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第44話 EP8-4 オレが溺れるはずがない

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 レジャープールの閉園へいえん時間じかんちかい。ほとんどのきゃくかえって、閑散かんさんとしている。

 オレたちも、そろそろかえる。いえちかいとギリギリまであそべて素晴すばらしい。


 オレはさき着替きがえて、普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーである。一人ひとりふかいプールのプールサイドにたたずむ。

 古堂ふるどうは、金髪きんぱつ逆立さかだてるのに時間じかんがかかるそうだ。桃花ももか琴音ことねは、女子じょしだから、なにかと時間がかかるのだろう。


 になることがあって、ここにいる。もうだれおよいでいないプールは、不気味ぶきみうつる。おぼれかけたってのもある。

 いまでも不可解ふかかいだ。まったおよげないわけでもないし、オレが簡単かんたんおぼれるはずがない。自身じしん名誉めいよのために何度なんどでもかえそう、オレが簡単かんたんおぼれるはずがない。


しおがする、か……」

 ボーイッシュな少女しょうじょ言葉ことばおもす。うみちかいからはなのいいひとかるのかな、とおもう。


りないね、キミ? このプールには、ちかづかないほうがいいよ」

 ボーイッシュな少女しょうじょこえがした。

「あっ! あのときたすけていただいて、ありがとうございましたっす」

 オレはあらためて、感謝かんしゃあたまをさげた。


 おぼれたオレをたすけてくれた、あおみがかったくろのショートカットの、ボーイッシュな少女しょうじょである。水色みずいろ競泳きょうえい水着みずぎうえしろティーシャツをて、もり背負せおう。


 全身ぜんしんが、しなやかでスラリとしてる。むねおおきすぎずちいさすぎず、おんなひとってかんじのボディラインである。


   ◇


「いや~。おずかしいかぎりっす。普通ふつうなら、あの程度ていどおぼれるはずないんすけど」

 オレは、さりなく弁明べんめいした。何度なんどでも、何度でもかえそう、オレが簡単かんたんおぼれるはずがない。


「ふふっ。たとえば、ここが普通ふつうではなかったとしたら……?」

 ボーイッシュな少女しょうじょが、訳知わけしがおで、意味深いみしんに、どこかたのしげにわらった。


 不意ふいに、のせいか、しおがしたがした。

「やった! アタリ! た!」

 ボーイッシュな少女しょうじょ歓喜かんきして、ティーシャツをてた。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。

 ……いや、たぶん、前触まえぶれは、あった。


   ◇


 灰色はいいろ狭間はざまに、ボーイッシュな少女しょうじょがいる。


 オレは、この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちだから、見える。


 おかしい。いつもとは、あきらかにちがう。


 少女しょうじょいて、およぎみたいにあしうごかす。くちはしから、しろあわをのぼらせる。

 対峙たいじする狭魔きょうまは、うろこ逆立さかだったさかなみたいなをして、おなじくいている。


 数秒すうびょう混乱こんらん。……完全かんぜん理解りかいした!


 ヤバい! 水中すいちゅうだ! 水中の狭間はざまだ!

 水中すいちゅう狭魔きょうまには、『まがつ』がおおい。理由りゆう単純たんじゅん明快めいかいだ。


 まがつとは、簡単かんたんうと『ひところした狭魔きょうま』である。


 日常にちじょうから唐突とうとつに、水中すいちゅうになったら、ほぼだれでもパニックになる。

 運好うんよくパニックにならずにんだとしても、まともにうごけず呼吸こきゅうもままならない水中すいちゅうで、こころ準備じゅんびをするもなく、水中を自由じゆううごける狭魔きょうまおそってくる。

 てるわけない。狭魔きょうま攻撃力こうげきりょく自分じぶん防御力ぼうぎょりょく生命力せいめいりょく狭間はざま制限せいげん時間じかん、などなどのうんわるければ、アウトだ。


   ◇


 ボーイッシュな少女しょうじょ状況じょうきょうを、理解りかいはした。理解りかいしたとして、オレにはてるしかできない。


 こうなる、と予想よそうしてる様子ようすではあった。かんじ、パニクってもいない。

 こうなっては、無事ぶじにこっちにもどってこれるよう、いのるしかない。


 灰色はいいろ狭間はざまに、ブクブクとしろあわがあがる。えもしないはる下方かほうから、幾筋いくすじも、幾筋いくすじもあがる。


 さかな狭魔きょうま尾鰭おびれ左右さゆうおおきくった。少女しょうじょけて、加速かそくして、突撃とつげき仕掛しかけた。


 少女しょうじょの、しなやかでスラリとした肢体したいが、けない速度そくどうごいた。ひるがえし、迂回うかいするように、ギリギリで、さかな狭魔きょうま突撃とつげきかわした。

 逆立さかだうろこが、日焼ひやけしたうでかする。あかれて、あかいとみたいに水中すいちゅう棚引たなびく。

 少女しょうじょかまわず、人魚にんぎょみたいな華麗かれいおよぎで、さかな狭魔きょうまうえ位置取いちどった。りかぶったもりを、さかな狭魔きょうまへとげつけた。


 水中戦すいちゅうせん得意とくいとする『魔狩まかり』がいる。『マーメイ』とばれる。戦闘系せんとうけいでは希少きしょうとされる。


 はじめてた。とっても幻想的げんそうてきで、とってもキレイだ、とおもった。


   ◇


 夏空なつぞらからちてくる小石こいしを、ボーイッシュな少女しょうじょがキャッチする。狭魔きょうまたおすと、えて小石こいしわる。


残念ざんねん。ハズレ。雑魚ざこだったか」

 ボーイッシュにつぶやいた。


「あ、あの。うでてるっす」

 オレが戸惑とまど気味ぎみこえをかけると、さわやかなみでこたえる。

「うん? あぁ、平気へいき心配しんぱいしてくれて、ありがと」

 てたティーシャツをひろって、うできずく。


「じゃあね、キミ。おれさんたちには、狭魔きょうまのせいでおぼれた、ってうといい。もう、たおしたから、大丈夫だいじょうぶだけどね」

 けて、りながら、閑散かんさんとした園内えんないあるった。わらってるみたいに背中せなか上機嫌じょうきげんえたのは、きっと、さかな狭魔きょうまだけに雑魚ざこ、みたいな自身じしん発言はつげんがツボったのだろう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第44話 EP8-4 オレがおぼれるはずがない/END

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