装備置き場改め、クロアの部屋となったセーフハウスにて。
「おう、揃ってんな。んじゃあ時間もあんまりねぇし、さっさとブリーフィング始めんぞ」
「その前に室長、近いです」
「嬉しいだろ?」
「オエェェェ」
現在は深夜であり、
「時間ねぇっつってんだろ。無視すっからな」
隆臣がそう言った直後、画面上には大きな地図が共有された。
開催が3日後に迫った『探協総会』、その会場となる九奈白コンベンションセンターの全体地図だった。
「まず今回の作戦目標だが……まぁ、簡単に言えばテロの阻止だな」
その一言には、流石の
「敵はこれまでに二度、
「それで、総会そのものを中止に追い込むと? いくらなんでも短絡的過ぎませんか? 今回中止にしたって、延期になって別日に開催されるだけでしょう。根本的な解決にはならないと思いますが」
隆臣の話を引き継ぐように、途中で割って入る
上司の話に割って入っても怒られない、随分とアットホームな職場であった。
「あっちからすりゃあ、それでいいんだろ。つまり時間が稼げればいいんだよ。その間にまた別の手段を使う。あるいは仕込む。それが狙いだろう」
「ほーん」
当初、敵の目的は凪の誘拐であった。
娘の身柄を押さえることによって九奈白を脅し、総会で有利な条件を引き出すつもりだったのだろう。しかしそれらの作戦は、
逆に言えば、世界的に有名な犯罪組織を相手にして、迷宮情報調査室はそこまで敵を追い込んでいるという事でもある。これだけ追い込んでおきながら最後の最後でひっくり返されるなどと、そんなことが許容出来るはずもない。
「正直なところ、状況はかなり厳しい。お偉いさん方の誰かが怪我するだけでも中止になりかねん。そうなれば次回開催までの間、また襲撃やら誘拐に備えにゃならん。イタチごっこの始まりだな。おめでとう
「断固阻止しましょう」
ぐっと拳を握りしめ、意気込みを口にする
卒業まで護衛が続くと言われた時、不思議とそこまで嫌な気分ではなかったが。
「まぁそうは言っても、今回はお前関係ないんだけどな。開催期間中の任務は引き続き九奈白凪の護衛。『
「おや? そうなんですか?」
「そりゃそうだろ。折角相手をここまで追い込んでんのに、九奈白凪を
「……」
ならこんなトコに呼ぶなよと言いかける
「では、ここからは私が説明します。総会期間中は室長も現場入りするため、全体指揮は私が執ります」
そうして隆臣からの概要説明が終わったところで、進行役が
「まずは配置について。展望塔、庭園内には
「はーい」
「次にクロアですが――――」
画面に表示された地図上をポインターで示しながら、テキパキとブリーフィングを進めてゆく
* * *
「次、予想される敵戦力についてです」
配置の説明が終わり、議題は次に移る。
というよりも、むしろこれこそが本日のメインであった。
「我々が持っていた情報と、クロアからの情報。それらを総合して出した予測ですので、それなりに確度は高いと思われます」
地図表示から、何者かの指名手配画像へと画面が切り替わる。先日
「最も注意するべき相手が彼女――――通称『
画面に映っていたのは、カメラに向かって妖艶な笑みを向ける美女。どんよりと濁り歪んだ瞳は、どす黒い紅を湛えていた。赤眼というのは本来、
「これはまだ確認中の情報ですが……つい先日、自国の総会参加者を護衛していた『四位』が殺害されました。その下手人と目されているのが、この女です。なんらかの
「まぁ、直接会ったことあるヤツなんて殆ど居ないんだけどぉ……性格は悪いって聞いてるよぉ?」
よくよく見れば、その他の情報欄も空欄であった。無論、『
「ん……?」
「
「んー…………ああーっ! 思い出した!」
瞬間、
「この人、前に会ったことあります! 絶対そんな気が、そこはかとなくします!」
思い出したのか、思い出していないのか。
一体どっちなんだと言いたくなるような、そんな
「
「あっ」