在地となっているくらいか。もちろん架空の会社なので、実際には誰もいないのだが。
現在
恐らく現時点ではこの世に一本しか存在せず、もしも売りに出したとすれば、リーナの短剣など比べ物にもならない程の高値が付くであろう逸品である。よくある『和槍』や『洋槍』とは違い、見た目は完全に『ファンタジーの槍』といった様子で、使いにくそうな気配しかしない。事実、
そもそも
「うん、無駄にカッコいい」
ただ、ダンジョン関係の装備を眺めるのは好きだった。
探索者になった理由などは様々あるが、なんだかんだといっても所詮は
それに近々行われるという『ダンジョン実習』の件もある。
流石の
「んー……とは言うものの、どの程度なら持ち込んでもバレないのかがわかんないなぁ……」
大前提として、
いま手にしている槍のように、ただ事ではないと一目で分かるような装備など持ち込めるはずもない。もちろんダンジョンという不確定要素の塊に挑む以上、いざとなれば正体が露見してでも任務を遂行するつもりではいるが――――これはそれ以前の問題だ。サイズ的にもメイド服には隠せそうにないし、こんなものを手にして姿を見せれば、集合の時点で即アウトである。
手にした槍をキュッキュと磨きつつ、
(おや……?)
玄関の外から、なにやらドタバタと喧しい音が聞こえてきた。誰もいない筈のマンションで、誰も来るはずのない部屋なのに、だ。
(……泥棒? いやいや、まさかねぇ? じゃあ、見回りに来たウチの職員? うーん?)
「わははははは! やべー、正解の部屋分かんねー! ここかー……? おっ? ちょ、誰か居るっぽくね? ぶははは! 何でだよホラーかよ!」
派手な金髪に、バカっぽい喋り方。
浅い褐色の肌を大胆に露出させた衣服は、まさにギャルそのもの。
「あれ? オリいんじゃん!! てかちょ、めっちゃ武器磨いてて草。何してんだコイツ、危なすぎんだろ! あははははウケる!」
「いや全然ウケないよ」
「オフっぽいのにちゃんと女装してんの草」
「そりゃそうでしょ。じゃなきゃ館を出る時と入る時どうすんのさ」
「たしかに! わかりみ深ぇー!」
登場するなり、壁をバンバンと叩いて大笑いする
一方、女装メイド姿で一心不乱に武器を磨く
「で?
「そりゃあ休暇に決まってるじゃんね! だってゴリラばっかサボんのズリーじゃん?」
「休暇」
「そそ。いやぁ、前から九奈白には来てみたかったんよねー! あ、あとついでに発信機類の補充的なやつ? 前回何個か壊したっしょ? それよそれ」
「いえーい! にんむかんりょー!」
「ああ、うん……」
「よーし! んじゃ遊び行こうぜー! オリどうせ暇なんしょ? 案内してたもれー!」
たった今来たばかりだというのに、
「いやぁ……ボクこれでも一応、お嬢様学校に通う超一流お嬢様の一流メイドやってるんだよ? こんなイカれたギャルと街中歩いてたらメイド道の終焉でしょ」
「自分で一流メイドとか言ってんのマジでウケっから! パンツ履くだけで一時間もかかってたのが懐かしいよなー!」
「やめて! 思い出させないで! 無心で履いてるだけで、今もまだ受け入れられてないから!」
「まーまー、いーから行くぞー! とりあえずソファとベッド買いに行こうぜぇ」
「何でだよ! ここに泊まる気じゃん! 帰れよ!」
渋る