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第50話 EP8-10 広域回遊型

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


「ほら! あそこ!」

 あわ水色みずいろのワンピースの七海ななみ先導せんどうされて、まち商店街しょうてんがいた。

 ちいさなスーパーが一軒いっけんとコンビニが一軒ある以外いがいは、年季ねんきはいった個人こじん商店しょうてんのきつらねる、こじんまりとしたところだ。


 歩道ほどうはし子供こどもたちとちがい、路地ろじから商店街しょうてんがい裏手うらてはいる。さらにすこって、ふるぼけたビルの自動じどうドアをくぐる。

 なかは、たことある制服せいふく受付嬢うけつけじょうや、廉価品れんかひんじゃない武器ぶきこしにさげる大人おとなたちの姿すがたがある。


たのしいとこってったのに! ここ、魔狩まかりギルドじゃん!」

 ノースリーブにミニスカートの桃花ももか不満ふまんうったえた。

「この地域ちいき担当たんとうする、魔狩まかりギルド支部しぶですね」

 フリルやレースがいっぱいでキュートな私服しふく琴音ことねも、不満ふまんげに同意どういした。


 七海ななみ二人ふたりかえって、困惑顔こんわくがおく。

「キミたちはさそってないだろ? そもそも、どこにくとおもったんだい?」

「どっかあそべるとこ!」

 桃花ももか堂々どうどう即答そくとうした。

「そっ、それはっ……」

 琴音ことねは、なぜか赤面せきめんして、あかかお両手りょうておおった。


 古堂ふるどうまちにナンパにった。レジャープールは親子おやこれだらけ、海水浴場かいすいよくじょうおとこだらけで、まだ一度いちど成功せいこうしてないそうだ。


   ◇


「おはようございます、水瀬みなせさん」

「おはようございます。資料室しりょうしつ使つかいます」

 受付嬢うけつけじょう七海ななみかおパスで、受付うけつけカウンターのおくはいった。ならつくえいそがしそうな職員しょくいんたちのあいだけて、職員しょくいんようのエレベーターにった。


 当然とうぜんながら、ギルド職員しょくいん以外いがい勝手かってはいれないエリアだ。

「ママが、この支部しぶ支部しぶちょうなんだ」

 オレの疑問ぎもんさっした七海ななみが、ボーイッシュに説明せつめいした。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 エレベーターが上階じょうかいまる。

 上階じょうかいは、役職やくしょくたか職員しょくいんしか使つかえない部屋へやがあったりする。オレがはいったことのある部屋だと、桃花ももかのインタビューにった防音ぼうおん応接室おうせつしつたかかいにある。


資料室しりょうしつって、職員しょくいんしか利用りようできないヤツっすか?」

 ドアがひらいて、エレベーターをりる。

「そうさ。一般いっぱん開放かいほうされてるよりも、おおくの情報じょうほう閲覧えつらんできる」

 七海ななみたのしげにこたえた。

 なるほど、たのしいことをおしえてあげる、とはそういうことか。


   ◇


七海ななみ?! また賞金しょうきんかせぎの真似事まねごとをしている、っていたわよ!」

 廊下ろうかにいるオバサンが、唐突とうとつこえあらげた。

 スカートスーツで、きっちりと容姿ようしととのえた、化粧けしょうい、しのつよそうなオバサンだ。状況じょうきょうてきに、七海ななみ母親ははおや、つまりは、この魔狩まかりギルド支部しぶ支部しぶちょうだろう。


「うわぁ……。ママ……」

 七海ななみ露骨ろこつまずそうにする。

 水瀬みなせママが、カツカツとヒールをらして、七海ななみまえつ。

今度こんどなに? こんな子供こどもんで……」

 オレたちにチラと視線しせんけたとおもいきや、まるくして、琴音ことねかたおもいっきりつかむ。

「もしかして、『白銀のシルバーフレア』?! わたし支部しぶなさい! 厚遇こうぐうするわ!」

「ひっ!? ひぃぃぃっっっ?!」

 琴音ことね迫真はくしん悲鳴ひめいをあげた。


 つづいて、桃花ももかかたおもいっきりつかむ。

「あらあらあら、『バイオレンス絢染あやそめ』も! わたし支部しぶなさい! 厚遇こうぐうするわ!」

「……」

 桃花ももかは、怪訝けげんそうににらかえした。こいつはいつもこうだ。


 さらに、おもいもしなかった、オレのかたおもいっきりつかむ。

遠見とおみ 勇斗ゆうと、『スコーパ』まで! わたし支部しぶなさい! 直属ちょくぞく部下ぶかにしてあげるわ!」

「ひっ!?」

 化粧けしょういオバサンの迫力はくりょくに、おもわず、悲鳴ひめいそうになった。いや、たぶん、た。


   ◇


 無事ぶじ資料室しりょうしついた。パーテーションで仕切しきられた、パソコンがなら部屋へやだ。

「ママが、ああいうひとで、ゴメンな」

 苦笑にがわらいであやまりながら、七海ななみせきひとつにすわる。

 水瀬みなせママは、会議かいぎばれてっていった。会議かいぎわったらまたるとっていた。

 そのまえかえりたい。かえる。かならかえってみせる。


「で、たのしいこと、なんだけど」

 七海ななみがパソコンを操作そうさする。オレと桃花ももかうしろからのぞむ。琴音ことねおびえきって、あれからずっと桃花ももかうでにしがみつく。

 モニターに、地図ちず表示ひょうじされる。海岸線かいがんせんと、あかまると、数字すうじがある。

各年かくとし地域ちいきごとの、水難すいなん事故じこかずっすね。水生すいせい狭魔きょうま関連かんれんしてるものもある、ってことっすよね?」


「さすが『スコーパ』。さっしがいいね」

 表示ひょうじが、もっと広域こういき地図ちずわる。

水生すいせい狭魔きょうまには、うみ広域こういき回遊かいゆうするタイプがいる。巡回じゅんかいがた広範囲こうはんいバージョンってかんがえて」


 狭魔きょうまにも、活動かつどう範囲はんいのパターンがある。定点ていてん魔力体まりょくたい狭魔きょうま一定いってい範囲はんい巡回じゅんかいする雷獣らいじゅう不規則ふきそくくままのスライム、みたいなかんじである。


「この範囲はんいで、数年すうねんごとに、規則的きそくてき水難すいなん事故じこえるとしがあるだろ? そこから、広域こういき回遊かいゆう前提ぜんてい仮説かせつてると、こういう回遊かいゆうコースが推測すいそくできる」

 七海ななみがマウスカーソルをうごかす。自信じしんありげな口調くちょう声音こわねである。


「でも、仮説かせつは仮説っすよね。たん水難すいなん事故じこえる原因げんいんが、あついとかあめおおいとか、あっただけかもれないっす。水生すいせい狭魔きょうまがいる、ましてや『まがつ』がいるとする根拠こんきょには、よわすぎるっす」

 オレは慎重しんちょうに、思考しこうをフル回転かいてんさせながら、反論はんろんした。


「それに、未討伐みとうばつの『まがつ』なら、襲撃しゅうげき情報じょうほうがないのはおかしいっす。そんなの、狭間はざまんだひと全員ぜんいんころしでもしないと」

 つよすぎる狭魔きょうまおそわれることはない。水中すいちゅう狭間はざままれるにしても、生存者せいぞんしゃがいないとはかんがえづらい。


もうわけないっすけど、曖昧あいまいもいいとこ、確証かくしょうがなさすぎっすね。そのデータじゃあ、ギルドはうごいてくれないっす。個人こじんうご魔狩まかりだっているかどうか」

 いかけて、オレはさっした。

「そう、だからこそさ。もし、認知にんちすらされていない『まがつ』がいるとしたら。今年ことし、あの海岸かいがんで、ボクだけが討伐とうばつのチャンスをられるとしたら」


 情報じょうほうなしの討伐とうばつ困難こんなんな『まがつ』を独力どくりょく退治たいじすれば、力量りきりょう知能ちのう技量ぎりょうすべてをたか評価ひょうかされる。

 邪魔じゃま競争きょうそう相手あいてはいない。純粋じゅんすいに、発見はっけんできるかどうか、たたかっててるかどうか、だけで結果けっかせる。


 みずからに自信じしんのある魔狩まかりなら、これほどくシチュエーションはないだろう。オレ自身じしん、これにかかわって七海ななみのサポートができるならたのしいだろうと、理解りかいしてしまった。


 オレは意図いとせず、口元くちもとゆるませた。七海ななみが、好反応こうはんのうて、ボーイッシュに微笑びしょうした。


マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第50話 EP8-10 広域こういき回遊かいゆうがた/END

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