この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
ジャージ姿の、背の高い巨乳女教師がグラウンドに立つ。
「村田先生が入院されている間ぁ、皆さんに保健体育を教えまぁす。臨時教師の秋葉でぇす」
会釈で巨乳が重そうに揺れる。ジャージのジッパーが弾け飛ぶんじゃないかと、見ていて期待、もとい、心配になる。
『うお~~~っ!』
男子たちから歓声があがった。
「皆さぁん。よろしくお願いしますねぇ」
『よろしくお願いしまっす!』
男子たちが力強く声を揃えた。
「これだから男子どもは……」
桃花含めて女子数名のボヤきが聞こえた。
まぁ、今は、どうでもいいことか。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。一応、駆け出しの魔狩である。
放課後に制服のまま来た。腰にさげるのは、廉価品の長剣だ。
「西の廃アーケード。十年前の禍事件で閉鎖、放棄されたそうです」
あちこち崩れて廃墟と化したアーケードを前に、琴音がスマホで過去記事を読みあげる。
アーケードの面影は、上方のアーチ状の鉄枠と、そこに僅かに残った割れガラスくらいしかない。左右は、商店や飲食店の残骸とか、窓の割れたビルとかに挟まれる。
不気味だ。不気味すぎだ。
真奉 琴音は、銀縁の丸メガネに灰色の長い髪を三つ編みにして、小柄で胸が大きい人見知りの女子である。
腰に、赤いハートと白い翼で飾られた片手サイズの杖をさげる。
「聞いたことはあるわね」
桃花が琴音の肩に顎を置き、頬と頬をくっつけながら覗き込んだ。
絢染 桃花は桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。
腰に、自身と同サイズの両刃の大剣をさげる。
「あっ、あっ、絢染さんっ! 近いです! 近いです!」
琴音が、恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。強く目を瞑って、頬寄せる桃花から真っ赤な顔を逸らす。
桃花は人付き合いの距離感がおかしい。
「何人も死んで、幽霊が出るって噂だぜ。幽霊なんて非科学的だよな」
オレは軽い口調で話を合わせた。
まだ夕方にもなっていなくて、明るい。こんな怖いとこに、暗い夜にいられるわけない。むしろ夕方になる前に帰りたい。
真っ赤な顔で仰け反る琴音が、恥ずかしさに身悶えながら補足する。
「複数の禍が集中的に発生して、ランクAの魔狩から一般人まで幅広く、多くの被害が出たとありました。不運に不運が重なった、不幸な事件だったみたいです」
禍とは、簡単に言うと『人を殺した狭魔』である。
狭魔は強い人間と戦うために狭間に魔狩を引き込む、と考えられている。強すぎる狭魔に襲われることは基本的にないし、狭間の時間制限もあって、狭魔に殺される人間は少ない。
「ふ、ふ~ん、そうなんだな?」
オレは、一気に怖さが倍増した。ここは本当に、幽霊くらい出ても不思議じゃない心霊スポットのようだ。
怖さを紛らすために、桃花と琴音のじゃれ合いを呆れ半分に眺める。
不意に、誰かがオレの肩を叩いた。
◇
「うぎゃっひぃぃぃーーーっ!?」
オレは、自分の声とは信じ難い高い悲鳴が出た。
「きゃぁっ!?」
桃花もつられて、桃花にあるまじきカワイイ悲鳴をあげた。
「うおっ?! ビ、ビックリさせて済みません、絢染様と、そのお友だちさん」
制服を着崩した、ガラの悪い生徒の一人だった。手揉みしながら諂っていた。
「べ、別に、ビックリなんてしてないわよ? 非科学的だわ」
「そ、そうだぜ。実在するわけないだろ?」
まぁ遅いとは思うけど、桃花もオレも平静を取り繕った。
ガラの悪い生徒が、オレたちの反応をスルーして続ける。
「いや~、会えて良かったっす。お願いしたいことがあって」
「何かあったの?」
「はい。それが、暗井のやつが溜まり場に来ないんで、ちょっと気になって捜したんすけど、学校にも家にもいなくて。あ、俺、近所に住んでて仲いいんすよ」
不意にガラガラと、廃墟の方から瓦礫の崩れる音がした。
◇
「うぎゃでたーーーっ?!」
「いやっ?! いやぁーーーっ!!!」
オレと桃花の悲鳴が廃墟に木霊した。
前途多難だ。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第12話 EP2-5 西の廃アーケード/END