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第55話 EP8-15 一夏の思い出

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


「あぁ、もぅっ。『最上さいじょうまがつ』をたおしたキュートなスーパールーキーが、どうして夏休なつやすみの宿題しゅくだいくるしまなきゃいけないのよ」

 桃花ももかが、ひくあつ食卓しょくたくして愚痴ぐちった。


 絢染あやそめ 桃花ももかは、学校がっこう勉強べんきょうきらいである。オレの幼馴染おさななじみの女子じょしで、十四さい中学生ちゅうがくせいで、桃色ももいろながかみで、華奢きゃしゃで、むねちいさい。

 いつもの私服しふく、ノースリーブにミニスカート姿すがたで、こし自身じしんどうサイズの両刃りょうば大剣たいけんをさげる。


 オレと桃花ももか琴音ことね七海ななみで、ひくあつ食卓しょくたくかこむ。あさから夏休なつやすみの宿題しゅくだいはげむ。たたみ部屋へやで、座布団ざぶとんいて、正座せいざとか胡坐あぐらとか、おもおもいにすわる。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


「まだってる。ちゃんと宿題しゅくだいする約束やくそくだろ、桃花ももか

 オレは、かた決意けついうながした。

 桃花ももかのおかあさんからの、オレの幼馴染おさななじみとしての信用しんようかってる。もうあとがない。今度こんどこそ、ミッションを達成たっせいしてみせる。


皆殺みなごろしの『まがつ』を討伐とうばつした未来みらいのアイドル候補こうほが、どうして夏休なつやすみの宿題しゅくだいくるしまなきゃいけないのさ?」

 七海ななみも、ひくあつ食卓しょくたくして愚痴ぐちった。


 水瀬みなせ 七海ななみは、片桐かたぎり知人ちじんむすめである。あおみがかったくろのショートカットで、しなやかでスラリとして、おんなひとってかんじのボディラインの、ボーイッシュな女子じょし高生こうせいである。

 タンクトップにたんパンで露出ろしゅつおおく、もり背負せおう。


 七海ななみ桃花ももかてるとおもう。つよいとことか、自信家じしんかのとことか、勉強べんきょうぎらいなとことか。興味きょうみあることへの情熱じょうねつも、てる。


「わっ、わたしたちはっ。まか魔狩まかりでああるまえに、がっ、学生がくせいっ、ですからっ」

 琴音ことねだけは、正座せいざして背筋せすじばして、熱心ねっしん宿題しゅくだいすすめる。知識ちしきたたかう『ウィッチ』だけあって、琴音ことね勉学べんがく得意とくいである。横目よこめにチラチラと桃花ももかにする余裕よゆうすらある。


 真奉しんほう 琴音ことねは、オレと桃花ももかのクラスメートである。銀縁ぎんぶちまるメガネに灰色はいいろながかみみにして、小柄こがらむねおおきい人見知ひとみしりの女子じょしである。フリルやレースがいっぱいのキュートな私服しふくこのむ。


   ◇


「おはよう、諸君しょくん勉強べんきょうちゅうもうわけないが、すこしいいかね?」

 くろいスーツ姿すがた片桐かたぎりが、ドーナツのはことクーラーボックスをかかえてあらわれた。


 片桐かたぎりは、たかがたで、サングラスとととのったひげと、ひだりまぶたたて傷痕きずあと特徴的とくちょうてきな、哀愁あいしゅうただよしぶいオッサンである。


「あたし、アイス! ソーダのヤツ!」

 桃花ももかが、おろされるまえのクーラーボックスをけ、なかのアイスをあさる。すっかりこのうちである。


「ボクはカフェオレのヤツ!」

 七海ななみ桃花ももかならんで、クーラーボックスのなかのアイスをあさる。


「あ、片桐かたぎりオジサン。勉強べんきょうほう休憩きゅうけいちゅうだから、大丈夫だいじょうぶさ」

「まだ宿題しゅくだいはじめたばっかりっす」

 オレはオレで、七海ななみ桃花ももかおなじノリでツッコめるようになった。成長せいちょうした。


「お手柄てがらだったわ、七海ななみ

 おおっと?! 水瀬みなせママまであらわれた。

「ひぃぃぃっっっ?!」

 琴音ことね迫真はくしん悲鳴ひめいをあげた。不格好ぶかっこうつんいであわててげて、桃花ももか背中せなかかくれた。


 水瀬みなせママは、七海ななみ母親ははおやである。スカートスーツで、きっちりと容姿ようしととのえた、化粧けしょうい、しのつよいオバサンである。


報告書ほうこくしょせたから、わたし支部しぶ評価ひょうかもあがるわね。遠見とおみ 勇斗ゆうと、『スコーパ』の協力きょうりょくのおかげも、感謝かんしゃするわ」

 水瀬みなせママからオレに、化粧けしょういオバサンのウィンクがはなたれた。

 背筋せすじに、ゾワワワッ、と悪寒おかんはしった。


会議かいぎがあるからかえるけど」

 水瀬みなせママがむねポケットから名刺めいしす。部屋へやほうげる。

 名刺めいし三枚さんまい、キレイなえんえがいて天井てんじょうぶ。ゆるやかに下降かこうして、オレと桃花ももか琴音ことねおさまる。

名声めいせいしくなったら、いつでもわたし支部しぶなさい。歓迎かんげいするわ」

片桐かたぎりさんのとこが、うちからちかいから」

 桃花ももか微塵みじんどうじずにかえした。

 幼馴染おさななじみながらたのもしい。こういうときたよりになる。


 水瀬みなせママは微笑びしょうして、けて、廊下ろうかあるる。

 オレは、見届みとどけてから、安堵あんどいきをついた。

「おいおいおい。あのオバハン、『スナイプ』かぁ? 三点さんてんちが正確せいかくすぎだぜぇ」

 くろかわジャンかわパンツの古堂ふるどうが、奇妙きみょうななめったポーズで事情通じじょうつうぶった。


「ママが、ああいうひとで、ゴメンな」

 七海ななみ苦笑にがわらいであやまった。


   ◇


 片桐かたぎりも、むねポケットから名刺めいしす。七海ななみす。

七海ななみちゃんに、『魔狩まかり通信つうしん』から取材しゅざいもうみがあった。わか魔狩まかりにスポットをてるちいさなコーナーだそうだが、けてみるのもいいだろう」

「えっ?! 本当ホントに?!」

 七海ななみがビックリして、ふるえる名刺めいしった。

「やっっっっった! オオアタリ!」

 名刺めいしひかりかざして、感動かんどうひとみをキラキラさせる。


「ふっ、ふ~ん。七海ななみも、アタシにいついてきたってわけ? ま、まぁ、アタシは、特集とくしゅう記事きじだったけど」

 桃花ももか動揺どうよう口調くちょうで、キョドりながらつよがった。

桃花ももかのは、最強さいきょうひとのオマケだっただろ」

 オレは、普段ふだんのノリでツッコむ。したしんだ雰囲気ふんいきく。


勇斗ゆうとクンのおかげだよ! キミのサポートで、ボクはひとつよくなれた!」

 七海ななみがオレのうできついた。ビックリした。

 タンクトップからあふれるむねやわらかさを、うでじかれてかんじて、ドキドキもする。


「やっぱり、ボクと、コンビをもう。ボクは、もっともっとつよくなりたい」

 七海ななみかおちかい。むね谷間たにまうではさまれて、さらにドキドキする。

「ちょっ、ちょっと?! まだってたの?! 勇斗ゆうとはアタシのパートナーなんだってば!」

 桃花ももかが、オレと七海ななみあいだんだ。


 オレも、七海ななみのサポートをして、ひと成長せいちょうしたがする。桃花ももか琴音ことねでは絶対ぜったいることのできなかった世界せかいを、ったがする。


 オレは、こころからの笑顔えがおこたえる。

約束やくそくどおりに、大人おとなになってから、ってことで」

「え~~~?!」

 七海ななみ不満ふまんげにブーイングした。

「なにそれ!? なにそれ!?」

 桃花ももかが、裏切者うらぎりものつめたいで、オレと七海ななみ交互こうごにらんだ。


 皆殺みなごろしの『まがつ』の討伐とうばつは、一夏ひとなつおもとするには強烈きょうれつすぎた。一生いっしょうわすれないだろう。

 そして、オレにひとつのみちしめした。

 つよひとでも、そうじゃないひとでも、サポートする。一緒いっしょにはたたかえないけど、ささえて、こころ一緒いっしょたたかう。

 そういうかたもいいんじゃないかと、おもった。まぁ、大人おとなになってから、だけど。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第55話 EP8-15 一夏ひとなつおも/END

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