この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
「それで、新しい情報があったのか?」
オレは校舎の端の曲がり角に凭れて、独り言を装った。
「左様。このツ◯ッターを見るでござる」
角を曲がった先の壁に凭れる男子が、こちらを見ずにスマホを差し出す。情報屋のオンゲ仲間、もとい、正体不明のネットニンジャである。
「ツ◯ッター……? あぁ、◯ックスか」
「ツ◯ッターにござる」
オレが受け取ろうとしたスマホを、相手が急に引っ込めた。
「あ、あぁ、失言だった。ツ◯ッターだったな。ツ◯ッターだ」
再び差し出されたスマホを受け取る。
「……うへぇ」
思わず、嫌悪が漏れた。
モテ男のモテ自慢だ。オレたちには一生縁のない、リア充のチラシの裏だ。
「拙者が当校の生徒と目星をつけるアカにござる。ちょっとでも仲良くなった女子をカノジョ呼びすると悪評の、二組の新野殿にござろう」
嫉妬に塗れた補足説明が入った。
「二組の新野って、確か、『カリスム』の特殊能力者か」
オレと同じで特殊能力者だから憶えてる。『人に好かれやすい』という、ダントツで狭魔に無意味な能力である。
目を背けたくなる自己陶酔ツ◯ートが並ぶ。~がこっちばかり見て疲れる、とか、~が優しすぎて重い、とか、キモすぎる。
「これか……」
一つ、それっぽいのがある。
内容を要約すると、『二人の距離を縮めるクスリを、立場的に明かせない人から貰って、禁断の恋の予感』とある。
オレはまだ、『新種の能力増強薬』を独自に勝手に調査してる。手掛かりがないから打ち切りなんて、気分がモヤモヤして、とてもじゃないが受け容れられない。
「他に、このことを知ってるヤツは?」
「拙者の勘にすぎぬ。情報ですらないでござる」
「よし。他言無用に頼む。危ないから深入りもするなよ」
「合点承知の助。報酬は、いつもの口座に頼むでござる」
オンゲ仲間、もとい、ネットニンジャの足音が階段をあがっていく。
オレも、その場を離れて、廊下を教室へと歩く。
まだ何も終わってない。
オレは、一人でも答えに辿り着くつもりだ。
◇
手掛かりは得た。次は、協力者だ。
オレと桃花と琴音の三人で、放課後の校舎裏に集合した。校舎の裏口の階段に、三人並んで座った。
「ってことなんだ」
オレが得た情報を、二人に開示する。
琴音が、ビックリした。銀縁の丸メガネの奥の瞳を動揺に揺らして、蒼褪めた。
「ここっここれは、守秘義務違反になっ、なってしまうのですがっ」
琴音は続けて、口だけを忙しなく動かす。テンパってワチャワチャと両手を振る。
動揺しすぎて上手く言葉にならないようだ。
恥ずかしさに真っ赤な顔を両手で覆う。消えたい、みたいな独り言が微かに聞こえる。
「狭聖教団は、ご存知ですか?」
琴音がようやく本題に入った。
「知ってる知ってる。狭魔を神の使いって崇拝する、ヤバい集団よね」
桃花が、楽しいお喋りの口調で答えた。
オレは察して、泣きながら桃花の腰に抱きついた。
「そんな怖い案件だなんて思わなかったんだよぉ~」
「はいはい。ビビリのくせに、いっつも危険に首を突っ込むわねぇ」
桃花が、オレの臆病を知る半笑いで、オレの頭を撫でる。
狭聖教団が絡むなら、中学生の出る幕じゃない。大人でも二の足を踏む、危険な集団だ。
表面的には、妄言を繰り返すマイナーな新興宗教。裏では何をしてるか分かったもんじゃない。狭魔を飼ってる、なんて噂まである。
道理で、調査が呆気なく打ち切られるわけだ。
狭聖教団なんてヤバい連中は、表立って捜査できない。裏で慎重に、捜査のプロが慎重を重ねて捜査してるに違いない。
中学生の素人なんて、邪魔でしかない。
「終わり! 解散! この話はこれで終わり!」
オレは泣きながら宣言した。
こうして、オレの『新種の能力増強薬事件』は終わった。
終わった、はずだった。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第18話 EP4-1 狭聖教団/END