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第53話 EP8-13 尻尾を掴む

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 すっかりくらよる浜辺はまべに、なみおとかえす。月明つきあかりに薄明うすあかるく、海面かいめんくろれる。視界しかいわるぶんしお昼間ひるまよりつよかんじる。


観客かんきゃくがいなくなっちゃったなあ」

 七海ななみ簡易かんいのイスにすわって、海水浴場かいすいよくじょうほう残念ざんねんそうにまわす。


 水瀬みなせ 七海ななみは、あおみがかったくろのショートカットで、しなやかでスラリとして、おんなひとってかんじのボディラインの、ボーイッシュな女子じょし高生こうせいである。水色みずいろ競泳きょうえい水着みずぎにマーメイドの脚鰭あしひれで、もりのアームボウガンと背負せおったもり武装ぶそうする。


 昼間ひるま混雑こんざつうそみたいに、よるにはまばらにしかひとがいない。だれおよいでないし、砂浜すなはまあるいたり、うみながめている。

 砂浜すなはまられた禁止きんしのテープのちかくに、見物人けんぶつにんがいるはずもない。


桃花ももかたちは、夕飯ゆうはんんだらまたるそうっす。わなかったらゴメン、ってメールがあったっす」

 オレも簡易かんいのイスにすわって、よるうみながめながらこたえた。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


環境かんきょう数値すうち変動へんどうありません!」

ちいさな変化へんか見落みおとさないように! らさず記録きろくしなさい!」

 まわりでは、水瀬みなせママも片桐かたぎり魔狩まかりギルドの職員しょくいんも、あわただしくする。

 しずかなこともロマンチックなことも、全然ぜんぜんない。


   ◇


 七海ななみ不意ふいに、オレをつめた。興味きょうみ津々しんしんに、ひとみかがやいていた。

「ねぇ、『スコーパ』って、勇斗ゆうとクンって。だれかのたたかいをていて、こわいっておもったことはないのかい?」

 唐突とうとつに、むずかしい質問しつもんだ。

「えっ? ええっと……」

 オレはまよう。

「……運好うんよく、オレがサポートするのは『バイオレンス絢染あやそめ』と『白銀のシルバーフレア』、つよすぎるくらいにつよ魔狩まかりっす。この二人ふたりこわいとおもったことはないっすけど、ほか魔狩まかりたたかいを偶然ぐうぜん目撃もくげきしたときは、こわかったっす」

 見知みしらぬひとがモンスターにおそわれてるのに遭遇そうぐうすれば、こわいにまってる。だから、七海ななみ質問しつもん意図いとは、そこじゃない。


「だったら、たとえばボクは? キミがサポートしたボクが、『まがつ』とたたかって、ころされるかもれない。かかわってこわいとか、係わって後悔こうかいしてるとか、ないのかい?」

 そうだ。質問しつもん意図いとは、七海ななみかかわったことを、こわかったり後悔こうかいしてないか、だ。


 オレは、即答そくとうする。

こわいっす。でも、後悔こうかいはしてないっす。かかわるのをこばんで、それでなれたほうが後悔するにまってるっす」

 あのときアドバイスのひとつでもしてればなずにんだかもれないのに、みたいな後悔こうかいほういやだ。かかわってないからオレに責任せきにんはない、みたいな呵責かしゃく一生いっしょうくるしむのも絶対ぜったいいやだ。

「それなら、よかった」

 七海ななみがボーイッシュにわらった。


   ◇


 くらよる浜辺はまべに、なみおとかえす。岩場いわばあらなみくだける。しおが、一際ひときわつよくなる。

勇斗ゆうとクン。やっぱり、ボクとコンビをもうよ」

正直しょうじき中学生ちゅうがくせい遠距離えんきょり無理むりっす」

 オレは、これも即答そくとうする。

「それに、オレにはもも

「ふふっ」

 七海ななみ微笑びしょうして、人差ひとさゆびさきをオレのくちびるれた。

 オレはドキッとして、おもわずだまった。


いますぐじゃなくても、勇斗ゆうとクンが高校生こうこうせい大学生だいがくせい社会人しゃかいじんになって、ボクのちかくにむことになったら。おな学校がっこう勤務きんむさき放課後ほうかご退社後たいしゃごえるとかでもいい。返答へんとうは、そのときまでにめてもらえれば、できたらオーケイしてもらえたら、うれしいかな」

 七海ななみがボーイッシュに、すこ気恥きはずかしげに、はにかんだ。

「えっ? あっ、はい。そういうことなら」

 オレの混乱こんらん気味ぎみ返答へんとうに、七海ななみ笑顔えがおで、イスからちあがる。マーメイドの脚鰭あしひれねて、よるうみへとかう。

「やっっっっった! オオアタリ! 約束やくそくしたからね!」


 しおがさらにつよく、空気くうきわった。


 すごい!

 水生すいせい狭魔きょうま特化とっかした、七海ななみ情報じょうほうりょうが、執念しゅうねんが、ついに未発見みはっけん狭魔きょうまつかんだのだ。


   ◇


 灰色はいいろみずたされた狭間はざまに、人間にんげん上半身じょうはんしんさかな下半身かはんしんで、人魚にんぎょのシルエットをした狭魔きょうまがいる。

 でも、全身ぜんしん暗緑色あんりょくしょくうろこおおわれている。かおうろこおおわれて、おおきなけたくち異様いよう赤色あかいろひかる。マーメイドよりも、うみのモンスターめいた風貌ふうぼうである。


 それは、しろすな水底みなそこに、くろいわす。

 狭間はざまくらく、はるうえ水面すいめんなんてえるはずもない。ふかく、ふかく、ただ静寂せいじゃくちていた。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第53話 EP8-13 尻尾しっぽつかむ/END

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