九奈白市内、行政区画に建てられた
汚れひとつない真っ白な外壁と、正面入口には筋骨隆々の大男が二体。そんな
「ピヨちゃんせんぱぁ~い……もう十時過ぎてんすよぉ……いい加減なんか食べいきましょうよぉー……はらへったし、つかれたし、ねむぃ」
きっちりと着こなされている筈の
その類稀なる格闘センスを買われ、
時には同僚や先輩に助けられながら、時には自らも活躍して。そうして彼女は
そんな彼女でも、ここ数ヶ月の忙しさは流石に辛いものがあった。
毎日とまでは言わないが、しかし残業は日常茶飯事。そして今現在も、当然のように徹夜明けだ。そんなブラック企業顔負けの激務に、いよいよ弱音が出そうになっていた。というよりも、既に半分くらいは口から出ていた。
「ああ……もうそんな時間か……すまない、あとちょっとだけ待ってくれ」
同じく
男前と称してなんら問題のないその整った顔には、
隊のエースと、将来を嘱望された新人。
「ピヨちゃん、さっきも同じこと言ってましたよねぇ……?」
「ぬぐ……」
「そんな必死にやったって、どうせ夜には新しい仕事がどっさり追加されるんすよ? 今のうちにご飯食べて軽く寝ておかないと、保たないですって。それにほら、ココ間違ってるし。ね? パイセンもそろそろ限界なんですってば」
「ふー……確かに、
大きく息を吐きだし、目元をぐりぐりと揉みほぐす
「よし、じゃあここまでにしようか。付き合わせてしまって申し訳ない……本当はやめ時がわからなくてね……止めてくれて助かった」
「やったー! やっと開放されたー! そうと決まればメシ行きましょ、メシ!」
「そうだね。こんな時間まで手伝ってもらったし、今日は俺が奢るよ。じゃあ……二階の食堂でいいかい?」
「良いワケないでしょ馬鹿かよ。そのツラでモテないのはそういうとこなんすよ」
ただシンプルに、それ以外の選択肢が思い浮かばなかっただけである。そうところがモテないと言われているワケだが。
「くっ、辛辣だな……なら
「よっし! んじゃあ外に出ましょう! お腹すいてるんで、ガッツリ濃いのが食べたいです! 肉だな!」
そんな情けない先輩兼相棒を引き連れ、
正面入口を警備する二体の大男に挨拶をして、数時間ぶりの陽を浴びる。じっとりと照りつける初夏の日差しが、疲れた身体に少々重かった。
本来であれば車で移動するところだが、疲れと眠気を考慮し、徒歩で商業区へと向かう。
「しっかし、ここ最近の忙しさはどうなってんですかね? 毎日のように事件が起こってますよね? いい加減、マジで勘弁して欲しいです……」
既に賑わいを見せている大通りを歩きながら、半ば愚痴を溢すように話題を提供する。
「総会が近いからだろうね。本当に忙しくなるのは、まだまだこれからだと思う」
「うげぇ……世間じゃお祭りみたいに騒いでますけど、ぶっちゃけ私ら
「それだけ重要なイベントだからね。せめて市民には被害が出ないようにしなきゃ。そのためなら残業くらい、僕はいくらでもしてみせるよ」
そう言って
相当に疲労が溜まっているだろうに、そんなことは気にもならないと言わんばかりであった。それ自体は立派な志だと
「いや、そりゃあまぁ、私も頑張るつもりですけど……っていうか、私らが現着した頃にはもう終わってる……みたいな事件も結構ありましたよね? この間の港湾地区なんて酷かったじゃないですか。現場はあんな悲惨な状況なのに、周囲はもぬけの殻って……一体どうなってんです?」
「確かに……まるで竜巻でも通り過ぎたのかってくらい倉庫はバラバラ。明らかな戦闘痕が残っているのに、被害者にしろ加害者にしろ、その
総会が近づいてきた近頃、大小さまざまな事件が各地で発生していた。
通報の数も増加しているし、各地の詰め所からも不審者捕縛の報せが届いている。といってもそれは、取るに足りない小さな事件が殆どであった。探索者同士のいざこざであったり、酔っぱらいが暴れていたり。わざわざ
原因も、犯人も、理由も。それら全てが分からなければ、対処の仕様がないのだ。
「ま、地道にやるしかないさ」
「そりゃそーなんすけど……あーもう! 仕事の話はやめやめ! 今は忘れましょう! 折角他人のお金でご飯食べるのに、これじゃ不味くなっちゃいますよ!」
「君から始めた話なんだけどね……」
頭をぶんぶんと振り、食事を前に吹っ切れた様子の
普段通りに戻った後輩の姿に、現金なものだと呆れる反面、
「あっ、ちょ! 先輩あそこ見て下さい! めっちゃ美人のメイドさんがいますよ!」
「えっ、どこどこ? うわ、ホントだ。スタイルもいいなぁ」
「ピヨちゃん先輩、意外と結構スケベですよね……あ、隣の子も別ベクトルでかわいいです! 朝からいいもん見たぁー……私達があの人達の生活を守ってるんだって考えると、俄然やる気出てきました! っていうか、メイドとぴえん系ってどういう組み合わせなんですかね!? うははは! 怪しいから職務質問します?」
「別に怪しくはないでしょ……っていうか職権乱用だよ……あと、もう昼前だよ……」
徹夜テンションで騒ぐ後輩は、やはり少々面倒くさかった。