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第52話 EP8-12 準備は整った

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


「どうして! いるかもからない『まがつ』に! こんなにコストをかけなきゃいけないのよ!?」

 うみせま砂浜すなはまで、水瀬みなせママがヒステリックにわめいた。

「それが魔狩まかりギルドの存在そんざい理由りゆうだろう?」

 片桐かたぎりが、当然とうぜんこたえた。

「そんなだから、あなたの支部しぶ討伐とうばつりつひくいのよ! 優秀ゆうしゅう魔狩まかり何人なんにんかかえて、たからぐされって陰口かげぐちたたかれるのよ!」


「ってことで、片桐かたぎりさんに説得せっとくをおねがいしたっす」

 オレは、砂浜すなはま設置せっちされた簡易かんいのイスにすわって、説明せつめいする。


 片桐かたぎりは、くろいスーツ姿すがたの、おやよりも年上としうえくらいのしぶいオッサンである。たかがたで、サングラスとととのったひげひだりまぶたたて傷痕きずあと特徴的とくちょうてきで、哀愁あいしゅうただよう。


 間近まぢか岩場いわばあらなみくだけて、しおつよい。なつ真昼まひる日差ひざしとあつさに、みず飛沫しぶき心地ここちい。

「あのママが説得せっとくおうじるわけない。いったい、なにをしたんだい?」

 水色みずいろ競泳きょうえい水着みずぎにマーメイドの脚鰭あしひれで、七海ななみ簡易かんいのイスにすわる。かおには、疑念ぎねん理解りかい不能ふのう驚愕きょうがくじる。


 水瀬みなせ 七海ななみは、片桐かたぎり知人ちじんむすめである。あおみがかったくろのショートカットで、しなやかでスラリとして、おんなひとってかんじのボディラインの、ボーイッシュな女子じょし高生こうせいである。


 海水浴場かいすいよくじょうはしにいる。とおめにたのしげな歓声かんせいこえてくる。

 まわりでは、魔狩まかりギルドの職員しょくいん天幕てんまくったり、機材きざい調整ちょうせいしたり、交通こうつう規制きせいしたり、あわただしくする。


「スコーパのなまデータよ!」

 水瀬みなせママがあくおんな幹部かんぶみたいなみで、オレをゆびさした。


 水瀬みなせママは、七海ななみ母親ははおやである。スカートスーツで、きっちりと容姿ようしととのえた、化粧けしょうい、しのつよいオバサンである。ここの支部しぶ支部しぶちょうでもある。


 七海ななみが、わかおとこ母親ははおやるみたいに、ドンきのでオレをた。

「そのをオレにけるのは、おかしいっすよね?」

 オレは困惑こんわくしつつ抗議こうぎした。


狭魔きょうま情報じょうほう加工かこうされるまえの、スコーパによる観察かんさつ情報じょうほう交換こうかん条件じょうけんにしたのよ。狭魔きょうま狭間はざま魔狩まかり部外者ぶがいしゃ閲覧えつらんできるようになるまでにとされた、貴重きちょう情報じょうほうかたまりよ」

 水瀬みなせママが、誤解ごかいくのに十分じゅうぶん補足ほそくをしてくれた。たすかった。

「そんなことだろうとおもった」

 七海ななみあきがおいきをついた。


「あれを片桐かたぎり支部しぶ独占どくせんなんて、ズルいわ。なに狭魔きょうまのデータ収集しゅうしゅうよ。わたしなら、狭間はざま解明かいめいにだってつなげてみせるのに」

 水瀬みなせママの力説りきせつに、片桐かたぎりもオレもかんがえる。

「それは流石さすがむずかしいだろう?」

「そこまでの価値かちはないとおもうっす」

「あたなたちは、かってないわ。えるとは、研究けんきゅうできるってことよ。遠見とおみ 勇斗ゆうと、あなたはわたし部下ぶかになるべきなのよ」

 水瀬みなせママが、完全かんぜんあくおんな幹部かんぶ勧誘かんゆうくくった。


「ママが、こういうひとで、ゴメンな」

 七海ななみ苦笑にがわらいであやまった。


   ◇


 水瀬みなせママが七海ななみる。

「それより七海ななみ本当ほんとう大丈夫だいじょうぶなの? 場所ばしょ時期じき時間帯じかんたい、ランク。どれかひとはずしても、すべてが無駄むだになるのよ?」

大丈夫だいじょうぶだよ、ママ。数年前すうねんまえ、この砂浜すなはまよるのトレーニングを日課にっかとしていたランクAの魔狩まかりが、溺死体できしたい発見はっけんされた。不運ふうん事故じこ処理しょりされてるけど、被害者ひがいしゃ一人ひとりとボクはかんがえる」

 七海ななみ自信じしん口調くちょうこたえた。


 七海ななみすごい。情報じょうほう収集しゅうしゅう能力のうりょくが、情報じょうほうりょうすごい。水生すいせい狭魔きょうま特化とっかして、調査ちょうさ執念しゅうねんすごい。


「ランクBの魔狩まかりも、被害者ひがいしゃらしき事故じこがあるから、ねらわれる力量りきりょうはランクBとランクAの境目さかいめ前後ぜんごだろうね」

「ふぅむ。七海ななみも、そのくらいのランクだったわよね?」


 場所ばしょとランクはいい。時期じきは、今年ことしなつ、『まがつ』がるまでねばる。時間帯じかんたいは、……よる

よるって、じゃあ、どうして、オレたち、昼間ぴるまっから待機たいきしてるっすか?」

 疑問ぎもんく。『まがつ討伐とうばつつね命懸いのちがけ、とむねきざむべし。

余裕よゆうをかまして、予想よそうはずしてたら、くやしいだろ?」

 七海ななみがボーイッシュに微笑びしょうした。


 水瀬みなせママが、かない様子ようすで、オレたちのちかくをウロウロする。苛立いらだたしげにつめむ。

沢渡さわたりはビビって仮病けびょう欠勤けっきんだし。せめて、共闘きょうとうできる『マーメイ』がいればかったのだけど」

沢渡さわたりさんも、支部しぶ所属しょぞくする『マーメイ』さ。ランクBで、力量りきりょうてきに、ボクとは共闘きょうとうできない」

 七海ななみが、オレの疑問ぎもんさきんじてこたえた。

希少きしょうな『マーメイ』が二人ふたりもいるんすね?」

うみちかくて水生すいせい狭魔きょうまるからね。ママが強引ごういんにスカウトしてきた、ってのもあるけど」

 ほか支部しぶへの協力きょうりょく要請ようせいは、ことごとくことわられた。ランクAの『マーメイ』なんて希少きしょう希少きしょう確証かくしょう皆無かいむ案件あんけん出張しゅっちょうしてくれるわけもない。


   ◇


水瀬みなせ支部しぶちょう! 準備じゅんびととのいました!」

 作業着さぎょうぎ姿すがたのギルド職員しょくいんけてきて、緊張きんちょう気味ぎみ報告ほうこくする。

海水浴場かいすいよくじょう一画いっかくですので、多少たしょう野次馬やじうまがあります。いかが対処たいしょいたしましょう?」

「ランクA相当そうとう狭魔きょうまなら、ないとおもうけど。間違まちがっても七海ななみ以外いがい狭間はざままれるとこまるから、なかにはれないように徹底てっていしなさい」

「はい! 禁止きんし徹底てっていします!」

 ギルド職員しょくいん緊張きんちょう気味ぎみ返答へんとうして、けていった。


 砂浜すなはまられた禁止きんしのテープのほうる。

 テープしに、フリル水着みずぎ桃花ももかってる。その背中せなか琴音ことねかくれる。ナンパをあきらめた古堂ふるどうも、ヒョロいからだにブーメランパンツでいる。

 ほかにも、幾人いくにんかの海水浴客かいすいよくきゃくが、こっちをてる。狭魔きょうま討伐とうばつがエンタメてき公開こうかいされることもあるから、人目ひとめいて不思議ふしぎではない。


「それじゃあ、よるまで時間じかんがあるから。将来しょうらいのファンたちにサービスしておこうかな」

 七海ななみが、簡易かんいのイスからちあがる。見物人けんぶつにんほう笑顔えがおり、マーメイドの脚鰭あしひれねて、うみへとはいる。


 自身じしん過信かしんして油断ゆだんしてる、ってわけじゃないだろう。


 七海ななみ海面かいめんかぶ。脚鰭あしひれ器用きようおよぎ、うみもぐり、海上かいじょうたかびあがる。なつ日差ひざしがみず飛沫しぶきにキラキラと反射はんしゃして、見物人けんぶつにんから歓声かんせいがあがる。


 七海ななみは、いま一生いっしょう懸命けんめいきているのだ。『まがつ』とたたか危険性きけんせい理解りかいして、なにがあろうと後悔こうかいしないように、いつかゆめかなえるを、まえだけをすすんでいるのだ。


 オレは、素直すなおうらやましくおもった。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第52話 EP8-12 準備じゅんびととのった/END

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