この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。一応、駆け出しの魔狩である。
「ねぇ、勇斗。次の日曜だけどさ」
桃花が、素っ気ない口調で切り出した。
絢染 桃花は魔狩である。十四歳の中学生で、桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。
中学生が放課後に帰宅途中なので、二人とも制服を着ている。オレは廉価品の長剣、桃花はオーダーメイドの両刃の大剣を腰にさげる。
「きゃーーーーーっ!」
住宅地の入り組んだ道に突然に、女の人の悲鳴が響いた。半裸の女の人が、走って路地へと逃げていった。
「なに!? どしたの!?」
桃花が困惑顔で、周囲を見まわす。
オレは、この世界から狭間が見える特殊能力持ちだ。だから、一瞬だけ見えた。
「服だけを溶かすスライム……?」
「服だけを溶かすスライム……?」
オレの呟きを、桃花が繰り返した。軽蔑の眼差しでオレを見ていた。
◇
日曜になった。
オレと桃花と琴音で、住宅地の真ん中にいる。先日、魔狩がスライムに襲われた辺りになる。
魔狩ギルドから、数人の大人が補助に入る。物資の提供、交通規制、怪我人の治療、送迎といった、戦闘以外のバックアップをしてくれる。中学生の魔狩には、とても助かる。
スライムの犠牲者は、オレたちも目撃した女の人と、マッチョの大男だそうだ。二人とも『ウォリア』で、物理攻撃のほとんど効かないスライムに手も足も出なかったらしい。
「なんで『ウォリア』のアタシが、スライム退治を手伝うのよ?」
桃花が路地のブロック塀に悪態をついた。
「ごめんなさいごめんなさい! 頼れる人が他にいなくて」
琴音が桃花の背中に頭をさげた。
頼れる、との言に反応して、照れた桃花が頬を赤らめる。ちょっと頼られると、いつも簡単に喜ぶ。
「ま、まぁ、いいわよ。友だちの頼みだもんね、うん」
ビックリするくらいにチョロい。幼馴染みながら、将来が心配になる。
「諸君!」
黒いスーツ姿の、親よりも年上くらいのオッサンが駆けつけた。背が高く痩せ型で、サングラスと整った髭と、左瞼の縦の傷痕が特徴的な、哀愁漂う渋いオッサンだ。
「間もなく、作戦を開始する。準備をしておいてくれ」
このオッサン、片桐は、この区域の担当責任者で、現場に立つ中では一番偉い人らしい。
「任せて、片桐さん」
「は、はい! わっ、わたし、頑張ります!」
「オレ、緊張してきたっす」
「無茶はするなよ。命を大事に、だ」
歴戦の戦士の強面だけど、渋い低音ボイスだけど、話の分かる大人だ。
◇
『はい!』
三人で、力強く返答を重ねた。拳をギュッと握って気合いを入れた。
桃花が前に立つ。スライムの気を惹く囮役を務める。
いつものノースリーブにミニスカートにスニーカーだ。腰には、両刃の大剣を納めた茶色の大きな革鞘だ。私服はいつもこんな感じだ。
オレは、替えの服やら詰まったカバンをいくつも抱えて、少し離れた電柱に隠れる。桃花に呼ばれて来たけど、オレがいる意味は分からない。
オレも普段着のTシャツジーパンスニーカー、腰に長剣である。
琴音が、桃花の後方に立つ。
レースやフリルをふんだんに使った白銀の、魔法少女みたいな衣装を纏う。レースの手袋の手には、赤いハートと白い翼で飾られた片手サイズの杖を握る。
灰色の長い髪の、固い三つ編みを解く。灰色が、白銀の髪色へと変わる。
「遠見君! 絢染さん! よろしくお願いします!」
琴音は、攻撃魔法を使える『ウィッチ』である。物理に強く魔法に弱いスライム退治の主力を務める。
……否! 魔女なんて地味なもんじゃあない。琴音は、魔法少女である!
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第3話 EP1-3 服だけを溶かすスライム/END