この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
女記者の刺々しい質問で、インタビューが始まった。
高ランク魔狩は本当に、『人々を守るヒーロー』なのか?
具体的に『人々を守る』とは何ぞや?
強い狭魔に引き込まれた強い魔狩が、ソイツを倒す。遥かに弱い一般人に、何の意味があるのか?
難しい質問だ。
狭魔は、強い人間を選んで狭間に引き込む。この世界と狭間が重なることはない。だから、強い狭魔は一般人=弱い人間を襲わない。
「強い魔狩が、襲いくる強い狭魔を倒す。強い狭魔は、弱い一般人は襲わない。それって、何も守ってはいないように、素人目には映るのですが」
女記者が笑顔でダメ押しした。
「それは、そうかもね。アタシも、襲ってくるから返り討ちにしてるだけで。顔も知らない多くの人を守ってる感覚なんて、ないわ」
桃花が真顔で答えた。
何も考えてない、脳筋の、ブレないなぁ、と感心する。
「あら、やっぱり? 若い娘って退屈な建前がなくていいわね」
女記者が笑顔で称賛した。
◇
「例えば」
皐月が微笑で、上品に口を開く。
皐月に、女記者も、桃花も、オレも注目する。現役の最強『ウォリア』の理念なんて、そう聞けるものじゃない。
「私が対処します狭魔は、こちらの世界に多少なりとも悪影響を及ぼしますわ」
「最強ランクの魔狩の皆さんは、その悪影響から人々を守っていらっしゃると?」
女記者が質問を挟んだ。
皐月は少しだけ黙して、考えを巡らせた。
「なぜだか不安になりますとか、気分が落ち込みますとか。はたして、悪影響と呼べるものか、守ると胸を張れるほどのものかは分かりませんわ」
皐月はどこまでも微笑で、どこまでも上品だ。
「ご謙遜を。そうでなければ、最強と呼ばれる皆さんがヒーローと持て囃されるはずがありません」
「私は、全ての狭魔に、程度の差はありましても、同様の悪影響があると考えていましてよ。ですから、狭魔を倒す全ての魔狩が人々を守っている、と言えますのではないかしら?」
皐月が笑顔で締め括った。
◇
難しい問題だ。
そもそも、魔狩と狭魔が戦うところは、戦う当事者にしか見えない。
狭魔の恐ろしさとか、魔狩の覚悟とか、魔狩ではない人には分からないだろう。
オレは、この世界から狭間が見える能力持ちだから、見える。
見えても、まだ他人事だった。自分が狭魔に引き込まれるまで、見物客の気分だった。
見えもしないのに、知りもしないのに、ヒーローか否か、なんて分かるわけがない。結局のところ、圧倒的な強さゆえに、各所でヒーローと紹介されるゆえに、ヒーローと呼ばれているだけなのだろう。
「さすがです! 素敵です! 想像してた通りです!」
女記者が急に立ちあがった。スーパーヒロインに憧れる女児みたいに瞳を輝かせて、皐月を称賛した。
「あ、意地の悪い質問をしてしまって済みません! 上司が、褒め称えるだけの誌面なんて退屈だ、ってゴネちゃって。ファンです、尊敬してます!」
◇
「本日は、当誌のインタビューを受けていただき、ありがとうございました」
女記者が、深々と頭をさげた。
あの後は、恋人はいるのか、みたいな当たり障りのない質問ばかりだった。完全に女子トークだった。
オレとしては、桃花が余計な情報を漏らさなければ、それでいい。これで、付き添いの役目を全うできたはずだ。
三人とも、ソファから立ちあがる。オレはもともと立ち見である。
「夢みたいな、素晴らしい時間でした」
女記者が、両手でガッチリと、皐月と握手を交わした。
「桃花ちゃんも、ありがと。若い娘の本音が聞けて、新鮮だったわ」
続けて、桃花と握手を交わした。
「……えぇっ!? まっ、まさかですわっ!?」
皐月が、途轍もない事実に気付いた顔で、驚く。己の両手を凝視する。
「もしかしまして! 間接キスではないかしら?!」
「間接握手でしょ。発想が気色悪い」
桃花が気色悪いものを見る目で、素っ気なく返した。
「視線が冷たい! そこが好き!」
皐月は素っ頓狂に叫んだ。
あれが現役の最強『ウォリア』なのだから、世の中は面白い。常軌を逸した狭魔を真っ向から叩き潰す勇姿を知っていれば、なおさらだ。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第32話 EP6-2 戦う理由?/END