この世界せかいの隣となりには、『狭間はざま』と呼よばれる世界せかいがある。

　狭間はざまには、『狭魔きょうま』と呼よばれるモンスターが出でる。

　狭魔きょうまを倒たおす、『魔狩まかり』と呼よばれる人間にんげんがいる。

　　　◇

「おはよ、勇斗ゆうと！」

「おう。おはよう、桃花ももか」

　いつものように、オレと桃花ももかは同おなじタイミングで家いえを出でる。いつものように、肩かたを並ならべて登校とうこうする。

　オレは、遠見とおみ　勇斗ゆうと。十四歳さいの中学生ちゅうがくせいで、冴さえないメガネ男子だんしである。一応いちおう、駆かけ出だしの魔狩まかりである。

　中学生ちゅうがくせいの登校とうこう風景ふうけいだから、制服せいふくを着きている。男子だんしは黒くろの学生服がくせいふく、女子じょしは赤あかいスカーフのセーラー服ふくである。

　一般人いっぱんじんは廉価品れんかひんの剣けん、オレは廉価品れんかひんの長剣ロングソード、桃花ももかはオーダーメイドの両刃りょうばの大剣たいけんを腰こしにさげる。

　校門こうもんが見みえてきた。他ほかの生徒せいとたちに交まじって、歩ほを早はやめた。

「あー。チッ。今日きょうは、風紀ふうきチェックの日ひだったっけ」

　桃花ももかが舌打したうちした。

　絢染あやそめ　桃花ももかは魔狩まかりである。十四歳さいの中学生ちゅうがくせいで、桃色ももいろの長ながい髪かみで、華奢きゃしゃで、胸むねが小ちいさい。

　　　◇

「絢染あやそめさん！　ちょっと、スカートが短みじかいのではありませんか？」

　案あんの定じょう、風紀ふうき委員いいんに名指なざしで呼よび止とめられた。

　風木かぜき　楓かえでは風紀ふうき委員いいんである。薄緑うすみどり色いろの長ながい髪かみをおさげにして、目めつきが鋭するどく、痩やせ型がたである。

　十四歳さいの中学生ちゅうがくせいで、魔狩まかりでもある。腰こしに、天使てんしの彫刻ちょうこくの柄つかの細剣レイピアをさげる。

「風紀ふうき委員いいんさんも魔狩まかりだから分わかるでしょ？　短みじかい方ほうが戦たたかいやすいのよ」

　桃花ももかが喧嘩腰けんかごしで反論はんろんした。こいつはいつもこうだ。

「それは分わかります。でも、限度げんどがあるでしょう？」

　楓かえでがキツい口調くちょうで答こたえた。

「限度げんどって？　見みえなきゃいいでしょ？」

　桃花ももかが棘とげのある口調くちょうで言いい返かえした。

「まぁまぁまぁ。桃花ももかにはオレから言いい聞きかせておくから、ここは大目おおめに見みてくれよ。な、風木かぜきさん、頼たのむ」

　オレは腰こしを低ひくく、楓かえでを拝おがんだ。

　楓かえでが桃花ももかを睨にらむ。ふぅ、と溜ため息いきをついてオレを見みる。

「分わかりました。あとは遠見とおみ君くんにお願ねがいします」

「ありがとう、風木かぜきさん！」

　オレは喧嘩腰けんかごしの桃花ももかを引ひっ張ぱって、校舎こうしゃに急いそいだ。

　だいたい毎回まいかい、こんな感かんじだ。

　　　◇

「ってことがあってさ」

　昼休ひるやすみに、オレと桃花ももかと琴音ことねの三人さんにんで、昼食ちゅうしょくを広ひろげた机つくえを囲かこむ。

　真奉しんほう　琴音ことねは、クラスメートで魔狩まかりである。銀縁ぎんぶちの丸まるメガネをかけたメガネ女子じょしで、灰色はいいろの長ながい髪かみを三みつ編あみにして、小柄こがらで胸むねが大おおきい。

　腰こしに、赤あかいハートと白しろい翼つばさで飾かざられた片手かたてサイズの杖つえをさげる。

「いつものことですが、遠見とおみ君くんも大変たいへんですね」

　琴音ことねが歓談かんだんの口調くちょうで答こたえた。

「琴音ことね。他人事ひとごとなの？　もっと親身しんみになってくれてもいいのよ」

　桃花ももかが琴音ことねの肩かたを掴つかんだ。鼻先はなさき同士どうしが当あたりそうに迫せまった。人付ひとづき合あいの少すくなさゆえに、絡からみ方かたの距離感きょりかんもおかしい。

「あっ、あっ、絢染あやそめさんっ！　近ちかいです！　近いです！」

　琴音ことねは恥はずかしそうに顔かおを真まっ赤かにして、離はなれようとする。もちろん、桃花ももかの腕力わんりょくを振ふり解ほどけるわけがない。

　桃花ももかが一緒いっしょにいると、一般人いっぱんじんは近寄ちかよらない。身体しんたい能力のうりょくの人間にんげん離ばなれした桃花ももかに、恐怖きょうふし委縮いしゅくしてしまうのである。

　　　◇

「ところで、遠見とおみ君くん、絢染あやそめさん。このような噂うわさを耳みみにしたことはありませんか？」

　机つくえの中央ちゅうおうに、琴音ことねがスマホを置おく。小ちいさな唇くちびるの前まえに、人差ひとさし指ゆびを立たてる。

　オレはヤキソバパンを齧かじりながら、画面がめんを見みる。

　文字もじだけの資料しりょうで『新種しんしゅの能力のうりょく増強薬ぞうきょうやくに関かんして』とある。

　人差ひとさし指ゆびは、他ほかの生徒せいとに聞きかれないように、との意味いみだろう。

「えっ？　これって、ふがっ」

　嫌いやな予感よかんがしたので、桃花ももかの口くちを手てで塞ふさいだ。

　琴音ことねが前屈まえかがみ、小声こごえで話はなす。胸むねが大おおきい。

「この手ての話はなしはよくありますが、いわゆるドラッグです。依存性いぞんせいが強つよく、ある種しゅの興奮こうふん状態じょうたいになる、危険きけんなものだそうです」

　ようやく理解りかいした桃花ももかも前屈まえかがみ、小声こごえで話はなす。胸むねが小ちいさい。

「ねぇ、琴音ことね。そういうのに興味きょうみを持もつのは分わかるけど、やめた方ほうがいいと思おもうわ」

「……えっ？！　ちっ、違ちがいます！　ふがっ」

　嫌いやな予感よかんがしたので、恥はずかしそうに顔かおを真まっ赤かにした琴音ことねの口くちを手てで塞ふさいだ。

マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第8話 EP2-1 能力のうりょく増強薬ぞうきょうやく／ＥＮＤ