この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。普段着のTシャツジーパンで、腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
夕飯を終えて軽くなった皿を、皆で片づける。旅行感があって、片づけすら楽しい。
「琴音! 今夜は、一緒に寝るわよ!」
桃花が琴音を指名した。友だちとお泊まりしたい!、の欲望全開だ。
絢染 桃花は魔狩である。オレの幼馴染みで、十四歳の中学生で、桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。
いつもの私服、ノースリーブにミニスカート姿である。
「……えっ!? えええええっ?! わっわっわわわたしがっ、あああ絢染さんとっ!?」
琴音が顔を真っっっっっ赤にして、パニクった。
真奉 琴音は、オレと桃花のクラスメートである。銀縁の丸メガネに灰色の長い髪を三つ編みにして、小柄で胸が大きい人見知りの女子である。フリルやレースがいっぱいのキュートな私服を好む。
二人とも楽しそうだな、と微笑ましく思う。でも、申し訳ない気持ちで、横槍を入れる。
「まあ、待て、桃花」
「なによ? 勇斗も一緒に寝る?」
桃花が楽しげな笑みで応えた。
おおっと!? とんでもない流れ弾が飛んできた。オレは、万全を期して、言葉を中断した。
「遠慮はいらないわよ。アタシと勇斗とは、昔は一緒に寝た仲だもんね」
桃花がドヤ顔で、七海を横目に見る。
優秀なオレをスカウトしたい七海に、対抗意識を燃やしてるっぽい。
水瀬 七海は、片桐の知人の娘である。青みがかった黒のショートカットで、しなやかでスラリとして、女の人って感じのボディラインの、ボーイッシュな女子高生である。
フロあがりのタンクトップに短パンで、露出が多い。
片桐母には、部屋数だけは多いから好きに使っていい、と言われてる。泊まる人数より部屋の方が多い。余裕の一人一部屋である。
「そそそそそれはっ!? わわわたわたわたしがっ! メッ、メチャクチャにされる流れでしょうかっ?!」
琴音が顔をさらに真っっっっっっっっ赤にして、興奮して、さらにパニクった。
さすがは桃花の数少ない友だちである。桃花を分かってる。
「桃花は、寝相が悪い」
オレは、冷静に、掌を桃花に向けて、制止した。
桃花も赤面した。
「ちょっ?! 寝相って、小学生の頃の話でしょ!」
「今の桃花が寝惚けて、加減なしで一般人を蹴ったらどうなるか、分かるな?」
オレは構わず、桃花にも分かる程度に遠回しに、現実を突きつけた。
一瞬、静かになった。
「それは確かに、メチャクチャになるわね……」
「メチャクチャにされますね……」
桃花も琴音も蒼褪めて、納得した。
夜は広い部屋に一人で、畳に布団を敷いて、広々と寝た。静かで、星明かりが差して、波の音が聞こえた。
◇
「うおぉー! 海だぜぇ! ナンパだぜぇ!」
二日目は、休日のレジャープールの混雑を避けて、近くの小さな海水浴場に来た。オレより先に、古堂が海に叫んだ。
古堂 和也は、オレや桃花の近所に住む大学生である。金髪を逆立て、ヒョロい体に黒のブーメランパンツの、派手な出で立ちの男である。
「戦闘系の『スナイプ』で? 一般人並みのランクDって。どうして、魔狩になったんだい?」
競泳水着に白いTシャツの七海が、呆れ気味に率直な感想を述べた。
「弱いでしょ。ザコでしょ。ビックリでしょ」
フリルのヒラヒラしたカワイイ系の水着の桃花が、笑いながらバンバンと古堂の背中を叩く。
「やめろ、バイオレンス絢染! 本気で痛い!」
古堂のヒョロい背中に赤い手形がついた。
「……バイオレンス絢染?! まさか、あの、光速のライトニング様と共闘を果たした超新星じゃないか!」
七海がビックリした。
オレは、爆発しそうな称号だ、と思った。
「キュートなスーパールーキーって呼んでくれる?」
桃花が不服を気取りながら、自慢げに踏ん反り返る。
胸が小さいから、やっぱり子供水着に見える。
「仲良くやってるようだな。安心した」
わざわざ様子を見に来たのか。黒いスーツ姿の片桐が、道路から砂浜へと降りてくる。
片桐は、背が高く痩せ型で、サングラスと整った髭と、左瞼の縦の傷痕が特徴的な、哀愁漂う渋いオッサンだ。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第46話 EP8-6 夜→二日目/END