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第54話 EP8-14 マーメイド

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 よる浜辺はまべで、七海ななみ狭間はざままれた。

 おのれ実力じつりょくしめすべくねらいをさだめた狭魔きょうまを、ついにとらえたのだ。


 灰色はいいろみずたされた狭間はざまに、マーメイドの姿すがたおよ七海ななみがいる。


 オレは遠見とおみ 勇斗ゆうと。この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちだから、見える。


 狭魔きょうまは、しろすな水底みなそこに、くろいわす。人間にんげん上半身じょうはんしんさかな下半身かはんしん、この狭魔きょうま人魚にんぎょのシルエットをしている。

 でも、全身ぜんしん暗緑色あんりょくしょくうろこおおわれる。かおうろこおおわれて、おおきなけたくち異様いよう赤色あかいろひかる。マーメイドよりも、うみのモンスターめいた風貌ふうぼうである。


 狭間はざま灰色はいいろみずたされる。くらく、はるうえ水面すいめんなんてえるはずもない。ふかく、ふかく、ただ静寂せいじゃくちる。


今度こんどこそ! アタリかい?!」

 七海ななみ脚鰭あしひれおおきくおよいで、人魚にんぎょ狭魔きょうまとの距離きょり一気いっきめた。

 人魚にんぎょ狭魔きょうまは、ひざげるみたいにさかな下半身かはんしんなかばでげて、くろいわしたまま、うごかない。

 よし! 初動しょどうは、圧倒的あっとうてき七海ななみはやい。


 人魚にんぎょ狭魔きょうまが、あかくちおおきくひらく。うろこおおわれたかおが、悪意あくいわらうようにゆがむ。

「……くっ!?」

 七海ななみおよぎをとめた。あたまさえて、よじり、くるしみはじめた。


   ◇


 なにきたか、オレにはからない。……ちがう。それをくのが、『スコーパ』の存在そんざい意義いぎだ。


 灰色はいいろみずが、れてえる。人魚にんぎょ狭魔きょうま中心ちゅうしんに、えるかぎりがれている。

 音波おんぱ攻撃こうげきか。大音量だいおんりょうでダメージをあたえてくる狭魔きょうまがいる、と資料しりょう記憶きおくがある。その水中すいちゅうばんか。


 七海ななみあたまさえ、くるしむ。苦痛くつうかおしかめ、くるしみつづける。

 音波おんぱ相手あいて苦痛くつうあたえてうごけなくする狭魔きょうまのようだ。厄介やっかいだ。


 人魚にんぎょ狭魔きょうまが、うごけない七海ななみに、なにもしない。ちかづきもしない。くろいわし、あかくちおおきくけ、音波おんぱ攻撃こうげきつづける。


 七海ななみ表面的ひょうめんてきなダメージはない。出血しゅっけつきずもなく、くるしみうごけずにいるだけだ。

 これなら、音波おんぱ攻撃こうげき途切とぎれるまでえて、途切とぎれたらそく反撃はんげきで、活路かつろはある。皆殺みなごろしの『まがつ』かもれないと不安ふあんだったが、問題もんだいない。むしろ、いや、でも、簡単かんたんすぎないか?

 オレは不可解ふかかいくびかしげた。……っ?! 完全かんぜん理解りかいして、蒼褪あおざめた。


 もしも、相手あいて窒息ちっそくするまで音波おんぱ攻撃こうげきつづけるヤツだとしたら。うごきをふうつづけて、ひたすら窒息ちっそくつヤツだとしたら。

 そんなのズルい。てるわけない。まれてびた人間にんげんがいなくても、納得なっとくがいく。

 だったら、七海ななみいきは、どのくらいもつ? マーメイだから一般人いっぱんじんよりはながいか? マーメイでも人間にんげんだから、水中すいちゅう呼吸こきゅうはできないはずだ。


 あぁ、ダメだ。

 オレがここでいく分析ぶんせきしても、つぎにしかかせない。いままさにくるしむ七海ななみたすけには、なれない。

 このたたかいの結果けっかは、オレじゃえられない。


   ◇


 周囲しゅうい大人おとなたちがさわす。

 このでオレしか、この世界せかいから狭間はざまえない。オレの動揺どうよう不安ふあんが、かおてしまったのか。


 ヤバい。七海ななみくるしみつづける。人魚にんぎょ狭魔きょうま音波おんぱ攻撃こうげきつづける。

 オレは、恐怖きょうふした。絶望ぜつぼうした。おおいたかった。


 不意ふいに、かたかれた。

「ハァハァ、ゴメン。ゆうはん美味おいしくて、ハァフゥ、おそくなったわ、フゥ」

 いきらせてけつけた桃花ももかだった。

 桃花ももかが、きそうなオレのかおて、力強ちからづようなずく。

なんだかかんないけど。七海ななみしんじなさい」


 そう、そうだ。七海ななみはオレをしんじてくれた。オレは、オレのサポートした七海ななみしんじなくちゃいけない。

 恐怖きょうふみ、くちびるかたむすぶ。絶望ぜつぼうあらがい、狭間はざま見据みすえる。


 くるしむ七海ななみが、くちからおおきな気泡きほうをはきした。大きな気泡に、あたまんだ。


 ……すごい! すごすごすごい!

 それだけなら、あわてて、パニックで、断末魔だんまつまのムダな足掻あがきにえる。


 七海ななみくるしむのをやめて、もりのアームボウガンをかまえる。


 水中すいちゅう伝播でんぱする音波おんぱ攻撃こうげきだから、空気中くうきちゅうでは効力こうりょくをほぼうしなう。

 うごけなくなるほどの苦痛くつうなかで、七海ななみ状況じょうきょう分析ぶんせきし、対処法たいしょほうみちびした。水生すいせい狭魔きょうま特化とっかした、七海ななみ情報じょうほうりょう執念しゅうねんが、皆殺みなごろしの『まがつ』を凌駕りょうがしたのだ。


 されたもりが、人魚にんぎょ狭魔きょうまかたさった。

 人魚にんぎょ狭魔きょうま悲鳴ひめいのようにかおゆがめる。うろこもりこうとするが、穂先ほさきかえしがあるからけない。


 音波おんぱえた灰色はいいろ水中すいちゅうを、七海ななみがマーメイドの華麗かれいさでおよぐ。

 人魚にんぎょ狭魔きょうまが、はじかれたようにうえへとし、およいでげる。

 七海ななみ手持てもちのもりりかぶった。

 背中せなかせてげる程度ていど狭魔ヤツに、オレのサポートした七海ななみけるわけがない。


   ◇


 なつ夜空よぞらから、小石こいしちてくる。狭魔きょうまたおすと、えて小石こいしわる。


 数歩すうほ前方ぜんぽうちてくる小石こいしをキャッチしようと、七海ななみがマーメイドの脚鰭あしひれ砂浜すなはまねる。一本型いっぽんがた尾鰭おひれ形状けいじょうだけあって、地上ちじょうでの機動性きどうせいわってる。


 七海ななみ転倒てんとうした。ボスッ、と砂浜すなはまむねからたおれた。


大丈夫だいじょうぶっすか?」

 オレは、七海ななみ無事ぶじ安堵あんどして、こえをかけた。

「あははははっ!」

 七海ななみたのしげにわらった。

「あはっ。あははっ」

 オレも、けて、られるようにわらった。


『ワーッ!』

 片桐かたぎり水瀬みなせママとギルド職員しょくいんたちと、すくないながら見物人けんぶつにんたちからも、しみない歓声かんせい喝采かっさいおくられた。


ミンナ! 声援せいえんありがとーっ!」

 七海ななみ見事みごとに、未発見みはっけんだった『まがつ』を討伐とうばつした。自身じしんゆめへと、第一歩だいいっぽしたのだ。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第54話 EP8-14 マーメイド/END

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