この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
「お二人にも、お世話になりました」
麗美が淡白な口調で、丁寧に頭をさげた。
小織 麗美は魔狩である。十四歳の中学生で、冷たい雰囲気の美少女である。青く透き通るサラサラストレートヘアで、目つき鋭く無表情で、着飾ったドールみたいなカワイさもある。
狭魔討伐を終えて、麗美は元の学校に戻る。カワイイ系の私服で、お世辞抜きにカワイイ。
「はいはい。用が済んだんだから、とっとと帰りなさい」
桃花が素っ気なく手を振った。
絢染 桃花は魔狩である。十四歳の中学生で、桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。オレの幼馴染みで、クラスメートで隣の席である。
いつもの私服、ノースリーブにミニスカートにスニーカーである。腰には、両刃の大剣を納めた茶色の大きな革鞘をさげる。
「観光くらいさせてください。またいつ琴音御姉様と二人っきりになれるか、分かりませんのですから」
麗美が、邪魔者を見る目で睨んだ。
「琴音の家に一週間もお泊まりしたんでしょ? 十分でしょ? アタシもお泊まりしたかった!」
桃花が、イチャモンをつけるドサクサで願望を口に出した。
桃花は友だちが少ない。
「定番の駅ビルでいいんじゃないか? 遊べるとこも土産屋もあるし。知名度のない偉人の史跡巡りとか、しないだろ?」
オレは思慮深く提案した。
「そうですね。四人で遊ぶなら、それがいいと思います」
琴音が控えめに賛成した。
真奉 琴音は魔狩である。銀縁の丸メガネをかけたメガネ女子で、灰色の長い髪を三つ編みにして、小柄で胸が大きい。フリルやレースがいっぱいのキュートな私服を好む。
「どうして! 二人して、わたくしと琴音御姉様の、二人っきりの時間を邪魔いたしますの!? 琴音御姉様まで!」
麗美がキレた。キレ方もカワイイ。
「ひっ、ひぃぃぃ~」
琴音が怯えた瞳でナチュラルに、小さく悲鳴をあげた。オレの背中に隠れた。
「まぁ、いいじゃない。二人より四人の方が楽しいわよ」
桃花がデリカシー皆無に笑った。
◇
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎ去る。いよいよ、お別れのときが来る。
閑散とした駅のホームで、列車の発車時刻が近づく。
「琴音御姉様……」
淡白な麗美の目にも涙が浮かぶ。
琴音が優しく微笑む。
「麗美ちゃん。会おうと思えばいつでも会えますよ」
「琴音御姉様!」
麗美が琴音に抱きついた。大きな胸に顔を埋めた。
琴音が麗美の頭を撫でる。
麗美は、琴音の大きな胸に顔を埋めたまま動かない。
顔を見られたくない感じなのだろう。涙でクシャクシャなのか、興奮で息が荒いのか、は置いておいて。
「麗美……」
桃花の目にも涙が浮かぶ。
学校での麗美は、ずっと『突然の転入生』のままだった。『謎の美少女』のイメージを崩さなかった。
桃花とは別のベクトルで、友だちを作るのが苦手なのだろう。桃花と同じで、友だちが少ないのだろう。
「麗美っ!」
感極まった桃花が両腕を広げて、麗美に抱きつこうと飛びつく。
麗美は琴音の大きな胸から瞬発的に顔をあげる。おでこを桃花のおでことカチ合わせ、受けとめる。
「だからどうして! 邪魔いたしますの!? それから、わたくしの琴音御姉様に馴れ馴れしくしないでいただけます?!」
「なによそれ、せっかく貰い泣きしてあげたのに! また来なさいよ! アタシも一緒にお泊まりさせなさいよ!」
桃花と麗美が、鼻先同士を突き合わせて睨み合った。
「お二人とも! 近い、近いです!」
琴音が赤面して、赤い顔を両手で覆った。
オレは笑顔で見守る。
泣いて悲しむ別れでもあるまいし、こんな感じでいいと思う。
そして発車のベルが鳴って、麗美は帰っていった。
短くも楽しい『氷の転校生』との日々が、終わったのだった。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第30話 EP5-7 麗美帰る/END