この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。一応、駆け出しの魔狩である。
オレもついに、狭魔に襲われた。
運好く、今回は死なずに済んだ。倒せるとは、最初から思ってない。
でもまたいつか、襲われる。どちらかが消えるまで、何度でも、何度でもである。
生き残れる気がしない。
オレは慌てて、魔狩ギルドに助けを求めた。
しかし、自力でどうにかするしかない、と結論された。諦めかけたオレに、顔見知りが声をかけてきた。
◇
「……あ。古堂さん」
オレは、力なく応えた。
古堂 和也は魔狩である。弓矢での遠距離戦に秀でる『スナイプ』で、小型の洋弓を背負う。
オレや桃花の近所に住む、大学生である。金髪を逆立て、黒い革ジャン革パンツの、派手な出で立ちの男である。
「古堂さん! こんちは!」
桃花の挨拶に、古堂がビクッと肩を震わせ身構えた。
「出たな、バイオレンス絢染! 永遠のライバルと、いつもセットでいやがって!」
古堂は桃花が苦手だ。きっと、一般人に毛の生えた程度の力量しかないからだろう。
「……それだっ!」
◇
オレは、一縷の望みに賭けて、古堂を受付カウンターに引き込んだ。
「……これはっ?!」
黒髪をきつく纏めた受付嬢が、個人データを見ながら驚く。
「奇跡ですね。遠見さんは非戦闘系の特殊能力者なので分かりますが。戦闘系の『スナイプ』で一般人並みに弱い方がいらっしゃるとは、思いませんでした」
「弱いでしょ。ザコでしょ。ビックリでしょ」
桃花が笑いながら強調した。
「おいおいおい、やめてくれよ。俺っちは繊細なんだぜ。弱い弱い連呼されたら泣いちゃうぜ」
「今さらでしょ、古堂さん」
桃花が笑いながら、バンバンと古堂の背中を叩く。
「やめろ! バイオレンス絢染! 本気で痛い!」
「二対一であれば、勝てる見込みもあるでしょう」
受付嬢が、小袋に密封された『刻印』を二個差し出す。見た目は、ゴテゴテしたオモチャの指輪である。
「ありがとう、ございます」
「いきなり、まさかの大役だぜ」
オレと古堂で、緊張して、硬い口調で受け取った。
◇
「ということで、まずは武器、特訓、努力、友情、勝利よ!」
魔狩ギルドのトレーニングルームで、仁王立ちで腕組みして、桃花が声を張りあげる。
薄汚れた白い衝撃吸収材に覆われた大部屋で、体育館くらいに広い。
オレの手には、廉価品の長剣よりも一回り大きな、片手大剣がある。
重い。腕が攣りそう。已む無く、両手で持つ。
腕組みした桃花が、説明口調で続ける。
「ちょっと特訓しても大して強くはなれないわ。だから、扱えるギリギリサイズの武器で、一撃必殺を反復練習するのよ。次はない、一回ポッキリ、ワンチャンス狙いよ」
トレーニングルームを、人の頭くらいの大きさの、薄汚れた白いボールが跳ねまわる。
古堂が、小型の洋弓を構える。矢を番え、弦を引き絞る。跳ねまわるボールを追って、狙いを右往左往させる。
「イカしたトレーニング、俺っちからイクぜ! おりゃっ!」
矢を放った。空を切り弧を描き、外れた。床のクッションに、ポスッ、と落ちた。
「違うんだ、本当の俺っちは、こんなにダサく無ぇ! 的が小さすぎるぜ、スパルタ絢染! 今回の狭魔は、人より大きな獣型なんだろ!?」
桃花に抗議を放った。
「急所に当てないとだから、その的でも大きいくらいよ」
素っ気なく叩き落とされた。
「つ、次は、遠見 勇斗、行きます」
緊張しすぎて、学校行事みたいな宣言をした。
片手大剣を両手で持つ。重くて、腰より少し下で構える。
「うっ、うりゃぁぁぁっ!」
気合いを入れて、的のボールに先端を突き出した。
もちろん、外れた。剣が重くて、狙いが定まらなかった。
「まぁ、最初はそんなもんでしょ。ほら、次! どんどん行くわよ!」
桃花だけ、張り切って声をあげた。
オレも、たぶん古堂も、この先に不安を感じていた。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第6話 EP1-6 古堂は弱い/END